正義の仮面、その裏の貌
「ひーちゃん! ねぇ~! 何で応えてくれへんの?
もしかしてまだ怒ってるんか?」
アムネジア内に存在する、全面ガラス張りの高層ビル。その最上階で、一人の人物が駄々を
「えぇやん! ちょっとからかってみただけやん!
そんなに気ぃ曲げなくてもえぇやろ!?」
再び声を荒げたその女は、エメラルドの地にパッションピンクのメッシュという、何ともけばけばしい髪色をしていた。肩ほどまである髪は二つのシニヨンにも収まりきらず、外へ癖を付けながら
「うわ~ん!! 折角久しぶりに会えたんにぃ!」
彼女はそう言って近くのソファに倒れ込むと、じたばたと足を動かす。ミニスカートから覗く白い脚。その太ももで、蛇の刺青が光っていた。
その名を知る者は、この建物内にも少ない。
なぜならば、彼らは特別な存在だから。
「……特段貴方の言動に嫌悪があるわけではありません」
先ほどからひーちゃんと呼称されている人物は、ふいと顔を逸らしたままそう呟く。
「じゃあ何で!?」
「……貴方の全てに嫌悪があります、見ているだけで吐き気がする」
「
暴れる上司を見て、響葵と呼ばれた女性は溜息を漏らした。
だから嫌いなのだ、このネチネチと纏わり付いてくる感じが。
「用件があるならさっさと喋って下さい。そうでなければ帰りますよ」
響葵はそう言って、上司を振り返る。ソファに転がっていた彼女は響葵と目が合うと、にぃっと口角を上げた。細められた瞳からは、その色彩は愚か感情すら読み取れない。
「久しぶりに命令が下ったんよ。ほらこれ」
上司はソファに座り直すと、金の刺繍が施してあるジャケットから二枚の紙切れを取り出す。
【Invitees List】
[Officer]
No. 1432061382311010 Koto
No. 15017815272 Hibiki
「聖なる祝日に、王族主催のパーティがあるんやて。これはその招待状な」
響葵は上司…
「…それで?」
「今回の
彼女が先を促すと、瑚都はそう言って二本指を立てる。
「一人は
もともとは研究員やったらしいんやけど、裏切って壁の外へ逃亡したらしい。
もう一人は、あの伝説の組織【
「へぇ…」
響葵は特に関心を見せる素振りもなく、チケットひらひらと揺らした。漆黒の髪が白い肌に掛かる。深い藍色の瞳は憂鬱げに外を見つめていた。
「なんや、関心なさそうやな………あの【EY】やで!?!?
もっとこう、うわぁ〜って来るもんあるやろ??」
「……別に。この組織に比べれば、凶悪でも何でも無かったのでしょう?」
「まぁそう言っちゃうとそうなんやけどっ!!
ここはノリよく合わせて欲しいところなんや……って痛い痛い!!」
「話は済みましたか。では帰らさせて頂きますね」
響葵は
「……ほんま、冗談の通じない奴やな」
響葵が手を離すと、瑚都はそう言ってむくれる。
「仕事に遊びを持ち寄る人間は嫌いです」
響葵が切り捨てると、瑚都は苦笑いを浮かべた。
「エンブリオが協力してくれるっちゅー話やったんやけど、
うちんとこで処分できるなら処分するから」
「
警視庁特務課──
その仕事は【犯罪人を捕まえる】こと、ではなく──
──【犯罪人を殺すこと】
響葵は一礼をすると部屋を出る。扉が閉まる音を聞いた瑚都は、ソファでくわぁっと伸びをした。眼下には人工的に作り上げられた、美しい街並みが広がっている。
「さぁて、今回はどんな殺し方をしようかなー」
彼女はぼそっとそう呟くと、その言葉を口内で転がした。チラリと覗く真っ赤なべろ。その中央に光る白銀のピアス。
警視庁特務課──
ここに派遣される人間は、人間であり人間ならざる者。
殺すことに恐怖を感じず、愉悦を覚える。
彼らは法には従わず、この輝かしい街に不必要な人材を殺しても、
罪に問われない権利を有する……
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