Summer Time Record
ボクが生まれた日
昨日も今日も晴天で 入道雲を見ていた
「それ」はどうも簡単に 思い出せやしない様で
年を取った現状に 浸ってたんだよ──
❁.*・゚
「よしっ!! これで完成っと!!」
真夏の廃工場。汗を煌めかせながらも破顔する一人の少女がいた。高い位置で二つ結びになった髪が、彼女の動きに合わせ嬉しそうに跳ねる。つなぎの前ポケットに詰め込まれた工具もコミカルな音を立て、青い空に消えていった。
「アミ、この前から一体何を造っているのかしら?」
満足げに笑う少女の背に、リタはそう声を掛ける。
職場である
「あ! リタちゃん!」
アミと呼ばれた少女はくるりと振り返り、汗に濡れた顔を
「ねぇねぇ見て! すごいでしょ!?」
彼女は子供のように
アミの前方に置いてある椅子には、一人の少年が座っていた。どうやら眠っているようだ。リタは興味本位で近づくと、そっとその肌に触れる。そして驚いた。
「何これ…?」
「ふふ、よくぞ聞いてくれました!!」
リタの
「これはあたしが生み出した、人型
「
「リタちゃんは知らないよな〜!
彼女は椅子に座る少年に近づくと、カチッとスイッチを入れた。何かが起動する音がして、彼の瞳がゆっくりと開く。
「今日から彼が、あたしたちの思い出を記録してくれます!」
「記録?」
「そう記録。彼が実際に見たり聞いたりしたデータが蓄積されていくの!
昔そういった
「へぇ…よく知ってたね」
「あたし最近、
少年の瞳は、空のように澄み切った水色をしていた。彼は数回瞬きをすると、微かに首を傾げる。
「ますター、カのジョハだれデすカ?」
無機質な電子音が脳を揺らした。見た目こそ人間と寸分違わないが、こう見ると完全に
「■■、この子はリタちゃん。あたしのお友達だよ」
「■■?」
「そ、この子の名前。素敵でしょ?」
「こんな
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キロくしマす。
19XXねン。ナつ。とテも暑イ日デス。
ますターがまタトもダちヲツレテきマシた。
ますターよリも大人っぽクてイいかオリがしマス。
カのジョのナマえはリた。ボくのこトがアまリ好きデハないヨうデス──
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「そんなことないよ!!
どんなものだって愛情を持って育てたら、ちゃんと応えてくれるんだから」
「さぁ? どうだか」
「も〜■■どう思う? リタちゃん意地悪だよね〜!」
「…キロくしマす。リたチャんハイじわる……」
「ちょっと!! やめなさいよ!!」
アミの笑い声が空へと吸い込まれていく。リタもふと笑みを溢すと、声をたてて笑った。
「ね? 面白いでしょ?」
アミがリタの瞳を覗き込んでくる。その問いかけに、彼女はこくんと頷いた。風が一陣吹き渡って、二人の髪を巻き上げる。
「今日から■■も、あたしたちの家族だよ」
アミは満面の笑みのまま、■■にそう語りかけた。
「かゾク……?」
「そう、家族。ずっと一緒だよ」
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キロくしマす。
ボくたチハ家族のヨうでス。
ずット一緒に居れルようデス。
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「せっかく仲間に入れてあげるんだから、
お世辞くらい言えるようになりなさいよね」
リタが■■に顔を寄せそう言うと、アミはまた、ころころと笑い声を立てる。
「■■、気にしないで。
リタちゃんはね、
素直になれないだけで本当はとっても喜んでるんだよ〜! ね〜!!」
「は? 別にそんなんじゃ…」
「キロくしマす。
リたチャんハスなオニなれナい。ほンとハウレしイ」
「もういい加減にして!!」
「あはは、リタちゃん怒っちゃった〜!!」
リタが顔を真っ赤にしてそう叫ぶと、いっそう大きな笑い声が宙を舞った。夏の爽やかな風に
「あ、ハンナの言う通りじゃん」
「そろそろ帰らないと、午後のシフトに間に合わないよ〜」
リタがその眩しさに目を細めていると、
「ヒロトにレン!! ちょうど良いところに!!」
「お、それはもしかして…」
「えへ、完成しました〜!!!」
二人の青年は、アミの声を聞いて瞳を輝かせる。どうやらリタより前に、少年の存在を知らされていたようだ。アミは先程と同様に、二人をその
「へぇ〜すげぇじゃん。こいつが俺らの
「こいつじゃない■■です〜」
「あだだだ!? そんな怒んなくても良いだろ!?」
感心した様に声を漏らすヒロトに反論するアミ。彼女は自分の造ったものをぞんざいに扱われるのが嫌いだった。
レンはそんな二人を困った様に見つめ、声を掛ける。
「ほら、ヒロトもアミも。時間ヤバいから」
二人はその声にはっとしたものの、直ぐに
「やだな〜ずっとここにいたいよぉ〜」
「そんなこと言っても仕事だし」
「俺も遊びてぇなぁ〜
どんなに懸命に働いても、成果が出なきゃ何にも貰えねー。
ほんっと、世知辛いよな〜」
「ヒロト、それここでしか言わないでよ」
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キロくしマす。
ますターたちハ、せチがライおシごとヲしテいるヨウデス。
せイカがデナいと何モモラえなイ。みンないヤそうデス。
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しかしレンは、そんな二人の様子を待ってましたと言わんばかりに、
「そんな二人に朗報。
今日の仕事終わったら、
僕の家から持ってきたクッキーを食べる権利が付与されます」
二人の顔が同時に輝く。
「え、マジ!?」
「レンナイス〜!!」
「リタの分もちゃんとあるからね」
「わ、私は別に…」
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キロくしマす。
レンさンハ、みンなのお父さんミタイだと、ますターが言っテいマした。
今モ、みンなをハゲましテいマス。
みンなに笑顔がもドっテキテいまス。
レンさンハすごイデス。
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「じゃあ■■はここにいてね、また夜に会いにくるから」
「わかリマシタ、せチがライおシごとがんバッテくだサい」
「世知辛いって。ヒロトが変なこと言うから覚えちゃったじゃん!!」
「だって事実だろ!?」
「まぁまぁ」
リタたちは他愛もない会話に花を咲かせながら、秘密基地を去っていった。鼻を
少年はその後ろ姿を、どこまでもじっと見つめていた。
❁.*・゚
大人ぶった作戦で 不思議な合図立てて
「行こうか、今日も戦争だ」 立ち向かって手を取った
理不尽なんて当然で 独りぼっち強いられて
迷った僕は 憂鬱になりそうになってさ
君はさ、こう言ったんだ 「孤独だったら、おいでよ」
騒がしさがノックして 生まれた感情さえも
頭に浮かんでは
秘密基地に集まって 「楽しいね」って単純な
あの頃を思い出して 話をしよう
飛行機雲飛んで行って 「眩しいね」って泣いていた
君はどんな顔だっけ なぜだろう、思い出せないな
『サマータイムレコード』より
作詞作曲:じん(自然の敵P)
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