第49話  みんなに知られてしまったが(最終話)

「あら、そうだったの。麻保ったらまあ」

「僕たちが留守にしている間、そんなことがあったのか」


 藤堂家では、両親がそろい麻保の前でしみじみといった。事のいきさつを未津木が両親に打ち明けてそれならばみんなでお茶でもしようということになったのだ。


 両親の前には、麻保と海斗が座っている。誕生日席には姉の未津木が左右を見ていった。


「まあ、いろいろあったけど海斗君とは仲良くなれたし麻保の男性恐怖症もなくなったし、結果オーライってことで丸く収めましょ」

「もうっ、お姉ちゃんったらっ! 私にとっては大変な毎日だったんだから。昨日だって学校で大騒ぎされて、質問攻めにあって、あああ~~んどうしてくれるのよお!」

「そんなに大騒ぎになるなんて思わなかったよ」


 目を丸くしている海斗に、未津木はいう。


「そんじょそこらの女の子とは違うのよ、麻保は。海斗さんも覚悟しといてね」

「偶然道であった同級生の女の子も驚いてたけど、そこまでだったとはねえ」


 頬を膨らませて抗議している麻保を見ながら、海斗は面白がっている。


「家事代行で来てるのに、麻保ちゃん僕のことをずいぶん意識しているなと思ったんだ。じ~っとこちらを観察してたり、急に赤くなったり、もじもじしたり、時々気まずくなって仕事しずらかったなあ」

「あああ~~~、もうその時のことを言わないでほしいよお、これはみんなお姉ちゃんの策略なんだから」


 未津木が答える。


「ごめん、ごめん。そうでもしないと麻保ったら男性と話もできないじゃない」

「未津木ちゃん、麻保ちゃんっていつ来てもそんな調子だし、それでいて一生懸命僕に話しかけてくるし、だんだんこれには裏があるぞって思い始めて……だけど訊かないでおくことにしたんだ」

「それでよかったのよね。普段通りにしてくれてたのね」

「だって、楽しいじゃないか。自分の知らない秘密があるかもしれないと思いながら仕事をするのは」

「そうだったの……」


 海斗までがどこかおかしいとは思っていたんだ。


「だけどね、いま思うと楽しかったな。自分が彼氏代行だと思われてたなんて自信がついたよ」


 麻保は口をとがらせていった。


「あらら、変な自信」

「そうじゃないか、女性とデートするプロだと思われてたなんて、わくわくするよ。美人のマダムにも呼ばれるしおばあさんからも呼ばれるし、広い年代の女性たちに好かれてるってことだから。本当に彼氏代行の仕事でこんなにモテモテだったらすごいことだよね」

「そうね……そうかもしれないけど……」

「いっそのこと仕事を変えてみるかな」

「えええ~~~っ、やだやだ」

「お客さんがわんさか押しかけてくるかもしれないぞ」

「ああ~~ん、それだけはやめて!」

「そう、麻保ちゃんのお願いならやめるよ」


 目の前の両親は大笑いしている。これでよかったのかな、麻保はペロリと舌を出した。


「さあて、今日は天気がいいぞ。ワンちゃんを連れて散歩に行くの、それとも買い物する?」

「どっちでもいいわ~~」

「僕と一緒ならどこでもいいのかな、お姫様?」

「わああん、からかって、もう」


 海斗は麻保と並んで外へ出る。今度はどんなことで驚かせてくれるのかな、と期待を込めて歩きだした。


          (完)


💛最後までお読みいただきありがとうございました。誤字脱字などお見苦しい点もありましたが、お付き合いいただきありがとうございました。

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最近家事代行のバイトを始めました……だけど何か変だ! 東雲まいか @anzu-ice

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