五
山際の野道を、三人は騎馬でゆっくりと巡った。馬は、ずんぐりとした体で、ぱっこっ、ぱっこっと進んでいく。
領内の
「――
「そうよのう、穏やかなもの、
「――ところで、かわいらしい
実は、
「
「
「月?」と、夏目が。
「あの
「よほど大切な
「
「そこまでは言っとりませぬわ」
「
「それ、それ、もう」
若君は青い。
夏目は調子に乗って、若君を
「もったいをつけとるのか、
「いや、とんでもない
結局のところ、
この三人は兄弟のように育ってきた。親の目が届かぬところでは、互角の口を叩いた。
「あのタオという幼女の姉なりゃあ、それはない」
「おや、若君、そのような考え方をなさるとは、御成長
話している内に、野道は狭くなり急に終わった。
「ここからは、山ですのん」
夏目が、木々の奥を透かして見た。
そこから見える奥の木々に、神域を示す
「この先には何が?」
「呼ばわり山にごぜえます」
「呼ばわり山とは?」
「失せ物があると、ここに来て巫女さまに探していただきやす」
「怪しき
「いえ、
「
聞き逃さなかった。
「では、我らも失せ物を探そう」
「おやめくださいませ。お館様に叱られまするうー」
若い百姓が力なく叫ぶのを、夏目が押さえていた。
「おぉ、まさに、結界?」
「音がせぬ」
不思議だった。
葉擦れもせぬ。足裏にしっとりとした地面の感触はあるが。
雨が降っていたはずだ。しかし、木々は濡れもしていないような。
道がない、と見えたのは目くらましだったのか。
はっきりと人為的な、ゆるい石階段が見えていた。
石階段は、
その先に門が見えた。
門の向こうにあるのは、
その入り口に、
巫女と思えたのは、緋色の
小袖の上に着た、
「失せ物探しか」
しわがれた声だ。
老婆であろうか。
だが、髪は黒々としている。
「
「人を探しておる」
「その者の名は何と」
「……」
「フウ」
「……その、者は」
巫女の声が、少し震えたようだった。
「フウ、だ」
「……」
半歩、巫女は後ろへ下がった。
巫女の体の弾力は、老婆ではない。
途端に
「
巫女が叫んだ。
「
思いがけない巫女の反撃に、
「何者ぞっ」
今度は、若い
男のような身なりに
「怪しいものではない。本家の
「本家の」
走り出て来た女の殺気が引く。ただ、険しい目つきは変わらない。
「申し訳ありませぬ」
とにかく、この場を治めるが先決。分家の
「巫女殿」
「あなたこそ、
したたか打たれたみぞおちを抱えて、
「フウ、だ」
巫女の声はしわがれていたが、上衣から少しだけ見えた指先はなめらかだった。
「迎えに参った」
※〈不知森〉 この世界の神の領域
〈不知日女〉 その巫女
〈元結〉 髪を束ねるのに使う紐
〈唐輪髷〉 前髪を真ん中で分けたのち
から四つの輪を作り根元に余った髪を巻きつけて高く結い上げる髪型
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