七
そのうち、
山城を
それでも、たちまち、こざっぱりした侍女たちに少女二人は囲まれ、奥まった部屋へ連れて行かれた。そこには、二人のために娘らしい小袖や帯が用意されていた。
「
侍女たちは、
「このままで」と、少女は拒んだ。「今、しばらくは」と。
人に
(見るのも見られるのも、おそがい(怖い)……)
「さぁ、参らまい(参ろう)」
そんな少女を気遣って、
侍女姿に太刀二振り。頑として手放すのを拒んだせいで、女装の若者に見まごう。
「ひんやりと、りりしいな」
素直に思ったことを、
「
そのまま、二人は侍女の案内で、廊下伝いに広間へと向かった。
板敷の廊下は、素足に冷たく心地よかった。ぴっかりとよく磨かれていて、
民が、
広間では、上座に
「タオさま。
側にいた側室が、タオの右手をやさしい手振りで下げさせ、小声でささやいた。
この女は、幼い
(出過ぎましたかや)と、さりげなく
「お久しゅうございます。父上さま」
まずは
「――よう、お帰りくだすった」
万感が
そして、「人としての名を、お返ししまい(しましょう)」と申し出た。
「あなたさまの名は、フウ」
それが、
「覚えとります」
その名を呼んで、抱きしめられた覚えがある。
あれは。
深く沈んだ記憶の中で、その名は、きらきらと小さくきらめいた。
泉の底に沸く水に、きらめく砂のように。
(その名を、なんで知っとった?)
フウは、いきなり現れて名を呼んだ若者のことを思い出した。きらきらした記憶の砂の向こうに、何かひっかかっている。
「
「次期本家当主、
――
フウは思い出していた。
「われは、ずっと呼ばわり山で、
呼ばわり山には、いつの頃からか巫女がいた。
巫女になるのは、
今の
「われは七つになる前に、神隠しに遭ったと」
「そうじゃ」
穏やかな秋の日であった。
「『
やはり、フウと呼んで抱きしめたのは、母であったのだろう。
「ただ、本家の意向は
「もし、許されるなら、その
父は涙ぐんだ。
「生き写しじゃ、母に。タオも面影あって、かわいらしいが。お美しくなられた」
(あの本家の総領息子。なぜに、この
それから、夏の夕暮れ。
当主を上座に、フウはタオと向かい合って、タオの側には側室が控えていた。
フウについてきた
「あねさま」
タオは、いきなり出現した
フウが神隠しに遭った時、タオは亡くなった室の腹にいたのだ。タオを産んで、乳離れするのを見届けるように室は亡くなった。今のフウに、実の母の面影を探しているのだろう。
「……」
側室は黙って、
(
急に、側室は自分だけが
「……」
実を言うと、
父、
(
だが、そんなことはかまわぬのが、
「ねぇ、あねさま。
「まぁ」と、側室は笑ったような困り顔をフウに向けた。
「おかぁさまも」
「え」
「おとぉさまも」
「おぅ?」
「ふ、ふふっ」
鈴が鳴るような声で笑い出したのは、
「よいですわ(よいですよ)。タオさま」
「わい!」
タオが体全体でうれしさを表わしてひっくり返ったもので、「ふ」と、つられて側室も笑ってしまった。
ずっと後になっても、
※〈要害〉 防御と戦闘性に富んでいること またはそうした場所
※ この時代の子供は けっこう長く母乳を飲んでいたらしい
乳を赤子にやっている間 女性は妊娠しないので
子を産むのが役目の正室の子に乳母があてがわれるのは そのせいとも
ここでは二の日女には乳母もいたが
母親も自分の余命を察し乳を与えていたと推察
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