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後日談――
ゴーストドールの怪談を解決した、その翌日の七月二十九日。
僕達は何やかんやで登校していた。
虎白さんや亀美さんや凛太郎さんや僕など、『明日学校行かなくて良いんじゃね? それより打ち上げ行こうぜ』派はサボる気満々でいたのだけれど、花鳥さんと龍子さんの真面目コンビにそれを阻止されてしまった。
「駄目ですよ。今日途中から学校サボったんですから。それにゴーストドールの怪談も一件落着した事ですし、休む理由がなくなったじゃないですか! ちゃんと明日は全員揃って学校へ行くんです!」
「そうそう、南原花鳥さんの言う通り。学生の本分は勉強よ? それに明日は一学期の終業式なんだから、昼には学校終われるよ。打ち上げはその後にしても良いじゃん。終わり良ければ全て良しよ」
反論の余地が無いほどの正論だった。
花鳥さんはともかく、龍子さんはどちらかというと
てゆーか今日、終業式だったのか……それにも驚いたよ。
しかしまぁ……それでも。
「えぇーっ!! えーやんかぁ! 今日頑張ったんやからぁー、明日ぐらい休んでもぉー! 花鳥と龍子の堅物ー! 視野狭いんとちゃうか!?」
「そーだそーだ! 何事も柔く考える柔軟性も大事なんだぞ!! もっと広い視野で世界を見てみろよ! 常識なんてぶっ壊せよ!! 価値観のストレッチだよ! ストレッチ! フニャフニャにいこうぜ!! フニャフニャによぉ!」
「ぐぅー……すか……ぴぃー……すやすや……」
と、虎白さんや凛太郎さんが反論し、亀美さんが寝る事で異議を唱えたが、聞き入れて貰えず、結局真面目コンビに押し切られる形で、本日の登校となった訳だ。
「終わり良ければ全て良し……か……」
等と、僕は一人呟いた。
終業式を終え、何だか一人になりたいなと、ふらりと立ち寄った屋上で空を見上げながら、呟いた。
空が綺麗だなぁ……。
昨日までの騒がしさが嘘のようだ。
こういう一仕事の後って、何というか無気力になってしまう……。
俗に言う、燃え尽き症候群というやつなのだろうか?
そんな訳で僕は空を見上げながらぼーっとしていた。
もうすぐ八月だ。夏真っ盛り。
ギラギラとした陽射しが僕を包み込んでいる。
日焼けしそうだな。
「あ、こんな所に居た。昨日はアレから大変だったみたいだねぇ」
「何だ、怪談マニアさんじゃないか」
「その呼び方……学校ではやめてって前に言ったよね?」
「失礼……ついうっかり」
「ま、今は二人っきりだから良いけどさ、教室とかではくれぐれも気を付けてよ?」
「精進します」
「ほんとに、ほんとに気を付けてよ!?」
何で隠そうとするんだろ?
誇れる趣味だと思うけどなぁ、怪談マニア。
「東さんから聞いたよ。無事終わったみたいで何よりだね」
「本当に何よりだよ……今から思い返すと、今回ばかりは、マジでやばかったと思う……我ながら相当めちゃくちゃな事したなぁ……と、引っ掻き回したなぁ……と、反省点ばかりだよ」
「みたいだね」
あははっと、怪談マニアさんは笑った。
可愛らしい笑顔で。
「助言……ありがとう。本当に助かった……君の助言が無ければ、きっとあの解決方法に気付くのにもっと時間が掛かっていたと思う」
「どういたしまして。……そっか、役に立てたのなら良かったよ」
「君だけじゃない。今回は、周りの人に助けられてばかりだったよ……」
「ん?」
「この学校に入学して、色んな怪談を解決して……僕はきっと、自惚れてたんだと思う……自分一人で何でも出来るって思い上がって、その結果、皆を引っ掻き回してしまった……反省点ばかりだよ」
「あれれ? ちょっと落ち込んでる?」
「いや……落ち込んではない。きっとそう見えるのなら、眠いだけ……。昨日あんまり寝れてないから……」
「ま、落ち込む必要は無いんじゃない? ちゃんと、怪談は潰せたんだし、結果オーライだよ。終わり良ければ全て良し、ってね」
「……話聞いてた? 別に落ち込んでる訳じゃ……てゆーか、怪談を……潰す? 何その野蛮な言い回し」
「あれ? 知らない? 私達の業界では、あなた達六人揃って――【〇〇〇〇〇〇〇】って呼ばれているのよ? 知らなかった?」
「初耳だよ!」
何だその不名誉な相性は! 嫌だよそんな風に呼ばれるの!
「あははっ、そんなに嫌? どんぴしゃだと思うけどなぁ、私は」
「…………他人事だから、そう思えるのさ」
「ふふふっ、そーかもね」
まったく……この人もどちらかと言うと、
「とにかくさ」
「?」
「昨日まで一件で、君は一つ大きな成長を遂げたと思うよ」
「え? いきなり何?」
「何だろうねぇ? 何かそう言わなきゃと思ったから言ってみただけ」
「何それ……」
でもまぁ……言わんとしている事は理解出来る。
何となくだけれど……。
「あ、それより、下で東さんや中宮木先輩達が探してたよ? 『竜生はどこだぁー』って」
「そっか。なら、こちらから顔見せに行くとするよ」
「うん、行ってらっしゃい。夏休み、満喫してね」
「そちらこそ」
軽く手を振って、怪談マニアさんと別れ、屋上の扉の取っ手に触れようとしたその瞬間――
「央くん」
と、呼び掛けられた。
「ん、何?」
「これからは、ちゃんと……仲間を頼らなくちゃ駄目だよ?」
アドバイスをいただいた。
ありがたい、アドバイスを。
「肝に銘じるよ。怪談マニ…………」
「むむ?」
おっと……学校内では、この呼び方は駄目なんだっけ?
ならば本名で言い直そう。
「肝に銘じるよ――――外川 人葉さん」
「うむ、よろしい。じゃあね、央くん」
「うん、またね」
そんな屋上での、怪談マニアさん――こと、外川さんとのやり取りを終え、僕は自分の教室へ。
「あぁー!! 竜生いたぁー! どこで何してたのさぁ!」
早々、龍子さんに発見されてしまった。
そんなに慌てちゃって、打ち上げに行くだけでそんなに慌てる必要もなかろうに……。
「ちょっと屋上で日向ぼっこしてた」
「日向ぼっこって……あんたねぇ……この大変な時に!」
「へ?」
大変な時……?
それってどういう……。
「打ち上げの話じゃないの?」
「違うわよ! 怪談よ怪談! 新しい怪談事件よ!!」
「えぇっ!?」
昨日どデカいの解決したばかりなのに!?
「兄貴のクラスメイトが【命を削るシャー芯】を使ってたみたいでさ! さっきぶっ倒れたのよ!」
命を削るシャー芯!? 何それ? そんな怪談はじめて聞いたんだけど?
「とにかく! 早く来て! 兄貴達が竜生を呼んでるから! ――――あんたの力を貸して欲しいんだってさ!!」
「っ!!」
力を……貸して欲しい、か……。
「何笑ってんのよ竜生! 早く行きましょう! 緊急事態も緊急事態だから! 早く!」
「分かった! ――行こう!!」
借りを作った分は、すぐに返さないと。
やれやれ……夏休み突入早々、大変な事になりそうだ……。
これは夏休み中も思いやられる……。
だけど頼られたのだ。精一杯、頑張らないと。
等と思いつつ、僕は急いで教室を飛び出した。
「こっちよ! 竜生!」
「うん!!」
怪談を終わらせた後に、すぐに怪談に巻き込まれるなんて……高校に入ってからは、こんなのばかりだ。
そりゃ、その筋の人にこう呼ばれる訳だ――
【怪談潰しの変人】ってさ。
余談だが。
今日の夕方に、件の警察署の人から凛太郎さん宛に一通のメールが届いたそうだ。
何でも、葉隠祭さんが『十億円の宝くじ』を当てたらしい。
凄すぎでしょ……。
これは、守護霊である衣ちゃんや葉隠一家の力なのかな?
そうだったら嬉しいなと、僕は思った。
【了】
怪談潰しの変人〜ゴーストドールが可哀想〜 蜂峰文助 @hachimine
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