繋ぎ止めて、幻想
先程の
空色の瞳が、心配そうに咲穂を見上げた。視線が交わる。
「まスターハ、どコでスカ?」
握りしめた手が僅かに力を帯びているのを感じた。慌てた咲穂はその手を握り直すと、しゃがんで視線を合わせる。いつかの兄がやってくれたように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ニア、大丈夫だよ。絶対逢えるから」
本当のマスターに、という言葉はすんでのところで抑えた。咲穂の言葉を聞いて、青色の瞳が微かに見開かれる。
「ニア……ダれでスか?」
「あっと……君の名前、かな……」
思わず口から出てしまった言葉を誤魔化すように笑いかける。少年は静かに少女を見つめていた。
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『ニア……ダれでスか?』
『あっと……君の名前、かな……』
『なマえ…』
『そ、名前。生まれてきた君に渡す、最初のプレゼント』
知らない誰かの声と照れくさそうな笑顔が、脳裏で
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「ニア……」
「どうかした?」
動かなくなってしまった少年に、少女が優しく問いかける。
「いエ、なんデもなイデす」
ニアはそう言って首を振った。青天にほんのりと影が差し込む。咲穂は彼の反応に首を傾げると、もう一度その手を繋ぎ直した。
「急がないと」
皆が会場から消えた少年を探しているはずだ。急がなければきっと追いつかれてしまう。闇に、過去に、亡霊に。
とりあえず上司に今の状況を伝えようと思い、通信機に手を伸ばした。今頃さがしているはずだ。長いノイズ音のあと、上司の声が耳に飛び込む。
「咲穂……───ッ、─────!!」
名前を呼ばれ、叫び声が耳を
頬に走る鈍い痛み。切れた頬から一筋の赤い線が伝う。
「あらあら、貴方の行く場所はそっちじゃないわ」
背後から聞こえるヒールの音。それと同時に響く記憶の中の
「迷子になちゃったのね、でも大丈夫」
ゆっくりと振り返る。少女の瞳が女を捉える。
「私があるべき場所に返してあげるわ──」
黒い服に、黒い傘。白い肌に埋め込まれた宝石の瞳。
「──地獄という名の楽園に、ね」
『咲穂……───ッ、─────!!』
『咲穂……逃げろッ、今すぐに─!!』
上司の言葉が脳裏にこだまする。今更遅いよと微かに笑ってから、女を睨んだ。
「やっと逢えたわね、可愛い子猫ちゃん」
湖白はそう呟いて、乾いた笑みを漏らした。
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