第38話 修羅場?

 意識がない叶をミルたちのもとへ送り届けると、叶の素顔を見た3人から物凄い表情で睨まれたので、走って逃げていたところ……


「む、貴女は先程の」


 Sランク冒険者1位のハイエルフさんと、ばったり遭遇してしまった。


「こんにちは……何か御用でしょうか?」


 できるだけ平然を装って答える。


 怖えぇ!何かやらかしました?見に覚えはありませんが?


「すまない。警戒させてしまったようですが、少し話したいことがあるのです」


「何かあったのでしょうか?」


「私は見ての通りハイエルフですよね?」


「……そうですね」


 実はエルフだと思っていたなんて言えない。


「ハイエルフ族は森の奥底で、精霊に助けられ、自然と調和して生きているのですが……」


 たしかに、そんなイメージがあったが、それと変わらなかったようだ。


「最近、精霊たちの様子がおかしくて……。結構昔に精霊王様がいなくなってもこんなことは起こらなかったのに、最近になって精霊たちが壊れたように人に危害を加えることが多発しているのです」


 そんなことがあったのか……。ん、精霊王?精霊王って肩書き、どっかで聞いたことあるような……。


「毎年参加してるこの大会に、妙に精霊の気配を多く感じて……何故か貴女からも精霊の気配を感じるのです」


「そうだったのですか」


 心当たりはある。


 クゥーレだ。俺の身体の中で呑気に暮らしているクゥーレのせいだな。


「まあ、分からないならそれでいいです。近くに精霊王様の気配も感じるので、手がかりを探しているんです。それでは、決勝で会いましょう」


 そう言って、クールなハイエルフは通りすぎていった。


 キツそうな見た目の人だけどいい人だったな。


 それにしても、精霊が壊れたようにおかしくなる現象か。何処かで見知っているような気もするが、気のせいか?


 まあ、今はいいだろう。今は叶のことだけを考えていたらいい。もうすぐ起きてきた頃だろうし。


 そして、叶が眠っている空間の指輪の中へ入っていく。


 そんな俺の目に写ったのは、眠りながら呻き声を上げている叶と、その寝顔を鬼のような形相で睨み付けるミルとリークであった。


「……何してんの?」


 俺がそう聞くと、二人は俺の方に視線も向けぬまま言った。


「いえ、何もしていないわ。ただ、このドロボウ猫の看病をしているだけよ」


「ええそうです。この、幼児体型のクセにデカイ胸でユウさんを誑かそうとするドロボウ猫を見張っているだけです」


「何の勘違いか分からないけど、とりあえず寝てる人に圧をかけるのはやめよう」


 俺がそう言うと、二人は叶を強く睨み付けたあと、ゆっくりと俺の方に視線を向けた。


「で、この女誰?」


「反応によっては死を覚悟する必要がありますよ?」


 怖い怖い怖い。俺はハーレム系のラブコメ主人公みたいに沢山の美少女を侍らせてイチャコラするような真似はしていない筈なのに、どうして周りの美少女から恨まれるようなことが起きるんだ?


『あんた、ホントに自覚ないの?』


『だとしたら病気だねー』


 辛辣だな!本当に俺が何をしたって言うんだ!


「何?他人に言えないようなやましい事でもあるのかしら?」


「…………」


 ミルも怖いが、それ以上にリークが怖い。そんなハイライトが消えたブラックホールみたいな目で俺を見ないでほしい。


 そして、何を思っているのか分からないが、いつも通りの無表情で俺を見つめる真理と、ニコニコとこの状況を楽しんでいるとしか思えない猫耳少女、一体どういう反応をすればいいと思う?


「……やっぱり、答えられないような事なんですか……」


「いやいやいや、そんなことない。叶はあっちの世界での俺の幼馴染み。ただそれだけだから」


 俺が早口で捲し立てるようにそう言うと、ミルはホッとしたように息を吐き、リークなんかはあからさまに上機嫌になった。


 そして、相も変わらず無表情の真理と、面白くなさそうな顔でこちらを見る猫耳少女。俺に何を求めてたんだ?


 すると、そんな俺たちの会話に口を挟むものが一人。


「へえ。優くんにとって私は、その程度の女でしかなかったんだ」


 悪夢に魘されていたように眠っていた叶が、ムクリと起き上がってそんなことを言ったのだ。


「えーと、おはよう。そしてどういう反応?」


「こういう反応」


 叶はそう言うと、俺を手刀で一突き。


 俺の体に風穴を開けた拳を抜き取ると、俺の肉体もそれに合わせて再生する。


 部屋は明るいというのに、なぜか爛々と輝いている瞳は、まるで獲物を狙う猫のようだった。

  

 もう一度俺に襲いかかろうとした叶だったが、それを止めたのは意外にも真理だった。


「この子は私が見ておくから、優は次の試合に行ってきたら?」


 いつもは一番無表情でヤバイ事をするはずの真理が、なぜこんなにまともにしているのかは分からないが、今はその言葉に従っておこう。


 俺は今日何度目かの逃亡を果たした後、いつの間にかハゲおじとの試合に勝っていたハイエルフと、今大会最後の試合をすることになった。

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異世界に召喚されたら命を狙われていたので、自由に冒険しようと思います 緋紅色 @mikan014

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