第6章 With The Sparkle of Gemstones
鬼渡し
──Diamonds never lie to me. For when love’s gone, they’ll luster on──
──ダイヤモンドは決して私に嘘をつかない。
愛が無くなっても、それらは輝き続けるのだから。
誰かが『
「待って」
そう声を絞り出した。伝えなければならないことがある。聞きたいことがある。今の
「はいはい〜!!
も〜せっかくのパーティーが台無しやんか!! なぁ?」
しかしその姿が宙を舞うことはなかった。青年の足が止まる。咲穂も驚いて下を見下ろした。気の抜けた関西弁を溢した男は口角を持ち上げると、
「警視庁特務課です、無意味な抵抗はよして投降して下さい」
男の隣から、別の女が声を掛ける。長い黒髪と、氷海のように冷たく凍り付いた瑠璃色の瞳。
「まぁまぁえぇやんか! そういうお仕事的な雰囲気、わい嫌いなんよぉ〜?」
「お仕事的な雰囲気、ではなく、仕事の時間ですが」
「も〜これはお仕事やなくて、パーティー!!
素敵な
男の言葉に女は何も言わず口を閉ざす。大人しくなった彼女の背を満足そうに叩くと、男は再び上を見た。
「あんた、わいのタイプなんやけど、一曲踊ってくれたりせぇへん??
お願いや!! ほら、この通り!!」
場違いな程軽快なクラップ音が鳴る。額の前で手を合わせた男は、
咲穂は不安げに彼の方を振り返った。その表情は伺えずとも、困惑の色が浮かんでいるのが見て取れる。それは彼に限った話ではない。きっとこの場の誰もが感じていること。
『
「ひひ、ええなぁ………魅力的な女性ほど手に入りにくいもんなぁ……」
そんな声が、近くで聞こえた。彼は一階のフロアに跪いていたはず。こんな近くで声が聞こえることなどないはずなのに───
青年の口から、ひゅっと息の漏れる音がする。その唇に男が人差し指を当てる。見下ろしていたはずの男は今、確かに少女の目の前にいた。男は青年と視線を絡める。初めて見たその瞳は、彼と同じ琥珀色。
しかしそこに浮かぶのは、慈愛ではなく────
「ごめんなぁ? わい、狂ってる奴ほど好きになっちゃうみたいやわぁ」
男の指が唇から顎を伝い喉笛を掻き切る手前、彼はくるりと攻撃をかわす。そしてそのまま暗闇へ吸い込まれた───立ち入りを禁じられた、深い、深い闇へと、誘われるように消えていく。男はその後ろ姿を追いかけ暗闇に浸かった。鮮やかな髪がとっぷりと闇に溶け込んだあと、咲穂は慌ててその暗闇のもとに立った。闇は優しく手を広げ、どこまでも受け身に、少女を待っている。しかしその優しさが、ちりちりと心を焦がしていく。ここから先は、神に
「……行こう」
行くしかない。例えどんなことがあったとしても、行かなくてはならない。
何故?
心の何処かで、そんな囁き。しかし、その声が少女に届くことはない。
黒々と輝く静かな闇の中。脱ぎ捨てられたドレスとヒールが、風に吹かれていた。
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