第3話

 先輩のことを知ったのは、私がまだ中学3年生の頃、季節は冬で雪の降った日のことだ。私は当時高校受験に失敗して希望していた高校へは進学できず、名前さえ書けば合格できるような滑り止めの今通っている高校に行くことが決まっていて、ひどく落ち込んでいた。


 仲の良かった友達はみんな別々の高校に行くことになっていたし、受験に失敗した私に対してどう接したらよいのか分からないようだった。

 私も私でそんな友達に対してどう振る舞えばよいのか分からず、どちらからともなく自然と疎遠になっていった。

 そんな気分の沈んでいた時に、私は先輩を偶然見かけた。


 先輩は空から降る真っ白な綿雪を食べながら歩いていた。空に向かって大きく口を開けるその姿はバカっぽく見えたしお世辞にもカッコイイとは言えなかったのだけれど、うまく口に入った瞬間、ニコリと笑い、おいしそうに綿雪を食べながら歩く先輩を見て、悩んでいても仕方のないことに悩んでいた自分がバカらしくなったのは覚えている。


 私をそんな気持ちにさせた先輩の罪は重い。


 この気持ちを恋と呼んでいいのか分からない。ただ私はあの寒い冬の日に先輩を偶然見かけ、先輩の彼女になりたいと思ったし、誰かの彼女になりたいと思った時の私は強い。

 もともとずる賢いところのある私は、今日だって先輩の傘を盗んだ。盗んだというか先輩が探してもすぐには分からない場所に隠した。

 雨が降っていて、先輩が傘を持ってきていて、コンビニに立ち寄る日が来るまで何日も待ち伏せだってした。

 そういう私のヤバさを全部正直に話しても、先輩は引いたり怒ったりしない気がする。「そんなことしてたの?」と笑って許してくれるような気がする。


 どうしようかな? 今後のことが全てうまくいったら頃合いを見計らって本当のことを打ち明けようかな? でも先輩にはこのまま秘密にして泳がせておいた方が面白くなるような気がしてならない。


 これからどうなるかは私のさじ加減ひとつだ。あまりいい趣味ではないかもれないけれど、先輩のこれからを私が握っているのだと思うと心がはずんでしまう。そういうある種の中毒性をあの人は持っている。

 いろんな顔が見てみたいし、いろんなことをしてみたい。今現在思い付いた作戦は嘘抜きで100個くらいあるし、その全てを実行に移すまでは死ねないとまで思っている。


 とりあえず今日の放課後は、恥ずかしいくせにやせ我慢をしながらクロミちゃんの傘を差す先輩と一緒に帰ることだけは決めてある。

 私の前でカッコつけたり狼狽うろたえるであろう先輩を、私は見逃すわけにはいかないのだ。

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梅雨にヒメゴト 望月俊太郎 @hikage_furan

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