第3話 メイド探偵

数日後、僕は再びアキバへとやって来た。何と、関矢から『新しくオープンしたメイド喫茶に行かない?』と誘われたからだ。たまたまバイトも休みだったから、本当に運が良いと感じた。

待ち合わせ場所には、この前関矢と一緒にいた2人が先に到着していた。

「おぉ、少年!」そう言って僕に話し掛けて来た。

暫くすると、関矢がやって来た。何やら、大きな紙袋を持っている。それに気付いた男が「もしかして、この前言ってた限定フィギアですか?」と尋ねると、満面の笑みを浮かべ、勝ち誇った顔で「そう、限定100個のフィギアです」と言った。

どうやら、関矢達が好きなアニメのフィギアを、ついさっき買って来たらしい。

僕は、全く興味がないのだけど、話を合わせる為に色々と勉強をしている。そのフィギアの価値は解らないが、ネットで調べた限りだと、限定100個のみで、定価が10万もするらしい。予約殺到商品らしいが、関矢の金の力によって、買う事は容易いのだろうと思った。そんな高価なフィギアでさえ、すんなり買える関矢の金銭感覚が狂っていると感じたが、価値観なんて人それぞれだなと思う。

この前、阿久津なんて30万でギターを作ったと言っていたし。だからと言って、自慢などしない。そこは、張り合うものではないからだ。

ギターもフィギアも、所詮は個人の価値観。いくら許せない男の事でも、それを否定などしないし、むしろ、何もない僕からしたら羨ましい事でもある。

今の僕には、姉から託された目的しかない。それを糧にして今を生きている。

―—―復讐

きっと、これは姉からの託された目的と言うよりも、僕自身の復讐なんだろう…


「関矢様、ご来店ありがとうございます」

メイド喫茶へ着くなり、そこのオーナーらしき男が関矢に頭を下げた。

僕は意味が解らなかったが、関矢の取り巻きの一人が耳元で「ここのお店、関矢さんが金銭面で援助したらしいですよ」と教えてくれた。

案内された席に着くと、そう言えば自己紹介ちゃんとしていなかったですよね、と関矢が切り出した。

確かに、関矢の事は解っていても、他の2人に関しては名前すら知らなかった。だから、僕は勝手に見た目で、メガネとガリガリとあだ名を付けていた。

どうやら、メガネが角さんでガリガリが助さんと呼び名らしい。水戸黄門からインスパイアされたあだ名らしいけど、どうでも良かった。そんな下らない話をしていると、注文した料理が届いた。

まだ、不慣れな感じであったが、メイドが一生懸命に場を和まそうと意味不明な言葉を言いながらケチャップでオムライスに絵を描き始めた。

僕のオムライスにはうさぎの絵が描かれ、4人とも別々の絵を描かれたのだ。

助さんが写真を撮る。それに続けて関矢も角さんも写真を撮り始めたから、僕も仕方なく写真を撮る事にした。

食事を終えると、頼んでもいないデザートが届いた。「オーナーから関矢様に」と運んで来たメイドが言う。

「このお店のオーナーとは古い付き合いで、オープンするにあたって僕が少しだけ援助したんですよ、条件を出しましたけど」

関矢の出した条件なんて、興味もなかったが聞いてみた。

アキバで一番のメイド喫茶にする事、これが、関矢が出した条件らしい。

食事を終え、店外に出ると、関矢が用があると言ってその場で解散となった。


僕は、買い物をすると言って、3人とは別の方向へ歩き出した。

「お兄さん」と、背後から声を掛けられたから振り向くと、この前、関矢と接触するのに頼んだメイドが立っていた。しかも、この前とは違って、さっき行ったメイド喫茶の制服を着ている。

「大事な話があるから、私が仕事終わるまでアキバで待ってて貰って良い?関矢の事で話があって…」

僕は、頷いて、彼女の仕事が終わる18時まで時間を潰す事にした。

約束の時間、僕は駅前で彼女を待っていると、私服に着替えた彼女がやって来た。ここじゃ誰に見られてるか解らないから移動しようよと言われ、電車に乗って移動をした。

電車を降り、ファーストフード店へ入った。

「それで、関矢の事って?」そう切り出すと、クスクスと笑い始めた。

「ねぇ、勇人君」彼女がいきなり僕の名前を言った事に驚いた。何故なら、名前なんか教えていないからだ。じゃあ、何故、知っている?頭が混乱し始めた。

「あれからアキバに来ないから、私から電話しようと思ってた時に会えて良かったよ」

意味不明な会話が続く。

電話をする?何で、番号を彼女が知っているんだ?更に、混乱し始める。

すると、彼女がスマホを操作し、僕に画像を見せて来た。その画像は、僕の姉と彼女が仲良く写っている画像だった。

「私と真美はね、友達なの。で、もしかしたら弟がアキバに来るかも知れないし、もし来ても会わなければ電話して欲しいって頼まれてたんだ」

何が何だか解らなくなって来た僕は、頭を抱えて彼女の話を整理した。

つまり、僕は偶然声を掛けた彼女は、姉の友達で、もし会う事が無かったら電話が来たって事で…だけど、それは何故?


「じゃあ、順を追って説明するね。あの日、チラシを配っていたメイドで喫茶で私は働いていないの。あそこの店長が私の知り合いでね。で、関矢のツイッター見ながら、もしかしたら勇人君が来るかな?って思って。今は、関矢が出費したメイド喫茶で働いているけど、これはあくまでも潜入って言い方で良いのかな?それは、勇人君と同じ目的ね」

聞けば聞くほど、頭が混乱して来る。

「えっと、じゃあ君の目的って何?どうして姉を知ってて、僕の事も知ってるの?」

クスクスと笑いながら彼女はスマホを操作し、また僕に見せて来た。

今度の画像は、僕の写真だった。高校卒業の祝いの日、六本木のレストランで撮って貰った家族写真と、姉が撮った僕だけの写真を見せられた。

「何で、君がその写真を持ってるの?姉から貰ったの?」

「真美が私に送ってくれたの。『私の弟を守って』って言ってさ」

また、彼女がスマホを操作すると、僕のスマホが鳴った。

「それが私の番号ね」

姉が僕の為に頼んだ?彼女は姉とは友達って言うけど、本当にそれだけか?それに、関矢の事も知ってるし、その関矢が出費した店で働いているって、何か裏があるんじゃないか?姉が受けた仕打ちも知っているのか?

「真美はね、ずっと苦しんでいたの。あの子が居なくなる前の日に会って、その時に色々と頼まれてね」

「ちょっと待って!君が姉の友達って言うのは解ったけど、君はどこまで知ってて、何をしようとしてるの?」

「多分、勇人君が知ってる事は、全部真美から聞いてるわ。それに、関矢個人に対して、真美の件だけでなく私にとっても復讐なの…」

そう言えば、僕は姉の私生活に関して、殆ど知らなかった。阿久津や関矢との過去なんて、全く知らなかった。確かに、身内になんて言いたくもないし、聞かれたくもない内容だけど。その全てを彼女は知っている。そうなると、ただの友達ではないのか?

「えっと、君は何者なの?」

「真美とは高校時代の同級生。卒業してからもずっと仲が良いんだよね。一応、これでも探偵やってるんだ。探偵の仕事としてメイド喫茶に潜入捜査中」

探偵?潜入捜査?更に頭が混乱し、頭痛さえして来た。

つまり、彼女は姉から頼まれて捜査してるって事になるのか?

「探偵って言っても、あくまで個人でだよ?趣味と言うか…昔から、推理小説とかミステリー小説が好きだから、その延長線で学生時代からやっててね」

そう言えば、姉から聞いた事があった。同級生に探偵みたいな子がいて、一緒に推理して遊んでるとか、浮気調査のバイトを手伝ったとか。その相手が、今、目の前にいる彼女だったみたいだ。

「関矢の事は、私も協力出来るけど、阿久津と森川は勇人君がお願いね。何かあれば力になれるからね」

「うん。それで、姉の居場所は…」

「それは知らないわ。もしかしたら…」ここまで言うと、彼女は咄嗟に手で口を塞いだ。

もしかしたら、もうこの世にはいないとでも、言おうとしたのか?それとも、確信はなくても心当たりでもあるのか?彼女の顔色だけでは判断が出来なかった。

「あ、私の事は芽衣って呼んでよ、メイド探偵の芽衣ね。とにかく、これからはよろしくね、勇人君」そう言って、彼女が右手を差し伸べ握手を求めたから、僕も右手を伸ばし握手を交わした。





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真実 ー3人の因果関係ー 神木 信 @eins-13

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