第10話 幕間 不穏な影と幸福な光

シュヴァルとハウンドが、メルに呼ばれて来たサリア達の手によって、ヘリに担ぎ込まれている間、その光景を見ていた者達がいた。

 「あの様子はどう見ましょうか?死んでいますかね?」

 「そうね……あの方は、あの後、あの街で生き残っていましたからね。今回も、生き残るかもしれません」

 そう会話をしているのは、長髪を後ろで縛り、目鼻の整った顔立ちですらっとした女と、肩まで伸びた髪に幼さを残している体型なのだが、どこか只者じゃない雰囲気を醸し出している女。すらっとした女は単眼望遠鏡で、幼く見える女は狙撃銃のスコープを覗きながら、成り行きを監視している。

 その二人の隣で、一点を虚ろな目でただ見つめている身長二メートルは超えているようなガタイのいい大男が佇んでいた。

 「どうします?今なら、殺せると思いますよ?」

 幼く見える女はスコープから目を外さずに訊ねた。

 「いいえ。余計な小競り合いはしなくていいでしょう。それに、あくまで私達は見てきて欲しいと頼まれたのであって、殺人をして来いと頼まれたわけじゃ無いから」

 すらっとした女も、望遠鏡から目を外さずに答える。

 「それと、大佐が私達の前に立ちはだかるとしても、それは、隊長が決着をつける事だと、私は思います」

 「……そうですね」

 二人が見ていた先のヘリが上空へと飛び、彼方へと飛び去って行く。二人は同時に使っていた道具から目を離す。

 「行きましたね。研究所はどうしましょう?我々の情報があるかもしれませんが」

 「それも放置で良いでしょう。あの方は、研究以外に興味の無い人でしたから。研究資料以外の情報があるとは考えられません」

 すらっとした女が研究所とは反対の方向へと歩き出す。

 「帰りましょう。私達の任務はこれで終わりです。博士はやられ、大佐達は深手を負い生死を彷徨っていると報告します」

 幼い女は追随して、大男もゆっくりと後をついて行く。

 「中に入って確認しなくてもいいのですか?」

 「もしも、生き残りに見付かりでもしたらめんどくさいですから。まぁ、あの様子だと、見なくてもいいかと」

 「そうですか。分かりました」

 三人は、森の奥へと消えていった。



 何でも屋達が去り、謎の組織が立ち去った後、研究所に一人の少女が翼をはためかせて舞い降りた。着地と同時に翼は先から綺麗に消えていく。セミロングの水色の髪、白衣を着て、見た目はメルと同じくらいの少女。その子は、にやにやとしていて、どこか楽しそうにしており、ゆるりと研究所へと入って行く。

 地下の様子を舐めまわすように見ながら進んでいく。その姿は、とても無邪気で人畜無害に見える。が、研究所のあの実験が行われていた一室や資料に目を通しても、ずっと笑っている。怯えや恐れといった負の感情が微塵も感じられない。まるで、遊園地にでも来たのかのように楽しんでいる。

 やがて、何でも屋が死闘を繰り広げた部屋へと辿り着く。実験体にされた人々は、既に跡形も無く消えており、そこら中に壮絶な戦いの後が残されていた。

 「んー。一体くらい残ってないかなーって思ったんだけど、流石に無いかー。ざーんねん」

 そんな事を呟きながら辺りを見回しつつ真っ直ぐ進んでいく。

 「んっ?」

 歩いていると、何かを蹴飛ばしたようで、それはくるくると回りながら飛んでいく。それがあった場所は、他のとこよりも一回り程大きな残骸の跡が残されている。

 少女は、ゆっくりと蹴飛ばした物を追って行き、それを拾い上げる。何かのメモリーカードのようであった。

 「これって……?」

 カードを持って部屋から出て行き、近くのパソコンが置いてある部屋へと移動し、パソコンを起動し、カードを挿入して中身を確認し始める。

 「……ははは。彼はただじゃ死なないって事かな」

 そこには、今までの実験の事やメルやショコラの事、実験の犠牲者の事と言った、この研究所で何をしてきたかの資料が入っていた。

 「ははは。あの後にそういう事をしてたんだー。はー。成程成程」

 独り言を呟きながら資料に目を通し、時たま笑いながら確認していた。

 そして、一通り確認し終えると、右手から青白い球を出してそれをパソコンの上から押し潰すようにして破壊する。にっこりと微笑むと部屋から出て行く。両手を広げて、そこから球を無数に出して、各部屋へと送り込んでいく。自分は、出口へと向かって足を進める。

 「ティレーック。あなたがしていたことは大変素晴らしいものでした。この夢の続きは、私が引き継いであげますから、安らかに眠ってください」

 至る所で何かが壊れる音が響き渡る。そんな音をバックに、少女は悠然と階段を上がって行き、ほどなくして研究所の外へと出ていた。翼を出して羽ばたき空へと上がる。

 「そうですねー。ここをあなたのお墓としましょう」

 そう言うと、研究所を見下ろしながら、両手を掲げる。上空に小さな球が出現したと思ったら、徐々に大きくなっていき、そのうち、巨大な球が出来上がった。

 「おやすみなさい。さようなら」

 両手を下げたのを合図に、巨大な球はゆったりと研究所へと向かっていき、球が触れた部分から壊しながらじわじわと落ちていく。やがて、全てを飲み込むように破壊し、残った物は大きなクレーターだけだった。

 「くひひひ……あははは……!」

 自分でやった事を笑いながら見届け、少女はどこかへと飛んでいってしまった。



 「直ったーあああぁぁぁ!」

 早朝、突然、屋敷中に声が轟く。

 「……まーた、エミ―かしら」

 「そうでしょうね」

 「叫ばないって選択肢は無いのかしらね」

 「あはは……」

 既に起きていたサリアはベットから立ち上がり、部屋から出て行く。マリアがその後に続く。

 二人が地下に向かっている最中に、アメリアと遭遇する。

 「お嬢様方。こちらから迎えに行く所でした」

 「そう。あんな叫びを聞いちゃうとね」

 「それもそうですね」

 三人で地下に行き、あの部屋へと入って行く。

 「エリー。直し終わったらしいわね」

 「あっ!お嬢様!そうなんですよー!」

 部屋に入ってきたサリア達に向かって腕をぶんぶんと振る。そのテンションは、あの時と一緒だった。

 「あれ?アメ?貴女、今回ずっと一緒にいたわよね?ちゃんと寝かせたはずでしょ?なんであのテンションになってんの?」

 「どうやら、どうあがいてもあのテンションになってしまうみたいです」

 二人は顔を見合させて溜息をついた。

 「皆さん。体の調子はどうですか?」

 マリアは、直った三体に近付き尋ねてみる。

 「はい。マスターの腕前は確かですから。もうすっかり」

 「流石は、我々のマスターです」

 「マスターさまさま!」

 「ふふん!そうでしょう!そうでしょう!」

 ロボット達は拍手をしてエミリーを称える。

 「ふふ。上機嫌ですね」

 「取り敢えず、エミーはさっさと寝なさい。そのテンション、気持ち悪い」

 そんな光景を微笑ましく見守るマリアの隣から、ひょっこり顔を出してサリアがジト目で発する。

 「気持ち悪いって酷い!……でも、眠いので寝かせて頂きますー」

 「はいはい。お休みー」

 「エミリーさん。お疲れさまでした」

 「はーい」

 ふらふらしながら部屋から出て行くエミリー。

 「全く。あの性格は、変わりそうにないわね」

 「ふふふ。そうですね」

 「?」

 サリアの顔を見てクスクス笑うマリアを不思議そうに見る。

 「お嬢様方、私はエミリーに付いて行きますね」

 「ええ。頼むわ」

 「はい。三姉妹。お嬢様方を宜しくお願いしますね」

 「「「お任せください」」」

 三体はお辞儀をして、アメリアを見送った。

 「ふぅ。さて、治ったお祝いに、お詫びも兼ねて、何かしようかしらね」

 「直ったお祝い?何故祝う必要があるのですか?」

 訊ねたのはロアだ。

 「ん。普通の人間だったら死んでいたのよ。それが機械だったから助かった。そしてそれはつまり、大怪我から復活したって事。そういう時は祝うものなの!」

 「それは、人間の話ですよね?私達は機械なので、そんな事はしなくてもいいかと」

 「ああもう!うるさい!やるったらやるの!」

 「それは命令ですか?」

 「融通が利かないわねぇ。命令な訳無いでしょ」

 「はぁ。よく分からないのですが、受ければいいのですね?」

 「そうよ。素直に受けなさい」

 「了解しました」

 ロアは会釈をする。

 「人間はめんどくさいですねー」

 無垢な子供の様に割って入ってきたのはロワだ。

 「そうよ。人間って生き物はめんどくさいの」

 「楽しいんですかー?そんな生き物に生まれて」

 「んー……」

 腕を組んで考え込む。そして、のっそりと顔を上げる。

 「辛い時もあったわね。諦めた時もあった。でも」

 言葉の途中でマリアを見た。それに気付いたマリアは、笑みを浮かべた。

 「今は、とっても楽しいわ。人間も、悪くないわよ」

 白い歯を見せるほどの満面の笑みを、三姉妹に向けた。

 「……」

 「ちょっと。何か言いなさいよ。恥ずかしいでしょ……」

 ニコニコとしてはいるが無言で見つめられて、思わず顔を片手で覆う。

 「あぁ。はい。よくは分かりませんでしたが、人間も素晴らしいものなのですね」

 ロウが首を傾けて言う。

 「はぁ……もうそれでいいわ……」

 肩を落として部屋から出て行こうとする。全員、それに付いて行く。

 「言葉を伝えるのって、難しいわね……」

 「あはは……そうですね……」

 姉を慰めるように、マリアはそっと寄り添う。

 そんな二人を後ろから見ていた三人は、サリアの言葉の意味こそ捉えることが出来なかったが、なんとなく、体の熱が上がったように感じた、三人だった。



 「あー。そろそろ病院生活も飽きてきたなー」

 シュヴァルがベットの上で寝そべりながら悪態をつく。

 あれから数週間、シュヴァルとハウンドは驚くべき速さで回復をしていき、病院の先生に喧嘩を売る程には、元気になっていた。

 「そろそろ退院できるんじゃねぇですかい?ねぇ?姉御?」

 「……お前ら、このまま地獄に送ってやろうか?」

 二人の態度にイラつきながらも、二人の体調を紙に書いていく。

 「私も、早く何でも屋を再開したいぞ」

 メルまで文句を言い始め、日々何でも屋の愚痴を聞いていた姉御は、爆発しそうな気持を何とか抑えながら、それでも、むかついてるのを隠さずに言う。

 「黙って医者の言うことを聞いとけカス共!近いうちに、嫌でも退院させてやるから、大人しく寝てろボケが!」

 「おー。そろそろ出れるらしいぞ」

 「そのようですねー」

 「はー。やっとか」

 「クソ共が」

 姉御は乱暴に扉を開けて、部屋から出て行った。

 「でも、何でも屋を再開したとこで、客なんざいねぇんですから、意味無くねぇですかい?」

 「店あけときゃ客の一人や二人くらい何時かは来るんだから、意味はあるだろうが」

 「その、客と言うのが全然来ないのが一番の問題なのではないのか?」

 「おいメル、痛いとこつくなよ」

 「おー。すまぬすまぬ」

 そんな、平和な一時を過ごしていた三人の元に、会いたくない人物が会いに来た。

 「いやー。楽しそうだねー。僕も混ぜて欲しいなー」

 「お前!?」

 その人物は、シュヴァルとハウンドを殺そうとし、メルを連れ去ろうとした、自分を神だと名乗る男だった。

 「何しに来やがった。俺達がまともに動けないから、その隙を狙ってメルを連れていこうとでも考えたのか」

 持ってきてもらっていた武器に手をかける。

 シュヴァルは刀の柄に手をかけ、ハウンドは右手に小刀を持ち、左手に苦無を一本持ち構え、メルは右手に剣を出現させて刃先を神に向ける。そして、シュヴァルとハウンドはベットから片足を出して床に付き、各々臨戦態勢に入った。

 「いやいや。そんなに殺気立たせないでよー。今日僕がここに来たのは、良い知らせがあって、それを伝えに来ただけなんだからさ」

 「あぁ?良い知らせだぁ?」

 「俺達の事を殺そうとした奴の言うことを、信用するとでも思っているんですかい?」

 「いやー。随分と嫌われたものだねー」

 「当たり前だ」

 「いやはや」

 頭を掻きながら、部屋の片隅へと歩いて行く。

 「で、要件はなんなんだよ」

 警戒を解かずに、シュヴァルが問う。

 「うん。それね。メルちゃんがとっても喜ぶことだよ」

 「む?」

 「入ってきていいよー」

 扉を開けて入ってきた人物は、メルだけではなく後ろの二人も驚かせた。

 「あ……あ……」

 「はーあ。感動的な別れだったと思うんだけど。嬉しい事に?悲しい事に?帰ってきたよ。メル」

 「ショコラ!」

 メルは反射的に剣を消して走り出し、ショコラへと抱き着いていた。

 「ちょっと!抱き着くな!」

 「ショコラ!ショコラ!どうして!?何故だ!?」

 「どうなってやがる?確かあの子は」

 「ええ。死んだんじゃなかったでしたっけ」

 二人は目を丸くして、その光景を見つめる。

 「いやいや。とてもじーんと来る再会だね。泣けるねー」

 静かに拍手する神に、シュヴァルは疑問をぶつける。

 「おい、てめぇ。何をしやがった?まだ俺達に見せてねぇ幻覚作用のある技でもかけてやがんのか?」

 「とーんでもない。そんなこと、僕がするとでも?」

 「しそうだから聞いてるんでい」

 「心外だなー。僕は神様だよ?人に幸せを与える存在であって、絶望を与える存在ではないからね」

 「どうだかな」

 子供達を見る。ショコラは抱き着いているメルを鬱陶しそうに引きはがそうとしているが、顔は軽く笑顔が浮かび上がっている。

 「おーいメル。そろそろ離れてやれよ」

 「おー。そうか。そうだな」

 言われて我に返ったのか、ぱっと手を放して離れる。ショコラはやれやれと言った感じでため息をついている。

 「あーそれと、一人、紹介したい子がいるんだよね。入ってきてー」

 「あぁ?まだいんのかよ」

 ずっと警戒しているのも疲れるので、鞘を持ちながらも柄からは手を放していた。ハウンドも、装備を外している。

 「どーもー。失礼しまーす」

 明るい声を響かせて入ってきたのは、明るめな薄い金髪を腰辺りまで伸ばし、すっきりとした顔立ちの女で、シュヴァルから見た第一印象は、めんどくさそうなのが増えた、だった。

 「初めましてー。私、エクスエルって言います!宜しくお願いします!」

 「あ、あぁ」

 きりっとした顔で自己紹介され、先程までと違った空気になり、また人物の明るさも相成って、反応に困ってしまう。

 「空気の入れ替わりが激しいですね」

 「あぁ。ついて行くのでやっとだわ」

 二人が困っていると、神は耳を疑うこと言った。

 「この子、何でも屋で面倒見てもらってもいい?」

 「……は?なんて?」

 シュヴァルは言った意味が分からずに聞き返す。

 「だから、この子を、ショコラちゃんと一緒に面倒見てもらってもいいかなって言ったんだよ」

 「なんでだよ!ショコラはすげぇ急だけどまだ分かる、が、なんで初対面で得体のしれないこいつを、何でも屋で面倒見なきゃいけねぇんだよ!」

 「いやいや、いいじゃないかー。面倒見る子が一人二人増えたとこで、変わらないってー」

 「簡単に言ってんじゃねぇぞ!」

 「それじゃ、エクスエル、後の事は宜しくね」

 「はい!お任せください!」

 神はそう言い残すと、そそくさと部屋から出て行ってしまう。

 「ちょっと待て!まだ話は終わってねぇぞ!」

 シュヴァルとハウンドは神を追って部屋から出ていこうとするが、エクスエルに止められる。

 「もー。忙しい人達ですね。病人なんですから、大人しくしとかないといけないですよ」

 「どけ。こっちはあいつに話があんだよ」

 「神様をあいつ呼ばわりなんて、この街の人は思ってる以上に口が悪いみたいですね」

 「悪かったな。あんな奴を、神だなんて認めたくないんでね」

 エクスエルの肩を掴むと強引にどかしてハウンドと一緒に部屋を出て行った。

 「はぁ。あの二人はいつもあんな感じなんですか?」

 掴まれた肩に手を置きつつ、メルへと訊ねた。

 「うーむ。いつもではないが、今日はあいつが来てからだな」

 「め、メルちゃん?でしたっけ?貴女まであいつ呼ばわりは……」

 「私もあいつの事は嫌いだからな」

 「あっ、それあたしも入れといて。あいつ、どっか気に食わないのよね」

 「うむ。そうだな」

 「そんなー……」

 自分の仕えている神が悪く言われて、複雑な心境になるエクスエルだった。



 神を追って、シュヴァルとハウンドは屋上に来ていた。神はと言うと、手すりに腕を立てて手の上に顎を置き笑顔で街の様子を見ていた。

 「いやー。こんな街の住民達でも、慈悲が生まれるものだねー。可愛いと感じてしまうよ」

 「お前みたいな奴にそう思われるなんて、反吐が出るからやめろ」

 不機嫌な顔をしながら神に近付いて行く。

 「本当に、君達はぶれないよね。それとも、ここの住民が特殊なのかな?」

 「お前ほど特殊じゃねぇ」

 「ははは。それは種族が違いますからね」

 「そういう意味じゃねぇよ」

 「クソ神と話してると、気が狂いそうになりやすね」

 「あぁ。全くだ」

 「酷いなぁ」

 神は二人に向き直る。

 「それで、何か聞きたいことがあったから、追いかけてきたんでしょ?」

 「あぁ」

 収まっていた殺気が、再び溢れ出す。

 「あのショコラって子、本当に本物なんだろうな?」

 「それはどう言う事かな?」

 「そのまんまの言葉だ。この世にいた子が、そのまんま天使に生まれ変わったって事でいいんだな?」

 「そうだよ。あの子はあの子だ。ちゃんとメルちゃんと一緒の天使となったんだよ。記憶も受け継いでいるっぽいね。もうそう簡単に死んだりしないよ。ほんと……他の天使よりも頑丈なんだよなぁ」

 「あ?聞こえねぇぞ」

 最後の方の言葉が小声で聞き取りづらく聞き返す。

 「いやいや。何でもないよ」

 「ったく」

 「だんな、こいつの言葉をそのまま信じるんですかい」

 「一応な。ただ、もしも、ショコラの事でメルを悲しませるようなことがあったら――」

 先程よりも一層、殺気が強くなる。

 「てめぇが住む、天国だかどこだかに殴り込みに行く。この世には、地獄しかない世界になるけどな」

 「あー。そりゃいいや。一度、神様ってのをぶち殺してみたかったんですよ」

 「いやー、こわいこわい。あははは」

 神は二人の男の本気の威圧にも、へらへらとして平然としている。そんな態度に、二人は舌打ちをした。

 「それと、エクスエルとか言う天使、あれは監視役か?」

 「監視?何の事かな?」

 「とぼけんじゃねぇよ。何企んでやがる」

 「何も企んでなんていないさ。ショコラちゃんはあの姿になって日が浅い、メルちゃんだってまだまだ子供、なら、先輩が傍に付いて色々教えてあげるのは当たり前なんじゃないかな?」

 「もっともらしい言葉を並べて、あーそう言う事かって、納得するとでも思っているんですかい?」

 「いやいや。ちゃんと本当の事を言っているのにここまで信用されないなんて。相当嫌われてしまっているねー」

 「ったりめぇだろーが」

 「あんな事しといて、嫌われてないと思えるその頭、流石、天国の神様を名乗るだけはありやすね」

 「それは、どういう意味かな?」

 「直接言った方が良いですかい?頭お花畑だって言ってるんですぜ」

 「おやおや。それはそれは」

 二人の間に、火花が散る。

 「やれやれ。まぁいいさ」

 神は背中から六枚の翼を出す。

 「それじゃ、僕はこれで。またいつか会えたらいいね」

 「おい!何話を終わらそうとしてんだ!」

 「僕は終わったと思ってるよ。それに、時間はそれなりに上げたつもりだよ。これ以上は上げる気は無いかなー」

 「勝手なこと抜かしてんじゃねぇ!」

 シュヴァルの言葉を無視して翼を動かして空へと舞い上がる。

 「それじゃあねー」

 後ろ姿に向かって叫ぶ。

 「次来たら、地上に引きずり落として人間の生活を体験させてやるからな!」

 「ははは!怖いねー」

 空高く飛んでいき、やがて姿が見えなくなった。

 「はー……あー疲れた」

 「クソ神といると、神経すり減らされやすね」

 「あぁ。まじで二度と会いたくねぇ」

 二人がその場で肩を落としていると、そこにメル達が現れる。

 「おー、ここに居たのか。あれ、あいつは何処に行ったのだ?」

 「クソ神は帰ったよ」

 「そうか」

 「もー。口が悪いですねぇ。神様をそんな風に扱っていると、罰が当たりますよ」

 「けっ、やれるもんならやってみろってんだ。ていうかお前、マジでここに居るつもりかよ」

 「当然です!神様からの直々のお願いですからね」

 両手を腰に当てて、得意げな顔をしている。

 「私も、いない方が良いのかしら?」

 横から、ショコラが訝しげに聞いてきた。

 「いいや。そこのあほ天使だけだ」

 「あほ天使!?どこがあほだって言うんですか!」

 「んー。雰囲気が、かな」

 「ひ、酷いです!」

 口論し続ける大人達を見て、ショコラはメルに呆れたように訊ねる。

 「いっつもこんな感じなの?」

 「うーむ。いつもではないが、でも、慣れると楽しいぞ」

 「慣れ……ね」

 ちらりとメルの顔を見る。無表情なのだが、どこか笑っているようにも感じられて、ショコラは胸を撫で下ろした。

 (本当に、今の生活を楽しんでいるのね。良かった……)

 子供の様な口喧嘩に移行している大人達を見ながら、そう思った。

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