二
さて、側室は何年たっても山に囲まれた、この領に慣れなかった。
もともとは、亡くなった室が
室が
平地の者は、山というのは天狗や
さんざ、側室も子供の頃に、『山から
(山は、おそがい(怖い))
そう思うていた。だが、平地で幽閉されていた八平の室は、串刺しにされて処刑された。
(平地も、おそがい(怖い))
そういうことだ。
その後の平地は、元々の士豪や参入者との
そうして、山間の地の士族も納まるべくして、
ただ、
まさしく、
自分の息を整えて、側室は板敷の廊下を
エンが握り飯を作ると、
思った通り、
「もう、よろしいだら」
乳母が言うことは耳には入らぬようだ。竹のザルには笹の葉が敷かれ、握り飯が山盛りになっている。
「エン。十分じゃ。それより、夕の
側室は、わざと
「たいへん! 練習せにゃ!」
エンは、ぬれた手拭いで手を拭いて終わりにし、ばたばたと行ってしまった。乳母が側室に一礼し、追いかけて行く。
「握り飯は残れば
側室は、こめかみを抑えた。
最近になって、
気分のよい時の方が少ない。もう三十を超える。女としては身を引く時期だ。その寂しさと心細さが、余計に体に響くようだった。
それでも、今日は夫の帰還と戦勝に心が浮き立っているのだ。
「
うるち米、赤米、ひえやあわの雑穀を混ぜたものが
下女たちもうれし気に、炊飯の大鍋を手に
炊きたてもうまかろうが、この季節は
その塩は、山間の
海に面した半島を持つ
下女たちは、そこまでのことは考えてない。
ただ、飯が残れば
その軒先から白い煙は、ふんわりと立ち上がり空の雲へと混じって行った。
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