2 片山充留の話

-夢の跡-

 リーン、リーン……


 夜の闇の中で、スズムシの鳴くような音が聞こえていた。辺りには明かりは見えないが、空には大きな満月があり、その輝きが地上まで降り注いでいる。満月の周りには、これまで見た事もないような無数の星が輝いていた。


 私はさっきからその夜空を見上げていた。履いていたジーンズで直に草むらの上に座り込んでいるが、汚れることを気にする余裕もないほどに、ただその夜空を眺めていた。


 夜の世界。暗闇の世界。


 私は日の当たる世界が好きだった。闇は怖いものだと思っていたのだ。しかし、闇があるからこそ、月も星も輝いている。その事に初めて気が付いた。


 その時だった。


 私の膝に置いていた左手に、何かが触れた。温かな、柔らかなもの。


 それは私の左手の甲に重ねた誰かの手だ。


 私はドキッとして、ゆっくりとその手の方に顔を向ける。


「あなたは……」

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