第48話 教室は大騒動

「瞳、内緒にしてくれるかなあ……」

「大丈夫だよ、麻保ちゃんがあんなに焦ってたんだから、気を利かせてくれるはず。クラスの友達には黙っていてくれるだろう」


 海斗はそう答えたが、麻保は疑心暗鬼だった。彼女にそんな常識が通じるかどうか、はなはだ疑問だ。


 帰宅しても落ち着かずあまり眠れなかった。学校へ行く時間が刻一刻と近づき朝食をとってもいても落ち着かなかった。


 周囲を見回し、はらはらしながら教室へ入る。し~んとしている。誰の声も聞こえない。


 ああ~~良かった瞳、黙っていてくれたんだ。予想以上にいい人だったのね。だがほっとしたのも束の間、次の瞬間一斉そこにいた十人ほどの目が一斉に麻保に向いた。


 えっ、何これ。何これ、この二十あまりの瞳が一斉にこちらを向いている。


 この視線はいったい、やっぱりそうなの! 


 冷や汗が出てきて嫌な予感しかしない。その中の一人がそろそろと近くへやってきた。好奇の目を向けながら……。


「麻保っ、いつの間にか彼氏ができたの」


 げっ、知られてた!


 すると別の生徒が大声でいった。


「やっぱり彼氏がいたんだ麻保、水臭いじゃない、いってよ!」


 そんなこと告白しなきゃいけないほど仲がいいわけじゃないでしょ、と心の中で返事をする。


「あの、二人ともこのことは……内緒っていうか。あんまり騒がないでほしいっていうか」

「ってことは、やっぱり本当だったんだ!」


 ああ、この反応が嫌だったのに。


 取り巻きの生徒たちがひそひそとささやきあっている。うっそ~~、とか、まさかあ~~、とか言ってくれた方がまだいいのに。


「すごいじゃない、どうやって見つけたの」

「まあ、姉の知り合いで……」


 姉が手配してうちに来たのだから、まんざら嘘ではない。予定通りの答えをいった。それ以上のことは言う必要はないしとても言えない。ましてや、彼氏代行だと思ってたなんて。


「そうなの、お姉さん顔が広いのね」

「まあ、大学生だから、いろいろと……」

「へえ、それじゃ年上なんでしょ?」

「そう、大学生なの」

「すごい、やるわねえ。一番彼氏に縁がなかった麻保が、知らないうちに年上の彼氏ができたんだもの。あ~ああ、肩透かしを食わされた気分」

「そんな、肩透かしだなんて、私は別にみんなをだましたわけでも何でもないし……たまたま話があって、仲良くなっただけなんだから、私にもどうしてできたのかわからないよ」


 これは本当のこと、こんなことまで言わなきゃいけないのかなあ。


「ねえ、ねえ、もう手をつないだ」

「それは、なんとも」

「そうなのね、じゃキスぐらいしたんでしょ」

「ああ~~ん、もうそんなこと言えないよっ」

「おお可愛い、照れてる」


 二人の女子に挟まれて、麻保はあたふたしてしまった。麻保にとっては適当にごまかすことも難しい。


 

 ようやく先生が入ってきて朝のホームルームになった。


 ふう、良かった。


 これで一安心。だけど、次の休み時間が怖いよお!


 ほかのクラスの女子たちも詰め掛けてきそうだ。あっという間に学年中の噂になり、今日一日は冷やかされっぱなしだろう。でも覚悟を決めた。いつまでも隠し通せることではない。


 案の定、次の休み時間に他のクラスの女子が集団で押し掛けてきた。


「わあ、麻保彼氏がいたんだっていうか、いつ知り出会ったの」

「ねえ、出会い系?」

「私だってまだ彼氏がいないんだから、知りたいよお」


 だの、質問攻めで、いつまでたっても開放してくれない。そんなに物珍しいのか、この私が男子と付き合ってるのが~~~~!


「ねえ、ねえ、麻保は男性と一緒にいるときって、どんな話をしてるの。だって、話をしたことが無かったんでしょう今まで」

「それは……普通の話よ。趣味とか、勉強のこととか、いろいろねえ」

「へえ、勉強のことも!」

「教えてもらったりしてるの、頭がいいから」

「わあ、いいわねえ」

「羨ましい」


 こんなことを言われるとまんざらでもないし、自慢したい気持ちも頭をもたげたが気をつけなきゃな。あまり追及されても、後々面倒だから。


 そんな質問が一日中続いて、家に帰るころにはくたくたになってしまった。

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