六
「……」
巫女は何も答えぬまま、後ずさるように
「本家の
そうして、
「そうすることにする」
「失せ物は見つかった」
「いや、はや、どうも」
「山で迷ってな」
「
「そうでございますが」
(貼り付けたな)と、
父、
「本家に隠そうとしたか?」
「誓って、そのようなことは。
「神託とな」
「七つになる前に娘は神隠しに逢いました。見つかり申すなら、巫女としてお仕え申しあげまい(あげます)と我ら、祈り捧げますと、七日の前に、呼ばわり山で見つかりました。
「
「
「承知した」
「は?」
「六年、神に仕えりゃあ十分ではないか?
「それは。本家さまに相談もなく――」
「無論。父だけでなく
「
「
「納得? そのようなことが必要か?」
やはりな返答を、
一族の中で、未婚の
「では、
この若者は決して引かない。
何より本家に逆らえるはずがない。
明くる日には、
呼ばわり山の暮らしになじんでいた。巫女暮らしは、わびしくはなかった。
時折、仏門に入った
訪ねてくる人との交流はあったし、生活全般、
「――
大巫女が、ぶつぶつと唱えている。
少女は、それを子守歌代わりに聞いて育った。
「――あらゆるもの一切、これを大別すると、いかな
大巫女の言葉の癖は、都のものらしかった。
戦で流れてきた女のようであった。
もう何歳なのかもわからずで、
大巫女は少女に薬の作り方を教え、舞を教え、季節の
あおい木ぃ 芽吹く
木ぃさ あかい火ぃに燃ゆる
土に戻れ きいろの
しろの石を拾え
石に水 降りたなら むらさきの水 木ぃに撒け
そしたらまた あおい木ぃ 芽吹く
大巫女が
たとい 木ぃが土をやせさせようと
火ぃ 石をとかそうと
土 水をにごせども
石の斧で木ぃ切り倒すとも
水 火ぃを消し止めようと
幾度かの戦乱も、呼ばわり山の中には届かず、憂いもなかった。
それでも、少女の
そして、
「
大巫女は言った。
「あぁ、
「われが
少女の言葉は大巫女の影響を受けて、
その少女に大巫女は小声で
「なぁに、雑な奴が減る」
「聞こえてますわー」
どうやら
「もぅし、もぅし。
ひょろりとした僧が、
「歩いてですな。いろいろなものを見聞きするのが楽しいのですよ」
今日も
今朝、少女は、いつもどおりに巫女姿に着替えようとして、大巫女にやさしく止められた。
「もう、
しかし、
「屋敷に行けば、どうにかしてくれるだろ?」
「だろ」
少女は、この
さて、呼ばわり山から
少女の乗った
街道の脇の田んぼには、緑の稲が育っていた。
(覚えがあるような、ないような)
七つの前までは、
けれど、少女は、その母の顔も、ぼんやりとしか思い出せなかった。
(水と、岩と。キラキラしたもの。)
他人の失せ物探しは得意なのに、自分の失くし物は探せないのだ。
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