第8話 外伝2 出会い
路地裏に、傷だらけの黒髪の男が倒れていた。十代後半くらいで整った顔立ちをしている。
「はぁ……とうとう、年貢の納め時か……」
男は、自分はもうすぐ死ぬんだと悟り、ゆっくりと目を閉じる。そこに
「おーい、どしたー?死んでんのかー?」
暢気に近づいてくる人影がいた。
黒髪の男は目を開け、ゆっくりと声のする方を見る。自分と同い年に見える赤髪の青年が、こちらに向かって歩いてくる。
確認をしたからと言って、何かをする訳でも無く、黒髪の男は再び目を閉じる。
「おい。聞こえてんだろ?酷い怪我じゃねぇか。何があった」
「……」
「んだよ。無視すんのか?だったら、こっちも勝手にやらせてもらうわ」
赤髪の男は、黒髪の男に肩を貸し、引きづるような形でどこかへ連れて行こうとする。
「おい……何しようとしてんだ」
いきなり理解が出来ない行動をし始めたので、流石に黒髪の男も口を開いた。
「やっぱ生きてんじゃねぇかよ。病院だ病院。そんな怪我してんだから当たり前だろ」
「止めろ。俺は別に助かりたいと思ってない」
黒髪の男は、抵抗しようとするが、怪我のせいで全く力が入らない。
「それに、なんで助ける?どこの誰かも分からない俺を」
「助かりそうだから。それじゃダメか?」
「意味が分からない。もっと明確な理由がある訳じゃないのか」
「人を助けるのに理由が必要なのかよ。めんどくせー奴だな」
足を止めることなく赤髪の男は、うーん、と、唸って考えてから言った。
「誰かを助けるのに理由が必要って言うなら答えるけど。なんとなくだ」
「……は?」
黒髪の男は、自分の耳を疑った。
「なんとなく……?お前、正気か?」
「正気だよ。当たり前だろ。人をやばい薬をやってる奴みたいに言うんじゃねえ」
「考えられないな。そんな奴がいるなんて」
「それは、お前の人生の中で、俺みたいな奴に出会って来なかったからそう思うんだ。良かったな。初めての人種と出会えて。」
「……」
それっきり、黒髪の男は黙ってしまった。いや、眠る様に気絶してしまって喋れなくなっただけだった。
「はぁ。なーにやってんだろ。俺」
赤髪の男は、自問をして、何故こんな行動をしたか考えてみたが、結局、分からずじまいだった。
黒髪の男が目を覚ました時最初に目にしたのは、白い天井だった。そして、自分がベットの上で寝かされているのも分かった。右腕には点滴が打たれており、あの後、病院に着き、治療されて、一応は助かったんだと悟る。
「はぁ……助かっちまったのか」
黒髪の男は、至極残念そうである。
その時、病室に赤髪の男が入ってきた。自分にお節介を焼いたあの男だ。
「おっ、目が覚めてるじゃねぇか。どうだ?気分は」
そう言いながら、近くにあった椅子を引っ張ってきて、ベッドの横に置きそこに座る。
「最悪だ。せっかく死ねそうだったのに。また、無駄に生きなきゃいけなくなった」
「そう悲観すんなよ。生きてりゃその内良い事あるって」
「勝手に救っといてその言い草か」
「悪いな。ああそうか。俺に会って、お前の運は完全に尽きたようだな。ははは!」
「はぁ……」
会話をするだけ無駄だと思い、そっぽを向いて黙り込む。
「お前、なんであんな事になってたんだ?」
「……」
「あぁ、すまんすまん。言いたくなけりゃ良いんだ。この街の出身だと思って軽く聞いちまった。すまんな」
軽く頭を下げた。
少しの間、沈黙が流れる。
「お前、これからどうするんだ?」
赤髪の男が話しかけた。
「……」
「まぁ、俺がどうこう出来る訳じゃないけど。勝手に助けた手前、どうしたいか悩んでんなら相談してくれ」
「……あんたは、一体何やってんだ?」
「え?」
黒髪の男は、赤髪の男の方を向き、真剣な顔で聞いてきた。
「お節介焼きのあんたは、こんな街で一体何をやってんだろうなって思ってね」
「俺か?俺は、どんな依頼も受けるって言う謳い文句を掲げて、何でも屋ってのをやらされてる」
「やらされてる?」
赤髪の男の顔が曇る。
「俺にも、ちょっと、色々あんだよ」
「ふーん……」
何か、思い出したくない事でもあるのか、赤髪の男の様子を見てそう思う。
再び、沈黙が流れる。
「俺も」
黒髪の男が口を開く。
「俺も、一緒にやっちゃ駄目か」
「ん?何をだよ」
「その、何でも屋って言うのをよ」
「物好きだな。お前」
「あんたの事を知りたいと思ってな」
「えっ、お前その気があんの」
赤髪の男は、自分の体を抱き、黒髪の男からちょっと距離を取り警戒する。
「そういう意味で言ってんじゃねぇよ」
「じゃあどういう意味だ」
「なんとなくで人助けをする、超が付いてもおかしくないお節介焼きがやってる仕事に興味が湧いただけだ」
「そういう事か」
「当たり前だろうが。俺をなんだと思ってんだ」
「いやー。まだ会って間もないし、何も知らねぇからさ」
警戒を解いて、距離を戻す。
「別に、一緒にやるのはいいんだけど、年がら年中閑古鳥が鳴いてるとこだぞ?」
「楽そうだからいいじゃん」
「お前なぁ」
その時、病室の引き戸が開き、白衣を着た女が入ってきた。年を感じる箇所が所々見て取れるが、それを感じさせない美しさを併せ持っている。そして、煙は出ていないのだが、何故か煙草を咥えている。
「おいシュヴァル。少しは病人を休ませてやれ。それなりに傷を負ってたんだから」
「あっ、先生。」
シュヴァルと呼ばれた赤髪の男は、わざわざ立ち上がって対応する。目上の人だからというよりも、どこか恐れている節がある。
「てか、まだいんのかよ。用が済んだんならさっさと帰れ」
「いや、まだ面会途中なんだからいいだろうがよ」
「他人なんだろ?」
「まぁそうだけど」
「関係者じゃ無いんだったらそんなに話す事なんか無いだろうが。帰れよ。病人や怪我人でもねぇのに居座んな」
「厳しくね!?あたりが厳しすぎるだろ!?」
「そもそも、面会時間も終わりで病院も閉めるんだぞ。こっちの都合を考えろ」
「それを先に言えよ!それだったら大人しく帰るわ!」
ぶつくさと文句を言いながら、病室を出て行こうとする。
「あっ、そうだ」
出て行こうとする前に、シュヴァルは、黒髪の男に言った。
「街の南側に周りに比べて明らかに場違いな小さな建物があるんだ。そこにでかでかと『何でも屋』って書かれた張り紙を出してるから、退院するまでに気が変わってなければ来いよ。茶ぐらい出してやるからよ……えっとお前は」
「ハウンドだ。ハウンド・ベルト」
天井を見上げながら、黒髪の男、ハウンドは言った。
「そっか。ハウンド。期待せずに待ってるぜ」
そう言い残し、シュヴァルは病室を出て行った。
「お前、何でも屋で働く気か」
先生と呼ばれていた女は、興味のなさそうな感じで聞いてきた。
「さぁ。どうしますかね。どうしたらいいでしょう」
ハウンドは、無表情で聞き返した。
「知るか。私は、病院の先生であって学校の先生じゃねぇ。お前は見た感じ、進路ぐらい自分で決めれる歳に見えるぞ。だから自分で決めろ」
そう言って、先生は部屋を出て行った。
「そうですねぇ……どうしよっかなぁ……」
一人、病室に残されたハウンドは、考えながら眠りについた。
あれから数日、ハウンドは、すっかり元気になって、既に退院していた。
病院の前で伸びをし、どこかへ向かって歩いて行く。
「ここか」
病院から大分歩いたとこに、目的の場所が在った。周りの建物よりも小さく、場違い感がある建物、二階の窓ガラスに『何でも屋』と貼られた紙がある、シュヴァルが言っていた場所。
右端にある階段を使い二階に上る。
二階の扉の前に着いたハウンドは、一度、大きく深呼吸をした。そして、意を決して扉を開いた。
「おっ。やっと来たのか。退院おめっとさん」
そこには、あの時と変わらない男が、椅子に座りながら、暇そうに机に頬杖を突いて待っていた。
その姿に、笑みを零しそうになりながらも耐えたのだが、どこか安堵している自分がいるのを感じ、結局、笑みを零してしまった。
「なんだよ。その顔」
指摘をされてすぐに顔を戻し、威勢よく言葉を発した。
「来てやったぞ。シュヴァル・ブラッド」
「なんだその言い方」
この後、ハウンドは、正式に何でも屋の一員になった。
「おいハウンド。またゲーム増えてないか?」
「必要経費でさ」
「何が必要経費だ。買うのは良いが自分の部屋に持ってけや。客の対応するここに置いとくんじゃねぇ!」
あれから数年、シュヴァルもハウンドも、ここに居る。ドンと約束した警察の仕事の手伝い以外は、殆ど依頼が来ず、毎日をテキトーに過ごしている。
「ったく、前はちゃんとした口調だったのに、いつの間にかおかしい口調になりやがって」
「俺も、この街に染まったって事でしょうね」
「アニメとかゲームにはまり始めてからそうなったように思うんだが」
「アニメやゲームを馬鹿にしちゃいけねぇよ」
「してねぇよ。はぁ。昔の方がまだ可愛げがあったのになー」
「昔を懐かしむなんて、老人にでもジョブチェンジしたんですかい」
「誰がわざわざ若い自分を捨てて一気に老化をする選択を選ぶんだよ」
色々と変わったりもしたようだが、本質は何も変わっていない。なんとなくで人助けをするシュヴァルと、それの意味を知りたいハウンド。
今日も街は騒がしい。銃声に爆発に人々の様々な声。
そんな街で、二人は今日も、テキトーに仕事を待っているのだった。
何でも屋 風雷 @fuurai12
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