第13話 光格天皇

 21世紀初頭の時点において、"光"の諡を贈られた最後の天皇は 第119代 光格天皇だった。かの天皇も当然のことながら傍系出身の天皇であり、現在のところ この方が分家出身(先代から見て)の直近の天皇ということになるわけだが、かの御仁は もっと別のところで有名であった。令和になって まだ何年も経っていないため 記憶に新しいこととは思うが、先代(平成)の天皇陛下が退位される際、引き合いに出されたのが この天皇だった。さきの天皇の退位は、光格天皇以来 実に202年ぶりの出来事であった。

 光格天皇の次の仁孝天皇(第120代)より 5代に渡って終身 天皇の地位にあったわけだが、光格天皇の時代を画期とする事柄は 他にも存在する。その一つが、だ。これまで 当たり前のように ○○天皇という表記をしてきたが、それ以前は代数的には冷泉【63】〜 基本 天皇号ではなく で呼び表されていた(○○院)。

 また、かの天皇の時より している。古来より 天皇陛下の御名をみだりに口に出すことはなく、文章の中で尊敬の表現を用いることによって 存在が滲み出してきたが、過去にあらせられた主上と区別するため その崩御後 諡を贈られていた。その諡のくくりの中に、漢風諡号や追号等があるわけだが、前者は 光孝天皇(第58代)で途絶えていた。

(例外はあり。崇徳第75代安徳第81代顕徳第82代順徳第84代。)

 ちなみに、追号というのは、厳密に言えば正式な諡号ではなく、単なる通称の域を出ないという。後○○天皇のように"後+○○○○天皇リスペクト"のような例は 加後号と呼び、この類に属す。光明・光厳天皇のように、居住した寺から引用された場合も 追号これに含まれる。

 なお、明治になって追諡された例として、

   第38代 弘文天皇(大友皇子)

   第47代 淳仁天皇(淡路廃帝)

   第85代 仲恭天皇(九条廃帝)

が挙げられる。大友皇子は 正史『日本書紀』においては 即位を認められておらず、淳仁天皇は 恵美押勝の乱(764年)に連座し廃位、次代の称徳女帝に否定され、仲恭天皇は 践祚はしたが 即位礼を行う前に廃されている。

 ついでに、践祚と即位の違いだが、前者が 新帝が神器を引き継いで皇位に就くことで、後者が 新帝が皇位に就いたことを広く世に知らしめること。古代は 区別をすることはなかったが、平安期以降は 践祚の儀と即位の礼を分離し 別々に行うことが慣例となり 区分された。私達にとって 践祚がなじみがないのは、現在の皇室典範に その語が用いられていないことが関係しているだろう。

 それはともかく、第119代 光格天皇は 先代 後桃園天皇から見て 傍系にあたる閑院宮家の出身だった。閑院宮家は 江戸中期の政治家 新井白石が創設に大きな役割を果たした世襲親王家であるが、かの宮家の血脈が 現在の皇室につながっている。

 光格天皇即位に至るまでの大まかな経緯だが、彼の3代前にあたる桃園天皇(第116代)が 忘れ形見を残して夭折。その子を皇位に就けんがために、桃園天皇の姉が中継ぎとして即位した。かの天皇が 現在のところ 日本最後の女帝である後桜町天皇(第117代)だ。

 しかし、桃園天皇の皇子は即位したものの(後桃園天皇)、男子を残さず 若くして崩御。ここで後継問題が持ち上がり、閑院宮家出身の祐宮後の光格天皇と 伏見宮出身の嘉禰宮後の貞敬親王の名前が候補として挙げられた。余聞だが、後者である伏見宮 貞敬親王は香淳皇后昭和天皇の皇后の先祖にあたる人物である。

 結果として、前者が選ばれて即位、後桃園天皇の皇女を皇后とした。先代とは 実に7親等離れていた。武烈第25代継体第26代が10親等、称光第101代後花園第102代が8親等で、先代との関係で言えば、それらに次ぐ血縁の遠さだった。フランスのカペー朝 最後の王とヴァロア朝の初代が従兄弟であり、女系ではあるが 隋の煬帝と唐の太祖も従兄弟同士、ウマイヤ朝 最後の王と後ウマイヤ朝の初代は 6親等であることを鑑みると、海外であれば 王朝交代と言ってもいい王朝名を変えてもいいほどの 血の開きであった。

 奇しくも、光格天皇君臨時は 将軍 徳川家治から家斉の時代であり、時の老中 松平定信が"大政委任論"を唱え、それをもって 近代の始まりとみなす研究者も存在。尊王論が 台頭し始めた画期となる時節だった。

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