八平本家
一
砂利だらけの山路を汗と
「うんまい」
男たちは、口々に言い合う。
故郷の山々を見て誰もが、やっと帰って来たと思えた。
山間の高原は、平地に比べると冷涼で雨が多い。
今は雨の時期を過ぎた夏で、汗をかけば
川からは、小高い場所にある八平本家の
ここから、
また、川下にある菅沼一族は、上流の山間を
この
八平が、この地に根を降ろして、早、五代。
今の当主、
まずは、
ところが、
これだけ、コロコロと主君を変えて、よく生き残れたものだなと思うが、
そのことが、
「ようも御立派な、お働きを」
本家一族が住む屋敷では、当主、
「
上座に
「はい」「はい」
妹のエンは十と二つ。弟の
「お出迎え、ありがとうございます」
やや、かしこまった挨拶を
母は誓詞の証として、
あの日、
それをきっかけとし、まず、
これに怒った
母の父も兄も、そのあとの平地の戦で死んだ。
幼い
その乳母が父の側室になっている。いや、もう側室であったのか。
「
小姓が、男を伴って来た。
「何事ですかな。
どかどかと
その頭には白髪も混じるが先の戦で受けた矢傷も、かすり傷と気にもしない。いかにも
側室は娘を伴い下がろうとする。
「いや、われはまだおる」エンが、側室の手を振りほどいた。
「
「千代丸は
当然のように、側室は言う。
「いやだいやだいやだ」
エンは駆け出すと、
「兄さまに、やっとかめ(久しぶり)、お会いできたに」
「また、
年下の千代丸に言われている。
「
お口が過ぎますぞと乳母である女が、たしなめた。
「エン、
「はいっ」
兄の言葉に気をよくした妹は側室の前をすり抜けて、バタバタと行ってしまった。
乳母があわてて、そのあとを追いかけて行った。
「やれ、あれが本家の
「いや、
「では、われも」
側室は、娘の後を追って退室した。
※〈山家〉 山間の士豪
〈不器用者〉 統率者としての器量の無い者
〈障礙〉 障害
〈日女〉 この世界の武家の女性の敬称
〈参之國〉〈尾之國〉〈峡〉 この世界の大國
〈質子〉 人質
〈首座〉 いちばん上位の席
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
美作貞能(32歳) 八平本家当主
玖八郎貞晶(15歳) 八平本家の総領息子
和田出雲貞行 和田家三代 貞能の曾祖叔父
千代丸(10歳) 玖八郎の弟
エン(12歳)玖八郎の妹
※この世界の山家の言葉は三河の方言寄り
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます