第11話 外伝3 本物の天使へ

「んっ……ここは……」

 少女が目覚めて手でひさしを作り、体を起こして辺りを見渡す、そこはどこまでも白い世界だった。

 「天国?まさかの地獄?でもその前に、死んだらどっちに行くか決められるんじゃ?って、そんなの、誰も本当の事なんか知らないか」

 一人で自問自答してから立ち上がる。

 「どこ行けば良いんだろ。んー。考えててもしょうがない。取り敢えず歩こう」

 少女は独り言を呟きながら歩き出す。しかし、どこまで行っても景色は変わらず、ただただ白い世界が広がり続ける。歩いても歩いてもその世界の端に辿り着く気配が無いので立ち止まり、今度は大声をあげてみた。

 「おーい!もしもーし!誰かいませんかー!」

 声は響くが何も反応が無い。

 「おーい!誰かいないのー!おーい!」

 反応は何も返ってこない。

 「全く。どうなってんのこれは」

 少女は腕を組み考え込む。そして、出した結論はこうだった。

 「この力、まだ使えるのかな」

 左手をかざし目をつむる。すると、少女の周りに黒い球体が無数に出現する。

 「使えて良かった。そしたら、こう!」

 かざした左手を体の右の方に持っていき、振り払うように左に動かす。そしたら、出現した球体が、一斉にあちこちへ飛んでいく。すると、前や後ろに飛んでいった球に変化は無かったようだが、横に飛んでいった球は、何かに当たりはじけ飛ぶ感覚を感じた。

 「横か。なるほどね」

 一人で納得し、何かを感じた方向へ体を向け歩き出した。その何かに向かう最中、途中途中でノーモーションで球を出しては射出してそれとの距離感を掴みながら進む。

 やがて、目に見える距離で球が弾けたのを確認し、端に到着したんだと分かった。

 「んー。これが分かった所で、どうしよう」

 ぺたぺたと壁らしきそれに触り、再び考える。

 「よし。ここは一発……」

 壁から少し離れ、左手に黒い剣を出現させる。それを構え、壁に向かって振るった。しかし、傷一つ付くことは無かった。

 「ふぅ……手詰まりかなー」

 そう思いつつも、腰に両手を当て壁を見つめながら、次の手を考えようとしたその時

 「さっきっから誰だい?ドンドン叩いているのは?」

 壁に切れ目が出来て、扉のように開く。そこから出てきたのは、腰まで伸びる長い髪を結び、すらっとした爽やかな若い男だった。

 「あっ。何よ、開くんじゃない。どうやって開けたのよ」

 「あのー、僕の質問に対しての答えは?」

 「訳も分からずこんな所に一人で寝かされて、意味が分からなかったから暴れた。これでいい?」

 「んー。もう少し手段を考えて欲しかったけど、しょうがないか」

 男が引きつった笑顔を浮かべる。

 「で、一体ここはどこで、私はどうなってるの。死んだんじゃないの?」

 「待って待って。一つ一つ説明するから、取り敢えず、中においで」

 少女は言われるがまま壁の中へと入って行く。扉が閉まり、再び元のただの壁になった。男は、それを見た後にどこかへ向かって歩き始める。少女はその後に付いて行く。

 少し無言で歩いていると、男が説明をする為に口を開いた。

 「君は、記憶は残っているかな?自分がどうしてここにいるのか見当はついてる?」

 「ええ。記憶は全部残ってる。私は死んだはずよ。それで次に目を開けたらあそこにいた」

 「そう。君は死んだ。そして、ここは天界だよ」

 「天界?天国と違うの?」

 「まぁ、細かく言うと違うんだけど、そこら辺の説明は言った方が――」

 「いらない。興味無いし」

 少女は即答した。

 「あっ、うん。ならいいや」

 ごほんと一つ咳ばらいをして、話を続ける。

 「えーっと。こっちも確認させてもらっていい?君は誰で、どうやって死んだかとか言えるかい?」

 「私はショコラ。メルって天使と戦って敗れてここにいるってとこ。敗れたって言うか、時間切れって言った方が合ってそうだけど」

 「えっ?メルちゃん?」

 男は足を止めて振り向く。それに合わせて、少女も足を止める。

 「何、知ってんの?」

 「勿論。知り合いだよ」

 「へー」

 「でも、人間だったはずの君がかい?」

 「ちょっと訳ありで、特別な力が芽生えたのよ。それで戦えた」

 「あー。成程ね。君が例の子か。ショコラちゃん……あぁ、そういう名前だったね」

 「は?何?例の?」

 「あー。いやいや。こっちの話こっちの話」

 「あんた、何を知ってるの?」

 空気がぴりつく。

 「聞き流してもらえると嬉しいかなー」

 「出来る訳無いでしょ。そもそも、あんたは何者?」

 「僕は神をやっている者です」

 「神……?ふざけてんの?」

 「ふざけてる訳じゃなくて、事実を言っているだけだよ」

 「神がほいほい目の前に現れる訳ない」

 「神様でも、結構自由にやれるんだよ。僕みたいにね」

 「天界だとか地獄だとか行く前に、お前が何を知っているのか、聞き出す」

 ショコラが左手に黒い剣を出して神と名乗った男に向かって斬りかかる。神は瞬時に翼を出して後ろへと飛んで距離を離した。

 「おやおや。力を出せる?それはそれは」

 目を丸くして驚いているようである。

 ショコラはすぐに右手を開きながら突き出す。すると、黒い球体が幾つも出現して、周りを浮遊し始める。次に、手を握り人差し指で神を指すと、球体の動きが一瞬止まり、すぐに神に向かって突撃を始めた。

 「あははは!本気だねー」

 両手を腰の辺りまで上げる。周りに薄い光を放つ球がショコラが出した数と同じくらい現れて、向かって来る球体を撃ち落としていく。

 激しい撃ち合いの中、弾幕の中を縫うようにして近付いてくる球体がある。

 「ん?なんだろ」

 それに向かっていくつも球を当てにいくが、丁寧に避けつつなおも近付いてくる。

 「……」

 何か不穏な物を感じ、自分に当たる直前に翼を羽ばたかせて上空へと退避した。瞬間、さっきまで自分がいた場所で小さな爆発をしたと思ったら空間を捻じ曲げるようにそこにとどまった。それは、ブラックホールのようにも見えた。

 「ちっ」

 「へー。そんな事まで出来るんだ。にしても、危ない物を飛ばすねー」

 「はっ。死にたくないなら、ちゃんと避ける事ね」

 ショコラも翼を現して、左手に剣、周りには無造作に作っていた球体を無くし先程の高威力の球体を三つ程出して神へと接近していく。

 神も右手に剣を出し、迎え撃とうとする。そんな神に向かって、一つの球体を飛ばす。それを剣で斬り払おうと振るった。簡単に刃が入り壊せると思ったら、急に引っ張られる感覚に陥り、何かを察しぱっと手を離した。剣は球に触れた部分から吸い込まれていき嫌な音を立てながらぐちゃぐちゃになっていく。

 「あらら。そんな威力あるのね」

 のほほんと言いながらも距離を離しつつ新しい剣を出す。

 ショコラは斬り上げるように剣を動かし、神はそれを受け止めようとするが、寸前でショコラの剣が粒子のように消える。そして、即座に剣を出して今度は斬り返すように上から振り下ろした。

 「!?」

 展開の速さに驚き、片手で受け止めるつもりだったのが左手も添えてしっかりと止めにいく。

 「いやいや。早いね。でも、やんちゃが過ぎると、痛い目を見るよ?」

 「はぁ?」

 ショコラの後ろから突然、鎖の様な物が飛び出し、左手に絡むと後ろへと引っ張った。

 「んっ」

 「はっはっはっ。君はまだ生まれ変わったばっかりだ。無理をするのはいけないよ」

 「なめてると、痛い目を見るのはそっちだから」

 「えっ?」

 神が右を向くと、威力の高い黒い球体が近付いてきていた。左を向くと同じ物が同じ速度で迫ってきていたので、慌てて後ろに飛ぶ。瞬間、球体同士がぶつかり空間に穴を空けるのではないかと思う威力の衝撃がしばらくその場にとどまった。そして、神の気が逸れたからか、ショコラの腕に絡まった鎖は消え去った。

 「惜しかった。もう少しだったのに」

 「ひっどいなー。神様だって言ってるのに。君の敵ではないんだよ?」

 「胡散臭いのよ。それに、自分を神だとか名乗る奴を、神なんかに認めたくない」

 「んー。神を名乗るの、止めた方が良いかなぁ。前にも否定されたんだよなー」

 「知らないわよそんなの。神様として見られないって、器じゃないんじゃない」

 「酷いなー。人間は神を信仰するって気持ちを無くしてしまったのかなー」

 「聞く人間を間違えてんのよ。少なくとも、神様にお祈りをしている人に聞かないと意味無いでしょ」

 「それもそうだねー」

 左手を掲げ、球を数個出す。ゆっくりと腕を下げると、ショコラに向かって勢いよく飛んでいく。

 剣を構え、タイミングを見て左上に一振りする。向かってきていた球があっけなくはじけ飛ぶ。

 突きをする構えに直し、神に突撃する。それを、剣を弄びながら迎え撃つ。

 真っ直ぐに突き刺したそれは軽く受け流されるが、瞬時に剣の大きさを小刀程にして右側に構え直して首を狙って振った。

 「んっ!?」

 動きの速さに驚きつつ、左手に小盾を作り出し、ショコラの攻撃を防いだ。

 「そろそろ、僕の力、分かった?」

 ちらりとショコラの方へ目をやると、いつの間にか力で出していた拳銃を左腕の上に置き銃口をこちらへと向ける姿があった。

 「あららー」

 神は自身の羽を消し、体を傾けながら自由落下をして数発の銃弾を躱した。

 「ったく」

 「いやはや。危ないなー」

 すぐに、落ちていく神に向かって銃を向け引き金を引き始める。

 落ちながら右手を上げて、自分の前にシールドの様な薄い盾を出して銃弾を弾く。

 銃弾を撃ち込むのを止め拳銃を消し、落ちていく神を追いかける。

 神は神で、再び翼を出して羽ばたかせてその場に制止し、身構えた。

 ショコラの剣は上から振り下ろされ、神はそれを剣を振り上げて受け止めた。

 「仏の顔も三度までって言葉、知ってる?」

 「はぁ?あんたは神なんでしょ」

 「仏も怒るんだから、神様だって、怒る時は怒るって事だよ」

 左手に球を出すと、それを針のように尖らせ先端を急速にショコラへと伸ばしていく。

 「ふん」

 鍔迫り合いを止め、後ろへと飛ぶ。針はショコラを追いかけて曲がったりしながら尚も伸び続ける。それから逃げるように、空中を飛び回る。

 そんな姿を少し眺めていると、おもむろに剣の先をショコラへと向ける。そこに、光が徐々に集まっていき、次第に大きくなっていく。

 (あれは……なんかやばそう)

 逃げ回るのを止め、神に向かって突っ込んでいく。その行動に、気味の悪い笑みを浮かべる神を不審に思いながらも進むことを止めない。その時、ショコラを追いかけまわしていた針が急に弾け光の粒子になったと思ったら、周りを囲むようにそこらに収束していき球になる。そして、再び針状になり進行を止めるように襲い掛かる。

 「ちぃ!?」

 翼を動かし急停止をして神から離れて危機を免れる。しかし、それを追うように、神が構えていた剣の先に集まっていた光が解き放たれた。

 「……!」

 右手を向け、正面にシールドを張るのと、ビームのように伸びてきた光がシールドに直撃し自分への攻撃を防ぐのは同時だった。

 「うううぅぅぅ!」

 「ふふふ。こんなものじゃーないんですよー」

 剣に力を込めると、ビームの威力が増す。

 「ぐぅ!?」

 その場で受け止められていたのだが、徐々に後ろへと下がっていく。すると突然、シールドにヒビが入り始めた。

 (まずい……)

 ヒビが広がっていき壊れるのは時間の問題だった。

 シールドが壊れる寸前、体を逸らして翼を動かす。ショコラの目の前をビームが飛んでいく。間一髪のところで躱すことに成功する。

 体を回転させ、神へと向き直る。その時見た姿は、両手をこちらに向けて悪い顔をしている姿だった。

 訝しみながらも、接近して斬りつけてやろうと思い、動こうとするが何故か前に進めなかった。

 「なっ……これ……」

 いつの間にか、体のあちこちに鎖の様な物が絡みついており、動きが抑制されてしまっている。

 「これはしょうがない事だ。生まれたばかりの子供を葬るのは心が痛むが、こんなにも反抗的だと、処分して次の人生に託した方がいい。大丈夫。本来だったら、僕に消される天使は消滅してしまうんだけど、君は特別処置をとるから、安心してね」

 口上しながらゆっくりと近付いてくる神に向かって、黒い球を出して射出するが、全てを簡単に処理されてしまう。

 「力を隠してたのね」

 「そりゃあね。子供相手に本気を出すつもりは無かったんだけど」

 目の前まで近づき、ピタリと止まる。

 「ここまでやられちゃうと、流石に処理せざるを得ないかな」

 「ふん。大人気ない」

 「ははは。返す言葉も無い」

 そんな言葉を言ってはいるが、顔はずっとにこやかで、何とも思っていないのが見て分かる。

 剣の先端に再び光を集め、切っ先をショコラの心臓付近へと向ける。

 「残念という気持ちは本当だよ。さようなら」

 収束した光を解き放ち、ショコラの胸を撃ち抜いた――ように見えた。

 「……あれ?」

 本気で殺しにいった攻撃が通用せず戸惑っていると

 「いったいなあ!」

 鎖で拘束されたままのショコラが叫ぶ。

 自分の上に気配を感じ顔を上げる。そこには、黒い大きな塊があり自分に目掛けて迫ってきていた。

 「ありゃりゃー!?」

 翼を動かしすぐにその場から離脱する。黒い塊はそのまま何の抵抗も無く落下していった。

 神の集中力が途切れたからか、体に巻き付いていた鎖の力が緩み、ショコラは拘束から抜け出す事が出来た。剣を構え直し口を開く。 

 「残念だったのはあんたの方ね。第二ラウンド。始めましょうか」

 「いやー、ははは。参ったねー」

 苦笑いを浮かべながら、心の中ではこう思っていた。

 (何故だ?何が起こった?加減はしなかった。シールドも張っていなかった。何故貫けなかった?)

 考えもまとまらない間に、ショコラが突っ込んでくる。

 「全く……最近は、楽しい事ばかり起こって、退屈しないですねぇ」

 神は自分で発した言葉通り、口角が上がっているのだが、その事には気付いていないようである。

 「いつから人類は、そんなにも面白い生き物になったのですか!」

 「知るか馬鹿。地上の生き物に興味無さすぎなんじゃないの」

 二人の剣がぶつかり合う。神が力を込めてショコラの剣を弾き、よろめいたところに追撃を入れる。

 ショコラは即座に迫りくる刃と体の間に、右手に出した盾を割り込ませ攻撃を受け流すように防ぐ。その影響で今度は神の方の体勢が崩れ、そこに剣を持つ手の力を入れ直して振り下ろした。

 それは空を斬る事になる。神は翼を操り、横へと高速に動いて危機を脱していた。

 「危なーい危なーい」

 「……」

 神の態度にイラっとしながらも、視界に捉えて再び神に向かって飛んでいき、刃が届く範囲に入ったら斬りつける。一振り、二振りと攻撃を加えていくが、剣でいなされたり、躱されたりして全く攻撃が当たらない。

 「はぁ……はぁ……っ」

 ずっとニヤついているその顔を、斬りつけて苦痛に歪ませたいと強く思い始める。

 そんな少女の気持ちなど知らずに、神はずっと先程の事を考えていた。

 (攻撃は本気だった……シールドも張ってない……なのに通じない……もしかして……!?いや、今までそんな事は……でも……無い訳じゃないのか……?)

 「考え事をする余裕があるって事?なめられたもんね!」

 ショコラの声にハッとして、近付いていた一撃を大きく躱す。

 「だとすると……これは、勝ち目はないのかな?」

 「何言ってんの?」

 「試してみるしかないかなー」

 「さっきっからごちゃごちゃごちゃごちゃ、むかつくのよ!」

 ショコラの周りに、威力の高い黒い球が、さっきの数よりも多く出す。

 「あれれ?増えてない?もうそんなに出せるの?子供の成長は早いなー」

 そんな光景を見ても、余裕の表情は変わらない。

 神のその態度に頭に来ながらも、黒い球を半分ほど放射状に先に飛ばし、残りをタイミングをずらして正面から飛ばす。

 神は何をするのかわくわくしながら何もせずに待っていると、後ろからも気配を感じ振り向くと、自分に迫っているものと同じものが出現して、放射状に飛んでいたものも逃げ道を塞ぐように止まっていた。それは、よく見ると菱形になっているが分かった。

 「ふーん。そういう配置ね」

 正面から飛んでくる球に合わせて、停止した物と後ろに出た物が一斉に襲い掛かる。

 「まぁでも、それは僕には届かないんだけどね」

 左手を上げて指を鳴らす。すると、丸い形の衝撃波じみた力が広がっていき、近付いていた球を爆発を誘発させながら薙ぎ払っていく。全てを破壊すると、衝撃波も一緒になって消えていった。

 「……」

 ショコラは事の成り行きを、不機嫌そうに見ていた。

 「さてさて、今度は僕から仕掛けようかなー」

 くるくると剣を回して遊んでいた神が言う。剣を持ち直したと思ったら、高速でショコラへと迫っていく。それを、近づけさせまいと思い右手に黒い球を出す。だが、翼を動かしてさらに加速し、黒い球が生成しきる前に一気に近付き剣を振った。

 神の行動を不快そうな顔で見つつ球を消滅させて、変わりに盾を出して受け止めようとしたのだが、盾に当たる瞬間、神が振るった剣の姿が薄くなり盾をすり抜けた。

 「はぁ!?」

 ショコラが驚きと、目の前で起こった事を理解する間もなく、完全に通り抜けた剣が再び姿を現し、ショコラの首元目掛けて伸びていく。

 「……!」

 「取れたかな!?」

 刃が首に届いたと思ったら、甲高い音が鳴り、首をはねることなく直前で止まっていた。

 「いった」

 「あー。やっぱそう言う事だよねー」

 神から距離を離して、刃が当たった部分を触ってみる。

 「何とも……ない?」

 はねられるどころか傷すら付いておらず、少し強く叩かれた程度の痛みで済んでいた。不思議に思っていると、神が近付いて来て話を始める。剣も消して闘う意思すら無くしている様子である。

 「いやー。まさかとは思ったけど、間違いなさそうだねー」

 「何の事?」

 訝しみながらも、自分の剣を消滅させて、話に付き合う。

 「君がどこまで僕達の事を知っているか分からないけど、僕達は簡単に傷が付かない体をしているんだ」

 「それは知ってる。膜とか言うのが張ってあるんでしょ。威力が高い物ならまだしも、人の作り出した武器は殆ど効かないとか。でも、この力はそんな膜を無視出来るとか」

 「おー、分かっていますねー。因みにそれは、誰からどこで聞いたんですか?」

 「博士から聞いたけど、博士もある人から聞いたって言ってた。その時の博士の態度がちょっとおかしく感じたんだけど、裏にあんた達の仲間でもいたんじゃないの?」

 「僕は知りませんよ」

 「どうだか」

 「どの世界も、一枚岩ではないという事で」

 「ふん。で、結局、何が言いたいわけ?」

 「まぁその、君にはその膜が二枚……いや、三枚以上はあるだろうね」

 「どういう事?」

 「まず、さっきショコラちゃんが言ってくれた通り、一枚の時は条件付きで一部を除く人間の作った兵器の攻撃を通さない。でも、僕達の力は普通に通る。二枚の時は、威力が軽減されるだろうけど、傷ぐらいはつくと思うんだ。けど、ショコラちゃんは付かなかった」

 「だから三枚以上って事か」

 「そう言う事だね」

 「あんたは何枚あんのよ」

 「実を言うと、二枚以上は聞いた事がない。ましてや三枚なんて。しかも、前世の記憶が残っているときている。君は異例中の異例過ぎるんだよ」

 「ふーん」

 「ふーんって、そんな他人事みたいに」

 「実感が湧かないからね。ぶっちゃけ興味もない」

 「自分の事なのに」

 ショコラの冷めた態度に、流石に呆れてしまう。

 「まぁなんだ、だから、僕はもう君に危害は加えないよ。というか、危害を加えられないって事は勝てないって事だから、諦めました」

 とても軽く敗北宣言をする。

 「そ。じゃあ、あんたが知ってる事を教えてもらおうかな」

 「う~ん。ほんとに知らないんだけどなー」

 「知ってる事だけでいいから教えなさいよ」

 「んー。さっきも言った通り、こっちも一枚岩じゃないんだ。君が実験体の初の成功例だって事以外は知らないんだ。ごめんねー」

 「……あんたも、研究に関わってたの?」

 「いいや。僕はただ、興味が湧いたからここから見ていただけだよ」

 「神様は冷たいのね」

 「人間の世界で起こっている事に深く関わる事はしないからね」

 この言葉を最後に、少しの間沈黙が続く。

 そして、沈黙を破ったのは一人の女だった。翼を羽ばたかせて近付いてくる。

 「神様ー?何かあったのですかー?」

 明るい声が響き、二人はそちらへ目をやる。

 「あー。エクスエルですか。丁度良い所へ」

 エクスエルと呼ばれた女は二人の近くに降り立った。

 「何でしょうか?それに、その子供は?」

 「新しい仲間ですよ。しかも、とても特別な、ね」

 「へー!それは凄いですね!」

 特に疑問にも思わずに、神が言っている事に能天気に答えている目の前の天使に、呆気にとられてしまう。

 「私はエクスエルです。宜しくね!えーっと」

 「……ショコラ。宜しく」

 前かがみになって、握手を求めてきたので、仏頂面をしながら答えた。

 「あの……なにか怒ってます?」

 「なんでもない。ちょっと、さっきまでの事を思い出していただけ」

 「そ、そうですか」

 挨拶が終わると、神が唐突に言う。

 「メルちゃんに、会いたくないですか?」

 「……は?」

 突然の事に驚いたが、すぐに顔を戻して、聞き返す。

 「何企んでんの」

 「何も企んでなどいませんよ。で、どうしますか?」

 「……」

 ショコラはしばし考える。

 (メルには会いたいけど、こいつが何を考えてるのか分からなくて怖いから提案にのりたくないし、一人で行こうと思えばいけるよね。でも、ここからどうやって外に出ればいいのかが分からない。こいつが外に行く時、勝手について行けばいいけど、いつ外に行くか分からないし……)

 悩んだ末に、一つの答えを出す。

 「分かった。行きましょう」

 ショコラの考えを聞いて、神は一度手を叩いた。

 「そうと決まれば善は急げ。エクスエル、貴女も一緒に来てください」

 「えっ?何故ですか?」

 予想外の発言に、エクスエルは目を丸くしている。

 「これから貴女には地上に降りてもらい、ショコラちゃんをサポートしてもらいます。それと、メルちゃんと言う子もいるので一緒にお願いしますね」

 「えっ!?そんな急に!?」

 寝耳に水だったのか、とても焦っている。

 「さっ、行きましょうか」

 「ちょっと!?神様!?」

 神はすたすたと歩き始める。それを、エクスエルは慌てて追いかけて行き、その後ろからショコラが付いて行く。



 三人は何でも屋の二人が入院している病院の近くに降り立つ。そこに向かうまで、ずっと文句を言っていたエクスエルは、自分の知らない地上の景色を見て感動したのか、すっかり機嫌が直っていた。

 「あそこの病院にいますよ。準備は良いですか?」

 緊張しているショコラに問いかける。

 「ええ。平気」

 自分の体が少し震えているのを必死に隠そうとする。

 そんなショコラの様子を知ってか知らずか、能天気にはしゃいでいる。

 「驚くでしょうねー。喜んでくれるでしょうねー」

 「なんであんたが、そんなにテンション高いの……」

 自分が緊張で震えるのが馬鹿らしくなってきた。そう思ったら、いつの間にか、体の震えは止まっていた。

 「さぁさぁ、行きましょ行きましょ」

 「ええ」

 「あっ、はーい」

 ショコラを置いて、二人はさっさと病院へと進んでいく。一呼吸置き、ショコラも向かう。そんなに期間は空いていないが、かつて、殺し合いをした友人の元へと。

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何でも屋3 風雷 @fuurai12

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