約束は、果たされないからするものでしょう?
「なかなか良い店でしょ? 僕お気に入りなんだ〜」
青年の軽い言葉尻が宙に消える。リタは拭いきれない不信感を抱えながら、ソファーに腰掛けた。冷たい牛皮がじんわりと身に染みる。
「長話になりそうだ、何か飲む?」
「……」
「遠慮はいらないよ。毒なんて物騒なものを入れる
奥にあるキッチンに立った蒼牙は、彼女に
「…ねぇ、どこまで知りたいの? 知っても面白くない話ばかりよ?」
「面白くないかを決めるのは僕だ、君には関係ないよ」
「……ねぇ、今の飼い主さんはどんな人なの?」
「素敵な人だよ、それはもうとびきりの、ね」
沈黙に散る言の葉。途切れ途切れの会話が続いた。
青年は二つのマグカップを持ってくると、リタの向かい側に腰を下ろす。
「ねぇ、あな」
「しーっ」
リタが心の底から湧き上がる疑問をそのままにぶつけていると、蒼牙の指がその唇に触れた。
「僕も質問したいこと、いっぱいあるんだけど?」
彼女は開いたままの口を閉ざす。また沈黙が広がる。
「…何? 何が聞きたいのよ」
リタがやっとのことで声を絞り出すと、蒼牙は微かに笑みを浮かべた。
「君に、僕の推理を聞いて欲しいんだ」
「は」
顔を上げる。目の前の青年は余裕に満ち溢れた顔で紅茶を
「推理? 何の話を……」
「君たちが逃げたあの日。その真実について」
カチャンと音がして、カップと皿が
リタは俯く。しばらくすると、腹の奥からある感情が沸き起こった。
「真実? そんなのもう分かりきってるじゃない……
私が全員見殺しにしたの!! 皆を裏切って一人生き残った!!」
瞳が見開かれ、口角が釣り上がる。
「政府だってそう発表したじゃない!! それ以上何があると言うの!?!?」
絶叫だった。顔を醜く歪め、嘲笑いを浮かべる女。その奥に透けて見える悲しい感情。鼠色の瞳を巡る数多の憂い、哀しみ、怒り、愛おしみ、迷い。
「……そうだね、そう思いたいよね」
独り言のように、蒼牙がそう呟いた。その一言が耳に飛び込んだ途端、歪みきった瞳が宝石のように潤む。
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19XX年。政府の研究員7名と1体の被検体が逃亡した。
研究者のうち4名はその場で死亡が確認され、2名は重傷。
その後、死亡が確認された。
残った1人の研究者と被検体は、アムネジア外に逃亡したと見られている。
警察は逃亡した研究員が事件の黒幕と見て調査を進めている──
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「みんな、絶対この計画を成功させるわよ」
「もち! 恨みっこはなしね!!」
「ほらリタも来いよ、みんなで円陣組もうぜ」
「そんな目立つことしたらバレるって」
「良いじゃん楽しそう。最後の夏なんだしやってやろうぜ」
「じゃあいくよ〜!!」
──ねぇ皆、何でそんなこと言うの?
──今日で人生終わります、みたいなさ。
──笑えない冗談はよしてよ。
──嘘だよね? 私たち、終わらないよね?
────皆で、綺麗な空を見るんだよね??
────ずっと、一緒に居れるんだよね???
────ねぇ。
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「私は皆と一緒に居られれば、何だって良かったのに」
本音が溢れた。握り締めた拳に雫が落ちる。
蒼牙はその様子を、ただ静かに見つめていた。
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