3 清野加代の話
-夢の跡-
私は、白いテーブルが並べられた学食の端の方に座り、窓から見える外の風景を眺めていた。
(どうしようか——)
先ほどのゼミの中で担当教授から、地域活性化をテーマとしたフィールドワークをもとに、卒論を作成するよう指導があった。どこでも良いので、都市部ではない場所で住民にインタビューした上で一定の結論を見出して欲しいという。私は、鎌倉の辺りの出身で、いわゆる過疎地域ではないため、どこかに調査に行かなければならない。しばらく実家にも帰省せず両親とも連絡を取っていないので、親を頼ることはできない。地方出身の友人を頼れば良いのだが、身近な友人を思い起こしてみると、意外にも東京や名古屋辺りの大都市圏出身者が多かった。調査となれば、一定期間その地域でお世話になるため、ある程度は仲が良い友人が良いと思うが、相応しい人物が思いつかなかった。
「美里、どうしたの?」
声を掛けられてハッとして顔を上げると、ミディアムの茶色の髪をした藤田加代がテーブルの向かいに座った。
「何か深刻そうな顔してたけど、大丈夫?」
「うん。ちょっとゼミの関係でね……」
私は先程考えていた事を目の前の彼女に説明する。彼女は、私と同じワンダーフォーゲル同好会に所属し、学部も同じ農学部だ。ただ、彼女は都内の有名な進学校を卒業しただけあって、私よりもかなり優秀な学生だ。結構ストレートな物言いをするので、彼女の事を好きではない人も多いようだが、私は1年生の頃から不思議と気が合い、お互いに何でも率直な事が言い合える、一番の親友だ。
「なるほどね……。そういう事だと、私も実家は都内だから、対象外ね。確かに、言われてみると、あまり思いつかないわね」
「そうよね……。どうしようかな?」
ううん、と彼女はテーブルの上で腕を組み、窓の外を見ながら再び悩み始めた。その時、「あっ」と彼女が声を上げた。
「そうだ。アイツがいるじゃない」
「えっ、誰?」
私は思わず尋ねるが、彼女はフフっと笑ってから、「任せといて」と言って、スマホを触り始めた。
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