第2話

 結局、俺がクロミちゃんの傘を差している姿は登校中に友達にガッツリ目撃されたし、傘を折り畳んで昇降口で上履きに履き替える時には「小学生の女の子から傘パクるな」とか「笑いのために金を使い始めたな」とかメチャクチャにいじられたけど本当のことだけは言わないでいた。

 何しろ俺の誕生日に「お前が欲しがってたから」って照英しょうえいの写真集をプレゼントしてくるやつらだ。自分が尖ってると周りに思わせるためなら何でもしてくる。

 もし仮に本当のことを言おうもんなら最後。見に行こうぜって誰かが言い出して絶対に茶化して邪魔するに決まっている。


 俺と俺の友達はそういう本当に残念なクソダサいノリをイケてると本気で信じているし、頭のいいオラウータンと算数で勝負したら負けるかもしれないくらい計算が苦手だ。あんな野蛮で掛け算九九もまともにできないようなやつらに相談してうまくいくはずがない。それで怒るのは泥棒に金を貸して踏み倒されたら怒るのと一緒。


 というか凄く大事なことなのに忘れてたけど、この傘どうやって返そう? あの子はうちの学校の制服を着ていたし、襟元えりもとの校章からすると1個下だってことまでは分かるものの、名前もクラスも知らない。

 一学年に400人いる中から探すとなると相当難しいし、このままだと借りパクになっちゃうななんてぼんやり考えていたんだけど、1限終わりの休み時間に女の子の方から来てくれた。


 俺は会うなり「あっ、ああ… そうだ傘返さなきゃなと思ってたんだ」って言った後にありがとうを言うのを忘れてたと思って「貸してくれてありがとうね」って後から言ったりしてめちゃくちゃに慌てた。


「いいんですよ、今日は雨やまないみたいだし、その傘は帰りも使ってください」


 俺と違って女の子は落ち着いている。まるで俺のことをずっと前から知っていたみたいに。


「っていうか、よく俺のクラスが分かったね」

「えっ、だって先輩って有名じゃないですか」


 女の子は当たり前のように言った。そうなの? 俺って有名なの?


「うーん、まあいいけど…。あのさ、クラスと名前を教えて。明日返しに行くから」

「1年F組の君島きみじまあやです」


 女の子に真っすぐ見つめられてドキリとした。カワイイっていうのも勿論もちろんあるんだけど、何か挑まれているような、宣言をされたようなそんな雰囲気だった。


「うん、分かった。じゃあ、明日のどこかタイミングいい時に行くよ」


 何だろう? 降って湧いた幸運に体が慣れていないのかな? 胸騒ぎがする。共学に通いながら女子とまともにしゃべったこともない俺が、急にあんなカワイイ子としゃべって脳内に不具合が出たのか? やっとこ俺にもモテ期が来たかとか喜んでいいはずなのに何でだか胸騒ぎがする。

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