第8話
爆音が収まり、土煙が晴れる。地面は抉られ、赤く溶けている箇所もある。
「…生きてるか…コユキ…レナ…」
アレックスは地面に刺した剣を引き抜くと、無事を確認する。
「…なんとか…何が起こったの…?」
「…死んだと思ったぁ〜…生きてるぅ〜…」
「俺の剣でなんとか凌げたが…爆弾?…それに近いものを撃たれた感じだな…」
「…そうだ!隊長は!?スコット!アンドレ!ロビン!」
コユキの呼びかけが響く。しかし、
「コユキ、ダメだよ…もう…」
レナが何かを見て項垂れる。そこには、上半身だけになったアンドレと、頭を吹き飛ばされたスコットの亡骸があった。
「…!!…うっ…えっ…」
「ロビン!ジェームズ!いるか!」
アレックスが叫ぶ。瓦礫がそれに呼応するかのようにごろりと動くと、赤いものが溢れてきた。
「クソッ!俺がもう少し早く気づいてれば!」
「…あれは無理だよ…アレックスがどんなに強くても、みんなは守れないよ…」
レナが嘆く。
瓦礫がさらに崩れていく。そこから、
「…あー…誰か…いるか…」
「隊長!?」
「ジェームズ!今行くぞ!」
アレックスが駆け寄る。ジェームズは瓦礫に左の腕と足を挟まれた状態であった。
「今治癒をします!死なないで!」
「…大、丈夫、だ…今すぐには死ねなさそうだわ…」
「冗談いう元気があればまだなんとかなるな…ふんっ!」
アレックスは瓦礫を持ち上げて、潰された腕と足を慎重に引き出す。
「…なぁ、アレックス…」
「辞世の句なら後50年後にしてくれジェームズ、なんだ?」
「…金切り声…聞こえたか…?」
「あぁ…そいつがこの事態を引き起こした親玉だろうな」
「…恐らく…他の魔物は陽動だ…本命は…爆撃による基地破壊…」
「…今が好機ってことだな…」
「…察しが良くて助かる…俺を魔物の囮にして、本丸を叩け…」
「できません!隊長を犠牲にするなんて!」
コユキが叫ぶ。レナは蹲って泣いている。
「…俺は運がいい…こんなにも優秀な部下が持てた。軍人としてこれ以上のことはないな」
ジェームズはボロボロの身体で立ち上がる。
「隊長!」
「ありがとなコユキ。治癒のおかげでまだ俺も戦える。」
「ダメです!本当に死んじゃいますよ!?」
「俺はな…ここで死んじまった奴らが無駄死にとか言われるのが一番腹が立つんだ。こいつらの死が無意味だと言われたくない。だから、俺はやるんだ」
「隊長…」
「無駄死ににはさせないぜ、俺が。」
アレックスは言う。
「スコットは真面目そうに見えてすぐ手を抜こうとする奴だった。訓練中も真面目にやってるかと思ったら、彼女と魔法で通話してた。でも与えられた課題はきちんとこなすし、何より、同じ班のやつの不利益になることはしなかった」
「アンドレは馬鹿だがセンスはピカイチだった。剣捌きでいえば今回の新兵の中で1番だ。前衛と後衛の役割を延々と夜遅くまで教えたのは忘れない。そこからはぐんぐん伸びていった。将来は地元で衛兵になるんだって息巻いてたな」
「ロビンは単独行動が多かった。1人での暮らしが長かったから、うまく人と馴染めなかったんだ。俺はアイツと取り止めもないような馬鹿話をして、班のやつらとも笑いあえるようなそんな関係になれるといいな、なんて話をしてた。補給任務の途中で食事が豪華な時あったろ?アレ、アイツがみんなのために取ってきたんだぜ」
皆、静かに聞いている。
「俺はアイツらを忘れない。アイツらと過ごした日々は短かったが、かけがえのないものだ。だから俺も、命をかけなければ道理が廃れるってもんだろ?」
「アレックス…お前、本当にいい男だな!生き残ったら俺より上の役職に推薦しとくぜ!」
ジェームズは鼻水を啜りながら笑う。
アレックスも微笑む。
「レナ、お前はジェームズを守ってやれるか?」
びくっと蹲ったままのレナが動く。
「今のジェームズじゃ囮にもなれない。だがお前がいればなんとかなる」
「…アタシに死ねって言うの!?」
「死なせない」
「何か根拠でもあるの!?守れてないじゃない!スコットも!アンドレも!ロビンも!」
「根拠はある」
「…ねぇ、アレックス、その根拠って何?どうしてそんなに諦めないでいられるの?」
コユキが問う。
「恐らく敵は、基地破壊の際にエネルギーをかなり使っている。相当な広さがあるのにほぼ全てを破壊できるぐらいだ。だが2回目の爆撃の時は最初よりも被害が狭い。」
周りを見渡すアレックス。同じく見渡すコユキ。
「…本当だ、直撃したところ以外は被害が少ない…」
「だからって、相手はこっちに向けて即死するようなものを撃てるのよ!?」
「そして方角が2回目の爆撃で分かった」
「はぁ?」
アレックスは指を指す。
「見張り台があった場所だ。あそこに親玉がいる」
見張り台があった方角を見ると、確かに草木が燃えている。
「お前がジェームズを守りながら戦う。そして爆撃が飛んできたら、俺が撃ち落とす。」
「…何言ってんのあんた?頭おかしくなったの?」
「俺の主観だが、あの爆撃は撃つのに時間がかかる。鳥系の魔物にも爆弾を落とす奴がいるからな。そして、以前俺はその爆撃を撃ち落としたことがある。」
「だからって今できるの!?」
「できる。さっきので感覚は掴んだ」
「…もうやだこの蛮族…おうち帰りたい…」
「アレックス、できるのね?」
「あぁ、そしてコユキ。お前には…」
「分かってる。撃ち落とした時の被害を防護魔法で受け流すんでしょ?」
「流石コユキ、冴えてるな」
「コユキちゃんまで蛮族の思考になってるよ〜…うええ…」
「よし!作戦は決まったな!レナ!死にかけの俺を守ってくれよ!」
「いやぁ〜…帰りたい〜…」
基地を全壊させるほどの脅威。鶴の魔物に警戒しながら、アレックスとコユキは前線基地から密かに離れ、見張り台へと向かう。
遠くで銃声が聞こえる。ジェームズ達が戦っているようだ。そして響く金切り声。
アレックスが構える。コユキは予め詠唱しておいた防護魔法をいつでも発動できるようにする。
飛来する発火した巨弾。
「炎剣・打!!!!」
アレックスは剣を振りかぶり、巨弾を左側へ撃ち落とす。そして広がる爆炎と衝撃。瞬間、コユキが防護魔法を発動する。
「よし!このままいくぞ!」
「ええ!」
爆煙から飛び出し、見張り台へ走り出す。
友を屠った悪魔をこの手で斃す為に。
SAGA1章 下痢仮面 @Gerikamen
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