ようこそ! ラウル発掘会社へ!

お望月うさぎ

第1話

 遠い遠い昔、ガターム王国と呼ばれた大国の近くに洞窟がありました。汚れた作業服を着た沢山の男がツルハシで掘り返しているので、土と汗の臭いが一杯に広がっています。

 天然の洞窟は暗いですが、鉄の三脚と長い棒で玉入れの籠のようにして立たせた土台に、籠の部分に明かりを灯す人の頭程の電球を取り付けた形をしたライトがオレンジ色に淡く照らしています。

「ほら!手を止めるんじゃないよ!この中にあのお宝があるってことは分かってるんだ!死んでも見つけな!」

 その洞窟の中に、王宮の玉座の様にふかふかのマットや装飾が着いた、置き場を間違えたような椅子がありました。そこで全身に宝石のアクセサリーをこれでもかと身に付けた太った女性が指示を飛ばしています。

「へい!ボス!」


 近くにいた作業服の男がそう答える通り彼女こそがこの作業を統括している、正しくいえば、この作業をしている奴隷達を管理している女性です。

 彼女は身元の無くなった男を奴隷として拾い自らの手駒としてお宝を掘らせています。この世界は奴隷制は認められておらず、犯罪ですが、彼女は金のためなら手段を選びません。にも関わらず彼女は嘘が嫌いで、嘘が発覚した者は即刻殺します。

 そして、彼女は女性が嫌いです。自分以外の女を直ぐ嘘をつく害虫として毛嫌いしているのです。

 そんな彼女の今回の仕事は、王国の地下深くに眠る宝石の発掘です。それはあまりにも高価で、見つけた者には一生分のお金になると言われていました。しかし、ガターム王国は砂漠に囲まれ、とても劣悪な環境でした。そのため今回は見つけた者には相応の取り分が貰える、という条件付きで奴隷たちが狩り出されました。朝から奴隷たちは掘り続けましたが、見つからないまま昼を迎えました。各々配布された簡素な昼食を摂っています。

 そんな少し弛緩した雰囲気は、急に終わりを告げました。

「おい!こんな所に横穴があるぞ!」

 帰ってきていた1人の男が、急に大声を上げました。

 指をさされた所には、確かに小さな横穴が1つ。男が周りを掘ろうとしますが、周りは硬い岩に囲まれているのか穴が広がる気配はありません。

 そこからは誰が入るかで大モメになりました。何しろお宝を見つければ奴隷からおさらばしてなお有り余るのですから、少しのチャンスでも見逃したくありません。しかし、結局長い間ツルハシを恋人に生きてきた人達の太い腕や足では到底通り抜けられませんでした。

「おい、何時までやってるんだ」

「グーラさん!」

「このままじゃあ埒が明かないから、1人ずつ僕が行かせる。良いですよね、ボス?」

 いつまでも騒ぎ続ける男たちの間から、1人の男が出てきました。その男を見るなり騒いでいた男たちは静まり返ります。少しほっそりとして、周りと同じ作業服姿の男は、ボスに仕える副リーダー、グーラです。ボスとは違い話が分かる男が表れた事で、騒ぎは一旦落ち着きました。

「ふん、あたしゃ宝さえ見つかればなんでもいいよ。早く決めな」

 吐き捨てるようにボスが言うとグーラは今度は俺が、と騒ぎ始めた男どもを試させては帰します。

「僕が行くよ」

 そしてもう試す男が少なくなった頃、手を挙げる人がまた1人現れました。

 その人は、身体も顔もとても小さく、髪は長らく切って居ないのか、随分と長い髪を無理やりにヘルメットの中に押し込んでいて、身体のサイズを誤魔化すようにブカブカの作業服を着たまま右手に本を持っていました。

「お!確かお前は最近入ったラウルじゃないか、確かにお前ならこの穴も入れるだろ!」

 諦めようとしていたグーラは、降って湧いたようなラウルの登場に喜び、試させようとしますが、

「おいおい!こんなチビじゃあ何を見つけたって掘れやしないだろ!」

「こんなちんちくりんのガキが何が出来るってんだ!」

 挑戦の機会を奪われそうな男達が、騒ぎ立てます。その声は次第に増え、ラウルが入れずにいると、座っていたボスが

「黙りな!あたしゃさっさと決めろって言ったろうが!そもそもこいつはお前らの2倍は宝を掘り当ててるヤツだよ!格好はともかく、あたしの人選にケチつけるやつは容赦しないよ!」

 と、ズドンと地団駄を踏んで叫び、みんなを黙らせました。

「じゃあグーラさん、この本をよろしくね」

「お、おう」

「『火と薬』って言う面白い本だから、良ければ読んでみてね」

 そう言ってラウルは横穴に入っていきました。


 横穴に入り、殆ど視界が無い道を手の感触を頼りにそろそろと進み、元の男たちの声が全く聞こえなくなってから、ラウルはヘルメットを脱ぎ捨てました。

 押し込んでいた髪が腰ほどまで垂れましたが、ラウルは気にしませんでした。

 ヘルメットの中にはマッチが、リュックの中には乾燥した木が入っていて、孤立した時などに最低限自分で生存できる最低限の物が揃っています。焚き木をすると、

真っ暗だった洞窟に、柔らかな光が起こります。光は洞窟に広がる歩いてきた一本道と、3股に別れた道を照らしました。

「……よし、自由になるために頑張らなくちゃ」

 ラウルはそう呟きました。集団の中で人一倍器用で記憶力の良かったラウルは、いつか本で見た一面の草原と青空を見たいと、密かに自由を願っていました。そんなラウルの声は、先程仲間の中での話し声より少し高い声でした。焚き木の火を、木の先に油を染み込ませた布を巻いた簡単な松明に移してまずは左の道へ行きます。

 焚き木から離れると、直ぐに視界は手の松明が照らす1寸先のみになりました。元の洞窟から一応空気は入ってきているのか、何かが先にいて唸っているのか、低い音が響き、松明が焼けるパチパチと軽い拍手のような音と混ざりました。

 ゆっくりと進んでいくと、松明の光が壁を照らし出しました。

「ここには何も無いかな……掘るのは全部見てからに……ん?」

 ラウル壁際の床に何かが落ちているのを見つけました。近づいてみると、それは男性の親指程の太さで、15cmは超える長さの蛇でした。蛇の洞窟の闇に溶けるような鱗からはすっかり鮮やかさは消え去っています。

「ひっ……!? 死んで……は無いのかな」

 物だと思っていたのが蛇出会ったことに驚き、思わず身構えたラウルでしたが、舌をチロチロと動かしているだけで襲ってきません。随分と衰弱していることを察し、おもむろに自らのバックを漁り始めました。そして水を取り出すと、ゆっくりと蛇に垂らします。緊急用の水なので、困るのは自分なのですが、ほぼ無意識の行動でした。

 蛇は静かに喉を震わせて水を飲み、少し元気を取り戻した様でした。知能があるのか無いのか、恩義を感じたのか、空腹のはずの蛇はラウルを襲うことなく横を通り抜け、闇の中にきえてゆきました。

「こんな所に蛇っているんだなぁ」

 結局お宝は見つからず、ラウルは道を引き返しました。暗く静かな道を戻ると、焚き火は少し小さくなっていました。

 焚き火にリュックから木を足して、今度は右の道を進みます。また弱い灯りを頼りに2分ほど歩くと、真っ白な光が行く手を遮って居ました。目が慣れてくると、突き当たりに地上の光が漏れている場所であることが分かりました。そしてその光を浴びて、草が生えています。

「この草は……」

ラウルは記憶力が良かったので、自分が見た植物図鑑から草の種類を思い出しました。

 それは月成草と呼ばれていて、空気の薄い場所で生え食べると酸欠のような症状に見舞われるので『月に成った草』という所から名前が着いた毒草でした。

「こんな所に生えてるんだ……」

 ラウルは興味は持ちましたが、毒草をどうすることも出来ないので諦めて引き返しました。やはりお宝はありませんでした。

 戻って真ん中の道を改めて見ると、そこにはスパイクの着いた車輪で通ったかのような2筋の穴だらけの轍が残っています。

「明らかにやばそうだし……1回休憩しようか」

 そうポツリと零し、もうスカスカになったリュックから小さな保存食を取り出して食べ始めました。随分と小さくなっていた焚き火を、リュックの中の木を全て入れて建て直しました。


 さて、その頃大きな洞窟ではとっくにお昼休憩が終わり、各々仕事に戻っていましたが、ボスから指名を受けた2人の男はラウルが戻ってきた時にいち早くボスに伝えられる様に見張りをしていました。

 見張りの見張りをしているグーラはラウルから渡された本を一応読んでいました。2人は奴隷として文字を教わっていないので黙々と謎の本を読んでいるグーラを尻目に相談をして、一応横穴が広がらないかを試すことにしました。横穴の縁は硬い岩に囲まれているので、その外側から崩せないかと試し、現在苦戦をしていました。

「やっぱり硬すぎて通れるようにはなんねぇなあ?」

「簡単に諦めんな! もしこの中に宝があったらあのガキに全部持っていかれちまう!」

「そ、それは嫌だな! うおお! お?」

半ばやけになって会話しながらツルハシを振っていると、カンッと子気味良い音がして、横穴の縁から少し横までが崩れました。

「おおおおおおお!?」

「でかした! その調子で穴を広げるぞ! おい! 副リーダー! ボスに穴が広がるかもと伝えてくれ!」

「何!? ……何? 穴が広がる? あ、ああ分かった、伝えてくるよ」

飛び上がったグーラはボスの所に走り、もうすぐあの横穴が通れる様になるかもと伝えました。

「なんだって!? アイツらもたまにはやるじゃないか! あたしも気になってたんだよあの横穴は! もし空いたらもう1回あたしを呼びな! 私が直々に行ってやるよ!」

 ボスも気になっていたのか喜んでそう言いました。


 入り口が拡張されている横穴の洞窟では、ラウルが保存食を食べ終えて、空になったリュックを背負い、ツルハシを持ち直し、真ん中の道を進み始めました。この道は他の道よりも長い様で、風の音さえ段々と遠のいていきます。コツ、コツ、と響く足音と、ゆっくりと火が弱くなる松明の燃える音だけが聞こえます。まるで、松明が照らす足元が丸い台で、その上を一生足踏みしているかのような気持ちさえしていました。

「……?」

 ふと、松明を持っている腕に、何かが引っかかりました。ツルハシを壁に立てかけ、松明を持ちかけて照らしてみますが、何もありませんでした。不思議に思いましたが気のせいかとツルハシを持とうとして壁に手を伸ばします。

 そこにツルハシはありませんでした。

「……?」

 また不審に思ってツルハシのあった筈の壁に松明を向けると、そこに壁は無く、洞窟は丸く広がっています。

「あれ?」

 記憶が食い違い首を捻るラウルの耳に今度はカサカサ、と音が聞こえました。松明が燃える音とは全く違う音でした。ツルハシを探そうと少し前に進むと、首やら腕やらに、また何かが引っかかる感覚はあるものの、照らすと何も見えません。1度聞こえた何かの音は聞こえ無くなりました。何かがあるとゆっくり進んでいたラウルは、頬に少しだけ風を感じて、無意識にそれとは反対側へ半歩進みました。次の瞬間、

 ズボッ!

 ラウルの脇腹に、あと3日で満月になりそうな穴が開きました。前から開けられたのか、大きく後ろに吹き飛ん飛んだラウルは、背中を強く打ちます。

「ごほっ!」

 直ぐに飛び起きたラウルは、しかし出血はしていませんでした。ブカブカの作業服だったので、作業服だけの部分を通り抜けたのです。先程のでボロボロになった作業服は最早その役割は果たさないでしょう。ラウルは松明を意を決して前方向に投げつけました。すると松明は何かにぶつかって落ちました。松明はぶつかった何かを映し出します。

 左右両側に4本ずつ地面に刺す大きな杭のような形をして、それだけでラウル2人を縦に通せそうな長さの足があります。それは1度天井近くで折り帰ったあとに後ろにはラグビーボールが、前はボコボコとした目が8個着いた形をしていました。どちらもラウルが5、6人いれば運べるかもしれない程の大きな楕円形をした、大きな蜘蛛がそこにはいました。

 杭の1つに作業服の残骸が着いていることから、どうやら初撃もあの蜘蛛の仕業のようです。

「なにあれ……」

 こちらを観察するように眺めてくる蜘蛛を睨み返し、作業服を脱ぎ捨てます。中は麻のシャツとズボンを履いていて、僅かに曲線を描いています。

男性のようなゴツゴツとした身体とは遠くかけ離れた少女が、中からは出てきました。

 松明を投げ捨てたことで、逆に暗闇に少し慣れたラウルは、遠くにツルハシが落ちているのを見つけます。

 8つの目で少女を観察する蜘蛛を警戒しつつ、ラウルはそちらに動こうとして、

 ズドン!

 大きくダイブしました。元いた場所に作業服が着いた杭が1本刺さっています。前転をするように受身を取り、そのまま走って両手でツルハシを持ち直します。蜘蛛も少女に敵意があることを感じ取ったのか、前足2本を掲げました。

 ズドンズドン!

 そのまま振り下ろされた前足を1本目は横へ、2本目は前に避けたラウルは、くるりと後ろへ振り返り、地面に突き刺さった足に

「やあーっ!」

 と大きな声を上げてツルハシを振るいます。長年地面を掘った技術が、勢い良く足へと届き、

 蜘蛛の足に弾かれました。蜘蛛とは思えない程硬い足は、少しだけ透明な血を散らしたのみで、逆にツルハシは足に当てた方の先端が大きく欠けてしまいました。想定外の攻撃を受けた蜘蛛は大きく暴れます。辺りに変な匂いが漂いました。攻撃をされた蜘蛛は、ついに明らかな敵意を持って少女を見ました。ツルハシが通じない以上、ラウルには、もう対抗策がありません。蜘蛛が、前足を振りかぶりました。ラウルは何とか避けようと身構えました。しかし、その攻撃は叶うことなく蜘蛛がよろけて倒れました。

「!?」

 倒れた方を見ると、後ろ足が1本丸々消え去って、そこからどくどくと透明な液体が流れています。その傍らには、足1本を丸呑みして今まさに脱皮をしている、とても大きな蛇がいました。見ると、皮の模様や色から、ラウルが先程助けた蛇のようでした。

 蜘蛛は直ぐに脅威である蛇に前足を振るいましたが、逆にその前足に絡みついて根元からちぎってしまいました。また透明な血が流れます。ちぎった前足をまた丸呑みにして、その場で脱皮をして今度は3回りほど大きくなりました。最早蜘蛛と殆ど大きさが変わりません。蜘蛛は最早ラウルを見ることさえ出来なくなっていました。必死に蛇から距離をとって尻の方を向けてロープのような糸を出しました。それはきっと1度引っ付いてしまえばそう簡単に外れずにされるがままになってしまうでしょう。蛇はするりとそれを避けて、糸を出している尻から巻き付いて

 べキリ!

 そんな音と共に蜘蛛を絞め殺しました。しばらくじたばたとしていた蜘蛛も直ぐに静かになりました。ラウルが呆然と立っていると蛇は蜘蛛を丸呑みにして1度少女を見て舌をチロッと出したあと、地面に大穴を開けて消え去ってゆきました。

「あんなのが世界にはいるのか……」

 規格外すぎてそのような感想しか漏らせないラウルは、蜘蛛がいた方に通路が続いていることに気が付いてそちらへ進みました。突き当たりまで進むと、それまでの岩肌と比べると違和感のある壁に行き着きました。それを欠けていない方のツルハシで少し掘ると中には大量の黄金や宝石が出てきました。長年誰の手にも渡らずに保存されてきたそれは、今なお色褪せてさえいません。

「あった! あったんだ! これで後はボスに言えば晴れて自由だ!」

 大喜びで来た道を帰っていたラウルは、彼女は思い出せませんでした。今の自分の姿と、ボスの性格と、長年なんのためにブカブカの作業服を着ていたのかを。

「おい、ラウルゥ……お前そりゃ一体……どういう冗談だ……?」

 焚き火まで戻ったラウルは、その傍らで場違いな椅子に座るボスを見て、その後自分の姿を見て、全てを思い出しました。

「いや、これはあの、違うんだボス! この洞窟の中にいた怪物にやられて、」

「そんなバカみたいな嘘をつくなよラウルゥ! いや! てめえは誰だ! あたし達の仲間のラウルじゃねえなぁ! ホントの名前を言いな嘘つき!」

 怒るあまり椅子から立ち上がり、唾を飛ばしてラウル、いえ、怒られる少女を指さします。

「……ララ。本当の名前はララだよ、ボス」

「は! そんな名前どうでもいい! お前は今! ここで!死ぬ事が決まったんだよぉ!」

 怒り狂って支離滅裂になったボスの声を聞きつけて、右の道から2人の男とグーラが出て来ました。

「ボス!こんな所に草が生えて……ってラウルも何をやってるん……」

 彼らも、ララの見慣れた顔と見慣れない姿を見て、全てを察しました。

 黙った男達の方をちらりと見たボスは、その手に握られていた月成草をみて、ニタリと笑いました。

「なぁ、ララ、あんなに喜んでたんだ。お宝は見つけたんだよなぁ?」

「……見つけたよ」

「多かったか?」

「それはもう。もう発掘なんてしなくてもくらしていけるんじゃないかな」

 それを聞いて、ボスは大きく笑いました。

「それを聞いてあたしゃ今気分がいい。今まで女だったことを隠していたことをのぞきゃあ素直な良い奴だったんだ。そこの草を味見してくれりゃぁ、女でもお前だけは素直な奴だと認めてやってもいい」

 そういうボスの顔は口が避けそうな程ニヤニヤしていて、明らかに毒草であることを知って提案しています。

「……分かりました。今そちらに行きます」

 そして男から月成草を受け取りました。グーラの方を助けを求める様にちらりと見ましたが、こればかりはグーラも逆らえません。怒ったボスを邪魔したら、殺されるのはグーラなのですから、仕方の無いことでしょう。

 僅かに残った焚き火まで行き、膝から崩れ落ちて泣きました。

「なんで草の味見で泣いてるんだよ」

 男の1人が不思議そうに言います。

「あたしの優しさに泣いてるんだよ! 見れば分かるだろ?」

 ボスはそう言って笑います。

「おら、早く食いな」

「……はい」

 そしてついにララは月成草を口にしました。少しして、

「〜〜っっ!」

 喉に何か着いているかのよう掻きむしり始めました。

 口から涎を垂らし、仰向けに倒れてバタバタと足だけが動き、静かになりました。

「ありゃぁ! 死んじまった! そんな! あたしが許した時に限って毒草だったなんて! ついてないねぇ! ララも!」

 椅子に座りなおして仰々しくそういった後、大笑いしました。

「ボス、こいつは僕が適当なところに運んでおくよ」

「ああ、任せたよ」

 グーラはララを肩に担ぐと、右側の通路に入ってゆきました。それを見送ってから、ボスは残った男に向かって、見つけたやつは死んじまったから、1番はまだ残ってるよ、と左の道へ行かせました。

 急いで向かう男を見送りながら、

「まぁ、こういうのは大体真ん中だよねぇ」

 そう独りごちて、一応男が帰ってくるのを待つことにしました。

 暫く待っていると、男が案の定手ぶらで帰ってました。ボスが使えないとなじり、あたしが真ん中に行ってやるよと残されたララのツルハシをつかんだのと

「よく分かりましたね、さすがボスです」

と右の道から少女の声が聞こえたのは同時でした。

「!? そんな馬鹿な! あの量の月成草を食べて無事で居られるはずが無いよ!」

 この場に唯一いた少女、この場にいるはずのない少女、ララの声を聞いて、思わずそちらを見ると、確かにララが歩いてきています。

「『火と薬』122ページからの章は、『焼くと薬になる毒』です」

 そう言ってララは男達が持ってきたライトで役割を失い、既に消えてしまった焚き火まで歩きました。

「あ、あいつは! グーラは!?」

「あの人は邪魔をされては困るので眠ってもらいました、大量の月成草には、そんな効果もあるんですよ。それよりも、生き残ったら僕に自由をくれるんですよね?」

 自分が生きていて当然、といったふうにララは笑ってボスに言いました。

「ふ、ふざけるんじゃあないよ!! 奴隷の分際で! お前らは一生このままあたしの奴隷なのさ!」

「……との事ですよ」

 ボスと会話をしていたララが、急に他の人に話しかける様に後ろに声をかけるので、ボスは訝しみましたが、直ぐにその意味を理解しました。

「貧民街の奴らの戯言かと思って来てみれば、まさか大当たりだったとはな」

 それは、ガターム王国で見たことの無い人は居ない国立警察の制服を来た人達だったからです。

「今の言葉、聞かせてもらったぞ。そして残念ながら、我が国では奴隷制度はご法度だ」

「ど、どうしてここが! いや! どうやってそこから!」

 気が動転して上手く言葉が作れないボスに追い打ちをかけるように、警察の後ろからグーラが現れます。

「もう終わりにしよう、ボス」

「どういうつもりだい!? グーラ!」

「僕はずっと反対だったんだ!でも止める方法も力も無かった。だけど今日、ラウルが……いや、ララがきっかけをくれたんです」

 そう言ってグーラは俯いてしまいました。

 最後には、狂乱の大声が響いていました。

 その後、ララの案内でみんなで宝を発掘仕切った後、グーラが主体となって、その宝を全て売却したお金で奴隷達を解放しました。さらに行くあてのない人達のために正式な会社として発掘会社を設立し、きちんとした生活と賃金を提供しました。

 そして発見者であるララはお金と自由を手に入れましたが、自分が育った所は見捨てられないと雇用されることにしました。

「今日は大きな仕事の依頼主が来られるそうです! 1班で主に応対するので、2班以降の班は引き続き北の洞窟の発掘をお願いします!」

「はい!」

 副リーダーをしていた頃よりずっとしっかりした元副リーダーの声と、それに答える者たちの声が今日も響きます。

「1班は総合顧問と共に依頼主の応対後作業に移ってください!」

「はい!」

 答える者たちの先頭に1人、少女の姿がありました。

 声掛けが終わった頃、丁度よくカランカラン、と出入口のドアが開きました。

 元副リーダーの社長はにこやかに息を吸い、総合顧問と呼ばれた若い女性は恥ずかしそうに俯きました。

 そして。

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ようこそ! ラウル発掘会社へ! お望月うさぎ @Omoti-moon15

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