恋と婚姻
八
近頃は体調を崩しがちだということで、たとえ巫女の立場であっても、フウは見舞いに行きたいと考えていたところだった。
屋敷では
「
若い百姓は、へこりと
寺への往復は僧の
フウは
それすら、
「一応、お前さんも
かぶせ気味の
「フウさま、
「
また、
「うーん。ちょっと暑い」
「まぁ、フウさまは日焼けなんぞ気にせぬ、お子であったがね」
「
フウは
「はじめて会ったときのフウさまは日焼けして、
「わぁ、意外、でもない?」
「大きな反乱のあとだったでね。
「……フウさま、身内、本家に殺されてるじゃん」
「無常、無常」
「あっちについたり、こっちについたり、風向きを見るのも、この
「今、
そこだけは、フウにもわかっていた。
「そうさぁ。
寺の山門が見えてきた。山の中に入ると木陰が濃い。
「フウさま、
「山また山の向こうの國と」
フウは
「
「八平の家老である
「ほら、フウさまが若君を突き飛ばしたとき。側におった侍従だろ」
「なんと」
「いきなり腕を掴んでくるから」
フウはバツが悪そうに言い訳した。
「それから、
歩いている内に皆、汗をかいてきて、寺に着いたころには、フウの
「さぁて、これよりは、風はどちらに吹くかねぇ」
勝手知ったる他人の寺、
日当たりのよい場所に、祖母上さまの
屋根は秋に
祖母上付きの尼が一人いて、土間に作られた
屋敷で暮らしていたことより、ずいぶん質素な暮らしではないかと思うが、それを言うなら、フウも似たような生活だった。
祖母上は待ちきれなかったのか、
「まぁ、すっかり娘らしくなって」
フウを見た
そして、祖母上の衣の
「
「いえいえ、今日は調子がようございます」
祖母上とフウは、会わなかった
「
そう云う祖母上自身は、
「今日は、ゆっくりしていけ」
祖母上はフウに
「われの嫁入り道具じゃ。お前に譲らーかな(譲ろう)」
「お前の母が使っとった物じゃ。これも持って行け」
「このようなお品、いただいては
「なぁに、もう、ここに、たんと思いがある故」
祖母上は、そうっと己の胸の辺りに手を添えた。
「お前が
祖母上さまは、己の手にフウの手をとり、何度も何度もやさしくなぜた。
「また、すぐ参りますよ?」
「……年をとると、待てが苦手になるのじゃわ」
「
「本意ではないかもしれませぬぁ。亡き室さまに生き写しのフウさまを引き留とめときたい御心が、
永順が言い添えてきた。
「引き止められはせぬ。
祖母上は茶を一口含んで、長いため息をついた。
「それで、フウ。本家の
きらきらきら。
また、フウの頭の後ろ辺りで、泉の中の砂が舞う。
「会い、ました」
印象は最悪であったが。
それがフウの顔色に出たらしい。祖母上さまが、あれ、という顔をする。
「……やはり、覚えとらんのか。フウは」
「?」
フウは昔のことを思い出そうとすると、頭に
「神隠し子は、神さんの知恵を貰う代わりに、自分の記憶を壊すと言いますものやぁ」
また、
「大丈夫、大丈夫。そんなもんだよぉ。われも小さい頃のことって覚えとらん――。ん。この餅、どえらいうまいです」
「
そう言えば、
「これからもフウの役に立っとくれ」
祖母上さまは、自分の餅の皿を
「承知」
「本家が
それは、本家に
祖母上さまは、
※〈被衣〉 女子が外出に頭に
〈三千五百貫〉 この世界では四億円くらいの感覚で
〈美作〉 古来の役職階級では美作守 従五位下を参考とす
〈半蔀〉 軒または天井から下げた金具に引っかけて留める
上半分を開ける窓
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八平源五左衛門常勝 八平本家当主の弟 玖八郎の叔父
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