第7話 それぞれの戦い

今日の何でも屋にもゴドリーが来ていた。とても真剣な顔で、シュヴァルと向き合っている。どうやら今回は、真面目な依頼のようである。それを察しているのか、シュヴァル達も真面目な顔になっている。

 「とっつぁん、今日は警察の依頼か?」

 「ああそうだ。手伝ってもらうぞ」

 「おう、それは良いんだけど。内容は?」

 煙を一吹きし、話を続ける。

 「ある大きな組織が銃器の密輸をするって情報を掴んでな。その取引をぶっつぶす」

 「ふーん。物騒だな。でも、密輸なん――」

 シュヴァルが何か言うとした時、ハウンドが割って入ってきた。

 「密輸なんてどこもやってそうですけどねー。ましてや、とっつぁん達が動くなんて、よっぽどなんですかい?」

 「あぁ。ただの密輸なら他の部署の奴らに丸投げすりゃいい。めんどくせぇからな。けど、今回のは俺達のとこでやらないと都合が悪いんだ。実はな、その組織が俺達警察に喧嘩を売ろうとしてるって情報が出ててな。他のとこの甘やかされた連中じゃ、こんな荒事任せられねぇからな。俺達が力づくで阻止しなきゃならねぇ」

 「成程なー。確かにそれは、とっつぁん達でやらないと駄目だろうな」

 「で、その取引はいつ行われるんで?」

 「明日だ。準備しとけよ」

 そう言って立ち上がり、部屋から出て行こうとする。

 「って、明日かよ。随分急だな」

 「奴らが決めた事だからな。お前らは別に何かある訳じゃねぇだろ?」

 「まぁ……悲しい事になんもねぇけど。そんで、時間や場所はどこなんだ?」

 「明日拉致りに来てやるよ。場所は、西南にある倉庫群だ」

 言い切るのと同時に、部屋を出て行った。

 「だんな、久しぶりに大暴れ出来そうですね」

 「あぁ?遊びで行く訳じゃねぇぞ」

 「分かってやすって」

 携帯ゲームを起動しながら、言うハウンドを見て

 「ほんとに分かってんのかよ」

 ただただ呆れるばかりのシュヴァルだった。



 何でも屋から出て、表に止めてあった警察車両の傍まで行くゴドリー。

 「ゴドさーん。話合いは終わったんすか?」

 助手席の窓を開けて、顔を出して呼びかけてきたのは、ぼさぼさ髪に野暮ったい顔の若い男だった。

 「あぁ。あいつらも来るぞ」

 言いながら、後ろのドアを開けて、後部座席に乗り込み座る。

 「でも、シュヴァルさん達は強制参加ですよね」

 運転席に座っていた、切れ長の目にメガネをしていて、髪を整え清潔感がある若い男が言った。

 「そうだ。ボスがこういう時の為に作ったようなもんだからな」

 運転席の男は、キーを回し車両のエンジンを掛ける。

 「こういう事に巻き込むって事は、あの二人って相当強いって事っすか?」

 助手席の男が振り返りながら聞く。

 「あぁ。信用していい。」

 「へーそっすか」

 車両はそのまま走り去って行った。

 その光景を、一人の女が、影からこっそり見ていた。

 「ふむ……お嬢様が食いつきそうな事が起こりそうですね」

 意味深な独り言を呟き、路地へと消えて行った。



 街の東側は、金持ちが比較的多く住んでいるエリアだ。その一角に、他と比べて大きな屋敷がある。広い庭にプールが付いてたり、門から屋敷まで距離があったり、木々が茂ってたり、どこかで見た事があるような、金持ちが住んでるお手本のようなものがそこにあった。

 表札には、なんと『pumpkin』と書かれている。

 そこに、メイド服の女が近づいてきた。少し前にシュヴァル達にヘリから爆弾を投げ落としていたメイド、アメリアだ。食材を沢山入れた袋を提げているので買い物の帰りなのだろう。

 大きな門の横にある小さい扉から敷地内に入る。庭には、あの時のヘリがあり、そこにそれを磨いている、作業着の女がいた。あの時は操縦席にいたメイド、エミリーである。

 「あっ、アメリアちゃんおかえりー」

 近づいてくるアメリアに気付き、自分の作業を中断して迎える。

 「ただいまエミリー。顔、汚れてるわよ」

 ポケットからハンカチを取り出して、エミリーに手渡す。

 「えへへ、ありがとー」

 差し出されたハンカチを受け取り、顔を拭き始める。

 「ねえ、サリアお嬢様が何処にいるか知らない?」

 顔を拭いている途中のエミリーに、質問をした。

 「えっ?あそこでお茶飲んでない?」

 顔を拭きながら振り返り指し示された場所は、屋敷にあるバルコニーであるが、そこには誰も居ない。

 「あれー?さっきまでいたんだけどなー」

 「んー。この時間だと、キッチンかしらね」

 腕時計を見て時間を確認する。針は午後五時を指していた。

 「あー。マリアお嬢様が夕食を作り始めてる時間か」

 「そうね。それじゃ、私は行くわね」

 屋敷に向かって歩き出す。

 「うん。後でねー」

 「ええ。あなたも、適当に切り上げて、屋敷に入りなさいよ」

 「分かってるって。すぐ行くよー」

 手を振って見送るエミリーに手を振り返して、屋敷に向かう。

 中に入ると、正面左右に階段があり、天井にはシャンデリアが吊り下げられている。壁には絵画も数点飾られており、床は綺麗に磨かれて屋敷の中の風景が反射している。

 キッチンに向かい歩いていると、トントンと子気味良い音が鳴っている。近付くにつれてその音が大きくなる。

 「お嬢様方、ただいま戻りました」

 入り口で止まり頭を下げる。中は、真ん中に大きなテーブルが一つ、その周りを冷蔵庫や流し台が囲むように置かれている。そのテーブルの傍に、椅子に座ってだらーっとテーブルの上に上半身を放り投げている女、サリアと、野菜を切っている女、マリアがいた。

 「んー、おかえりー」

 「お帰りなさい。アメリアさん」

 二人は、そのままの姿勢で挨拶をした。

 「サリアお嬢様、お疲れなのですか?」

 「んー、暇なだけよー」

 「はぁ。そうですか」

 冷蔵庫に買ってきた物を入れ始めながら、会話を続ける。

 「そう言えば、サリアお嬢様の暇を解消しそうな事が起こりそうですよ」

 「あら、何かしら」

 ゆっくりと姿勢を正して、話を聞こうとする。

 「以前、男達に喧嘩を売って返り討ちにあいかけた事がありましたよね」

 「確かにあったけど、その言い方止めなさいよ」

 「その二人、この前街中で見かけたので尾行してみたのですが、どうやら街から南側にある小さいビルで、何でも屋というのを営んでいるようです」

 「何でも屋?なにそれ」

 「さぁ?ただ、名前から察するに、どんな事もするってとこじゃないでしょうか」

 「成程ね。安直で変な名前だわ」

 (横取り屋も同レベルですよ)

 アメリアは、思った事を口に出そうとしたが、絶対にめんどくさい事になるというのを分かっていたので、黙っとく事にする。

 「それでですね、そのビルから警察官が出てきたのですよ。あの時のもう一人の男です」

 「あぁ。あのやくざみたいな奴ね。本当に警官だったんだ」

 「コスプレという趣味でないのであればそのようですね」

 「で、それがどうしたのよ。今んとこ、全然暇を解消出来そうに感じないんだけど」

 頬杖をついてつまらなそうにあくびまでしている。買ってきた物を入れ終えたので、サリアの方へ向き直り話を続けた。

 「警察が何でも屋から出てきたのですよ?何か、依頼を頼んだという可能性があります」

 「警察が?何をよ?ただの知り合いで、寄り道をしただけの可能性だってあるじゃない」

 「そうかもしれません。が、調べてみる価値はありそうじゃないですか?どうせ暇なのでしょう?」

 「言い方が引っかかるけど。んー……」

 「それに、あの時の借りを返すチャンスではないですか?」

 「そうねー……」

 腕を組んで。唸りながら少し悩んだ結果

 「よし。その話乗った!アメ、調べなさい!」

 びしっと右手の人差し指をアメリアに向けて、力強く命令した。

 「かしこまりました。サリアお嬢様」

 頭を下げて、命令を受諾する。

 (ふふふ。楽しそうなお姉様)

 調理を続けていたマリアの顔が微笑んでいるのを、二人が知ることは無かった。



 翌日。天気は生憎の曇り空である。

 そんな天気の中、何でも屋があるビルの前に、男が5人集まっていた。何でも屋の二人と昨日の警官三人だ。

 「はぁ。せめて、もう少し雲が薄ければなぁ」

 シュヴァルは、空を見上げて呟く。

 「んなもん気にするような玉じゃねぇだろが」

 煙草の煙を吐きながら、シュヴァルの呟きに答えたのはゴドリーだ。

 「いやー、気分って結構大事だったりするぜー?」

 「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇぞ」

 「きもいんだよだんな」

 「気持ち悪いですよシュヴァルさん」

 「お前ら便乗してくんな!」

 ハウンドとメガネの男を指さして注意をする。

 「てか、レイシズ!お前そんなキャラじゃ無いだろ!」

 レイシズと呼ばれたメガネの男は、メガネをくいっと上げて

 「私も、たまにはその場のノリに乗りますよ」

 「職場の悪い影響受けてんなー。もっと真面目な奴だったと思うんだけど」

 「人間は変われるという事ですよ」

 「悪い変わり方だと言っておくわ」

 知人の変わりように悲観しながら、もう一人の男に目をやる。

 「で、お前誰だ?」

 ぼさぼさ頭の男は、頭を下げて挨拶をした。

 「初めまして。自分、ルスパー・コンディラックって言います。宜しくっす」

 「お、おう。宜しくな」

 「よろしく~」

 挨拶を返して、シュヴァルは首を傾げる。

 「なんか、既視感あるんだよな~」

 そのまま、ハウンドを見た。

 「なんでい、だんな。何見てるんでい」

 「あぁ。これか」

 シュヴァルは、一人で納得して、頭を数回縦に小さく振った。

 「おら、そろそろ行くぞ」

 ゴドリーの一言で、全員警察車両へと乗り込んでいく。運転席にレイシズ、助手席にルスパー、後部座席に、運転席の後ろ側から、ハウンド、ゴドリー、シュヴァルの順で座った。

 「そういや、ここに居るので全員じゃないよな?」

 シュヴァルは、疑問に思った事を口にする。

 「後で応援が来る。俺達は、先行して見張りに行くんだ」

 ゴドリーは、煙を吐き終えてから答えた

 「そうか、それならいいんだけど」

 「だんなぁ、流石にこの人数でいくわきゃねぇでしょうよ」

 「シュヴァルさん、もう少し考えて下さい」

 「俺に対して厳しくね!?」

 車両のエンジンがかかり、走り去って行った。

 それを、ビルとビルの間から、覗いている人物がいた。アメリアである。

 「お嬢様方、聞こえますか?車両が目的地へ向かったようです」

 耳に付けてる小型の無線機から仲間に向かって話しかける。

 「おーけーよ。こっちもちゃーんと確認出来てる。」

 自宅の庭のヘリの中で、サリアは、同じ無線機で話ながら、携帯のような端末で何かの画面を見つめている。赤い点が画面の中心で規則的に点滅し、少しずつ移動しているようである。

 「そうですか。頑張って発信機をつけたかいがありました」

 「何かわいらしく言ってんのよ」

 警官三人が車両から降り、何でも屋に入って行く間の車両から離れている隙に、車両の下部に発信機を取り付けていたようだ。

 「サリアお嬢様、車両はどちらに向かっていますか?」

 「んー。西に行ったり……南に行ったり……あっ、また西に向かってるようね」

 「西南ですか?」

 「んー。そうみたいね」

 「分かりました。取り敢えず、適当に向かいますので、何かありましたらご連絡を下さい」

 「ええ。気を付けなさいよ」

 「はい」

 アメリアとの通信が切れる。

 「にしても、警察に協力をお願いされるって、よっぽど信頼と実力があるんでしょうね」

 ヘリの操縦席に座っているエミリーが無邪気な笑顔で言った。

 「何言ってんのよ。国家の犬に使われるとか、窮屈で仕方ないでしょ」

 サリアは、それをすぐに否定した。

 「えー。そうなんですかねー」

 「少なくとも、私はごめんだわね」

 「お姉様の性格じゃ、絶対に相いれないでしょうね」

 サリアの隣に座っていたマリアが同意をする。

 「流石私の妹だわ。一番理解してくれているわね」

 「もちろんです。お姉様」

 (相変わらず仲がいいなー)

 後ろで笑い合っている姉妹を、微笑ましく背中で感じているエミリー。

 「にしても、こいつらは何時になったら目的地に着くのかしら」

 あれから三十分は経っただろうか、未だに赤い点は止まる気配がない。

 「あー。これ本当に面白い事に繋がってるんでしょうねー?飽きてきたわー」

 サリアが、不満をあらわにするのを見て、マリアは優しく諭す。

 「お姉様。もう少し待ちましょう。せっかく、アメリアさんが持ってきてくれたイベントですよ。信用してあげませんか?」

 「うー。分かったわよ。それと、別に信用してない訳じゃ無いからね」

 恥ずかしかったのか、ぷいっ、と顔を背ける。マリアはそれが分かっているのか、クスクスと静かに笑った。その時

 「あれ?お姉様。これ、止まっていませんか?」

 「ん?どれどれ」

 スマホに映っている赤い点は、規則的に点滅を繰り返しているが、動く事無く止まっている。

 「おっ。どうやら着いたようね。えっと、ここは」

 「西南にある倉庫群ですね」

 「何があるのかしら」

 「さぁ。分かりませんけど」

 「まぁいいわ。目的地は西南の倉庫群よ!エミー!準備開始!」

 「あいあいさー!」

 エミリーは、ヘリのエンジンを始動させ始めた。

 「アメにも連絡しときましょう」

 アメリアとの通信を、再び開始する。

 「アメ聞こえる?場所が分かったわよ」

 「聞こえますお嬢様。どちらに向かったのですか?」

 「西南にある倉庫群よ」

 「そうですか。それでしたらすぐに向かいますか」

 そう言って、ヘリの中にひょこっと顔を出してきたのはアメリアだった。

 「うわぁ!!びっくりした!!あんた何やってんの!?」

 突然の事にひっくり返りそうになるサリア。反射的に右手を心臓付近に置いてしまう。鼓動が早くなっているのが確認出来る。

 「はい。買い物から帰ってきました」

 何食わぬ顔で、買い物袋を見せて、左右に振る。

 「ほんとに何やってんのよ!」

 「いつもいつも、ありがとうございます」

 サリアを横目に、笑顔でお礼の言葉を述べるマリア。

 「いえいえ。これが私の仕事ですので。では、冷蔵庫に入れてきますね」

 そう言って、屋敷に向かおうとするアメリアをサリアは全力で引き止める。

 「待て待て待て!後にしなさい後に!今は倉庫群に向かうわよ!」

 「ですが、片付けておきたいのですが」

 「いいからはよ乗らんかい!」

 「お嬢様、口調が変わっておりますよ」

 「誰のせいだと思ってんのよ!」

 このやり取りに満足したように、ヘリへと乗り込むアメリア。

 「はぁ……どっと疲れたんだけど……」

 座席に座りなおして、項垂れる。

 「お姉様、まだこれからですよ。頑張りましょう」

 優しく鼓舞するマリアの方を見て、数秒程見つめ合った後に、急に立ち上がり

 「そうね!疲れてる場合じゃないわ!エミー!ヘリを動かしなさい!目的地に向かって全速前進!」

 まっすぐ指差し、元気よく叫んだ。

 「あいあいさー!」

 その叫びに、同じくらい元気よく答えるエミリー。

 「サリアお嬢様は単純ですね」

 「そういう所が、お姉様の可愛いところであり長所でもありますよ」

 高笑いをしているサリアを、穏やかな笑みを浮かべて見つめるマリアと、無表情で助手席へと移動をするアメリア。

 ヘリは、十分な高度まで上がり、シュヴァル達がいるであろう西南の倉庫群に向けて移動を開始したのだった。



 シュヴァル達は、車から降りて倉庫群を歩いていた。

 同じような倉庫がいくつもずらっと立ち並ぶここは、様々な企業や個人が借りる場所となっている。

 そこを、無言で歩き続けているシュヴァル達。そんな中、ルスパーが口を開いた。

 「あのー、中を調べて行かなくていいんっすか?ずっと歩いてますけど」

 ただ無言で歩いていた事に疑問を持っていたルスパーは、そんな事を聞いた。

 「一つ一つ探すのはめんどいだろ?あいつに任しとけば探し出してくれるから待ってろって」

 ルスパーの疑問に答えたのは、シュヴァルだった。

 「そこも疑問なんすよ。ハウンドさんは何やってんっすか?」

 一人だけ先行して、一つ一つの倉庫に耳を近づけては離して近づけては離してを繰り返している。

 「なんか、あれで中に人がいるかどうか分かるんだとよ」

 「すげぇ特技っすね」

 ルスパーが関心していると、突然ある倉庫の前で止まって、シュヴァル達に手招きをした。

 「ん、見付かったみたいだな」

 ゴドリー以外の三人は、ハウンドの元へ小走りに急ぐ。

 「ここに居やすぜ」

 「ほー」

 三人は倉庫に耳を近づけてみる。その間に、ゴドリーが充分近づいてきた。

 「なんも分からん」

 「そうですね。何も聞こえません」

 「そっすね。自分も何も分からないっす」

 三人は耳を離してハウンドを見る。

 「ダメダメですね~。もっと腕を磨いた方がいいですぜ。いや、磨くのは耳かな?」

 お手本のようなどや顔を見せられて、本気で殺意が湧いたが、なんとか抑えるシュヴァル。

 「で、とっつぁん。ここからどうしやすかい」

 何時ものように、煙草を吹かしているゴドリーに、今後の予定を聞いてみた。

 「んー?応援待つのめんどくせーな。突撃かますか」

 「何言い出してんだあんた」

 シュヴァルがすぐに否定にはいる。

 「この人数じゃ流石に無理だろ」

 「やってみなきゃ分かんねぇだろうが」

 「なんでそんな自信満々なんだよ!?」

 「シュヴァルよ~。腹ぁ括れや」

 「こんなことで括りたくないわ」

 二人が睨み合っていると、ハウンドが口を出してくる。

 「どうしやすかい。こっちはやる気満々ですぜ」

 「そっすよ。早く殴りこみに行きましょうよ」

 「まっ。何とかなりますよ」

 ルスパーとレイシズも乗ってくる。

 「ここにはアホしかいないのか……」

 この、どうしようもない連中に頭を抱えてしまう。

 「じゃあ、せめて不意を突くぞ。お前ら、真正面から殴り込みに行く勢いだからさ」

 シュヴァルの提案に、全員から総ツッコミが入る。

 「当たり前だろうが。何言ってんだお前」

 「だんな、流石に俺達もそこまで馬鹿じゃないですぜ」

 「シュヴァルさん。いくら何でもそれは無いです」

 「シュヴァルさん。まじ、たのみますよ」

 「お前らほんといい加減にしろよ」

 シュヴァルいじりをして満足した四人と、まだ何もしてないのに強い疲労感が襲っている一人は、改めて、どうやって取り締まろうか考え始めようとしたその時、バタバタバタと、遠くから何かの音が聞こえてきた。

 「ん、何の音だ?」

 それは、段々と大きくなっていく。

 「あっ、あれじゃねぇですかい?」

 ハウンドが上空を指さした方向には、一台のヘリがいた。

 「とっつぁん。ヘリまで要請するなんて、結構本格的にやるつもりなんだな」

 「いや、そこまで要請してねぇぞ」

 煙草の煙を吐き、忌々しそうにヘリを見ながら言った。

 「え?じゃあ、ただの一般人か。紛らわしいな」

 徐々に近づいてきたヘリを見て、ハウンドは違和感を感じた。

 「あれ?だんな、なーんか見覚えありやせんか」

 「あぁ?そうか?俺は特に覚えてないな」

 シュヴァルは首を横に振る。

 「んー。なんだったかなぁ」

 腕を組んで首を傾げている間に、ヘリはシュヴァル達の頭上まで来て、その場で停止をした。

 「おい。なんだあのヘリ。あんなとこで止まりやがって。すげぇ邪魔だぞ」

 シュヴァル達が苛立って見ているその時、ヘリは態勢を変え、正面をシュヴァル達の方へ向ける。そして

 「なんか、嫌な予感しやせんか」

 「取り敢えず、物陰に隠れろ!」

 シュヴァルの号令とヘリの下部に付いている機関砲が火を噴くのは同時だった。急いで倉庫の陰に隠れるシュヴァル達。

 「おい!あのヘリのパイロット、頭おかしいのか!」

 「どこのアホだ!ぶち殺されてぇようだな!」

 ひとしきり撃った後、大音量で女性の声が発せられた。

 「おーほっほっほっほっ!また会ったわね!どこの馬の骨とも分からないぼんくらの皆さん!」

 「なんか、聞いた事ないかこの声」

 思い出そうとしているシュヴァルの横で声が上がった。

 「あっ、思い出しやした。だんな、とっつぁん、あの時の、路地の時の頭のおかしい姉妹でさ」

 ハウンドの言葉で、二人も思い出したようだ。

 「あぁ!あいつらか!」

 「あの尼共、一体何しに来やがった」

 ヘリの中では、サリアがほくそ笑んでいた。

 「ふふ。驚いてる驚いてる。来た甲斐があったという物ですわ」

 「お姉様、この後はどうしましょう?」

 「んー……ん?ちょっと待って」

 こんなに騒がしくしていたら、当然、倉庫内にいる組織の者達が外で何が起きているか確認しにくるであろう。数人の男達が、警戒をしながら出てきていた。

 「げっ!?とっつぁん、どうする!?」

 「クソ共が……」

 その光景を見て、サリアは、とても悪い顔をする。

 「ふふ~ん。良い事思いついた」

 「また、ろくでもない事を、ですか」

 助手席から、顔だけを後ろに向けて、アメリアは、サリアの顔を見ながら言った。

 「またって何よ!またって!ろくでもない事なんて言った事ないから!」

 「はいはい。で、何を思いついたんですか」

 コホンと咳ばらいをして、高らかに宣言した。

 「私達は、あの倉庫から出てきた奴らに付きますわよ!」

 「それは、どうしてですか?お姉様」

 「面白そうだから!」

 にっっと良い笑顔を向けられて、マリアも優しく微笑み返した。

 「はぁ。やれやれ」

 「あはは!それでこそ、私達のお嬢様だね!」

 顔を隠すように片手で覆い、首を横にゆっくりと何度も振るアメリアと、無邪気な笑顔でけらけらと笑うエミリー。

 「では、下にいる方々にも高らかと宣言をお願いします。サリアお嬢様」

 サリアが持っている四角いマイクのような物を指さした。どうやら、これに喋りかけて、外に取り付けてある、マイクと連動しているスピーカーから声が発せられていたようである。

 「じゃあ、行きますわよ!」

 口にマイクを近づけて、声明を表明する。

 「あーあー。聞こえるかしら?」

 「なんだ?今度は何する気だ?」

 「そこの、えーっと、倉庫から出てきた奴ら!あんた達は今狙われていますわよ!隣を見てみなさいな」

 男達は、言われた通り左右に首を向けた。片側に、別のグループの男達を見付け声を上げた。

 「あっ、ほんとにいやがった」

 「あの尼共、どこまで俺達の邪魔をするんだ」

 ゴドリーの怒りが爆発しかけているのが見て分かる。

 「私達はそいつらに仮がありますの。だから、手伝ってあげるから、あんた達のやりたい事をちゃっちゃと済ましちゃいなさい!」

 「マジであいつら何がしてぇんだ!?」

 組織の男達は、まだこの状況を理解出来ていないようだが、取り敢えず中にいるであろう仲間達に報せに行く為に駆け足で戻って行った。

 「くそっ!ハウンド!お前は、倉庫の中の奴らを頼む!」

 「分かりやした」

 ハウンドは、すぐに倉庫入り口まで走っていき、突入する前に手榴弾を放り込んだ。カンと床に落ちる音が聞こえた刹那、強い光が倉庫から漏れる。光が収まってから、中に突入した。少ししてから、怒号や悲鳴や銃声が聞こえ始めた。

 「ん?おいとっつぁん!」

 「あぁ?」

 シュヴァルが慌てて指さした方へ顔を向ける。倉庫と倉庫の間から、車が通り過ぎて行くのが見えた。どうやら、倉庫の裏から出て行った組織の男達の一部が逃走を図ったようである。

 「ちっ!レイシズ!ルスパー!お前らが車を出して追いかけろ!俺とシュヴァルは、あの尼共をぶち殺す」

 「分かりました」

 「了解っす」

 ゴドリーの指示に素早く反応し、車の元へと戻っていく二人。残った二人は、上空を飛ぶヘリを睨みつける。

 「シュヴァル、あの五月蠅い蠅をさっさと地べたに叩き落せ」

 「分かってるって」

 言われて、シュヴァルは、左腰のホルスターから拳銃を抜き、ポケットから、一発の弾丸を取り出し、装填をした。

 「ふふん。豆鉄砲じゃ、このPちゃんの装甲は抜けないって前に知ってるはずなのに~」

 下の二人には聞こえていないのだが、ヘリの中のエミリーは得意げに言った。

 弾を込め終え銃口を向け、照準を定めて、発砲をした。

 弾丸は、真っ直ぐにヘリに向かい、メインローター付近に着弾し爆発した。

 「あいぃ!?」

 爆風の衝撃で一気に態勢が崩れ、墜落する様な形で高度がどんどん落ちて行く。

 「くっ!?お嬢様方、どこかにお掴まり下さい!」

 「もうとっくに掴まってる!」

 アメリアは、咄嗟に後ろを振り返り、手すりか何かに姉妹揃って掴まっている主の姿を確認し、すぐさま隣のエミリーの方を向き確認を取る。

 「エミリー!大丈夫なの!?」

 「まーかーせーてー!」

 全神経を集中させて、機体の安定を取ろうとする。しかし、ふらふらとしながら落ちる事を止められない。やがて、地面に一度着いてバウンドし、スライドしているかのように後ろに下がっていく。それでも、何とか着地させる事に成功した。

 「……はあああぁぁぁぁ。止まったあああぁぁぁ……」

 思いっきり息を吐き、ほっと胸を撫で下ろすエミリー。その様子に、助かったんだと他の三人も安堵した。

 「あっ!Pちゃん!傷!調べなきゃ!」

 「待ちなさい」

 勢いで外に出ようとするのをアメリアは冷静に止めて、正面を指差す。シュヴァルとゴドリーがゆっくりと近付いてきていた。その顔は、鬼気迫っている。

 「ひいぃ!?怖い!?」

 「サリアお嬢様。どうなさいますか」

 席から立ち上がり、外の二人を睨み返す。

 「アメ、あのいかつい方を相手しなさい。私とマリアであの赤い髪の方をやるわ。エミは、機体チェックをしていつでも帰れるようにしときなさい」

 シュヴァル達と同じくらいの表情をして低い声のトーンで指示を出す。

 「了解しました。お嬢様」

 「は、はい!」

 メイドの二人が、同時に声を出す。

 助手席から立ち、すぐに出て行こうとするアメリアに、姉妹から声が掛かる。

 「アメリアさん、気を付けて下さいね」

 「アメ、無茶をするのだけは駄目だからね」

 出て行こうとしていた足を止め、姉妹の方へちゃんと向き、頭を下げながら

 「私は、パンプキン家のメイドです。やられなどしませんよ」

 そう言って、ヘリから降りて行った。

 「……さっ、私達も行くわよ」

 「はい。お姉様」

 「お嬢様方、お気を付けて!」

 その言葉に、準備を終えた二人は、無言で頷いて降りて行った。

 「やっと、腹ぁ括ったか」

 「ええ。あなたが思っている括り方では無いと思いますが」

 ゴドリーとアメリアが対峙する。数秒のにらみ合いの末、ゴドリーが先制で動き出す。拳銃を引き抜き、一発撃ちこむ。それを、アメリアは回避して、近くの倉庫へと近付くように逃げて行く。もう二発撃つが、それも当たらなかった。

 「ちっ」

 舌打ちをして、歩きでゆっくりと追いかけて行く。

 そんな二人のやり取りを、黙って見守るシュヴァルの前に、姉妹が近づいてくる。

 「よっ。わざわざぶちのめされに来てくれて感謝するぜ」

 「ふん。あんたこそ、ぶちのめされる覚悟が出来てるんでしょうね」

 こちらも、数秒のにらみ合いをした後、先に行動を起こしたのはシュヴァルだった。先程の二人とは反対の倉庫に近付いて走って行く。

 「ちょっと!どこ行きますの!」

 サリアの問いかけを無視して、倉庫に入って行く。

 「全く!マリア!行くわよ!」

 「用心してくださいね。お姉様」

 シュヴァルを追いかけて、二人も走って行った。

 「皆……気を付けてね……」

 ヘリに残ったエミリーは、心の中で祈りながら、サリアに言われた事を粛々と始めた。



 シュヴァルを追いかけて倉庫の入り口まで来た姉妹は、左右に分かれて、中を警戒しつつタイミングを窺っていた。お互いに顔を見合わせて頷き合うと、用意していた銃、サリアはマシンガンをマリアは拳銃を手にして、中に入る。

 中には大きなコンテナや小さなコンテナが不規則に置かれていて、どこから襲われるか分からないような感じである。

 「何よこれ。めんどくさいとこに逃げ込んで」

 「あの人はどこに隠れているんでしょうか」

 一定の距離を保ちつつ、少しずつ前に進んでいく二人。その時、コンテナの陰から急にシュヴァルが出てきて、構えていた拳銃で数発撃ちこむ。

 二人は咄嗟に反応して、一緒にしゃがみ込み回避しながら、サリアが応戦する為に銃口を向けて引き金を引く。シュヴァルは、また、コンテナの影に隠れた。

 「逃がしませんわ!」

 サリアは立ち上がり追いかける。マリアも一緒になって付いて行く。コンテナの角を曲がるが、シュヴァルの姿はどこにも見えなかった。

 「また隠れて!もう!」

 「お姉様。落ち着いてください」

 「分かっているわ」

 二人は、再び銃を構えながら歩き始めたその時、ごんごんと何かの音が聞こえてきた

 「何?」

 二人は、その場に立ち止まり警戒を強くしたのだが、コンテナの上から不意に勢いよく現れたシュヴァルに対処出来なかった。

 飛び降りながら左足でサリアを蹴ろうとする。それを、防ごうとした際、マシンガンを思いっきり蹴り飛ばされてしまう。右足だけで着地し、回転をしながら左足も地面に着けそのまま体重を左足に乗せ今度は右足の蹴りをお見舞いする。

 「っ!?」

 サリアは、それを両腕で盾を作る様にガードをしたが、後ろに吹き飛ばされてそのまま転んでしまう。

 「お姉様!」

 マリアは、咄嗟に拳銃を構えるが、直線上に姉がいて当ててしまうかも知れないと考え、撃つのを一瞬躊躇してしまう。その隙に、シュヴァルは体を半分だけマリアの方へ回し、持っていた拳銃の銃口を向けて一発撃ちこみ、マリアが構えていた拳銃を撃ち飛ばす。

 「くっ!?」

 「マリア!」

 転びながら、腰のホルスターから拳銃を抜き、シュヴァルの足元を狙って数発撃ちこむ。

 シュヴァルは、それをかわしながら、もう一丁の拳銃を引き抜き銃口をサリアに向ける。

 「!?」

 マリアは、咄嗟に腰のナイフを取り出してシュヴァルに向かって行く。

 「次から次へと!」

 「はああぁぁ!」

 「マリア!止めなさい!」

 ナイフを突き出して刺そうとするが、右手の拳銃で下に薙ぎ払われるようにかわされ、横をすり抜けつつ、前のめりに倒れてしまった。

 「いっつ!?」

 マリアは、すぐに振り返り起き上がろうとしたが、眼前には拳銃が突き付けられて身動きが出来なくなった。

 「……」

 「マリア……っ!」

 「動くんじゃねぇぞ。妹さんを殺されたくなければな」

 死闘は、硬直状態になった。

 「ったくよ。お前らは、何が目的でここに来たんだ?」

 疑問に思っていた事をぶつけてみた。

 「あの時の借りを返す為もあるし、何よりも、あんた達の邪魔をするのは面白そうだったからよ」

 サリアは、悔しそうに理由を喋った。

 「くだんねぇな。それでこのざまかよ。世話ねぇぜ」

 「くぅぅぅ……」

 ぐうの音も出ないといった様子である。

 「マリアだけは……その子だけは……逃がしてあげて……」

 「あぁ?」

 「お姉様?」

 サリアは、うつむいたまま続ける。

 「どうすればいい?どうすれば、その子を逃がしてくれるの?私が死ねば、助けてくれる?」

 「何言ってるんですかお姉様?」

 サリアの様子がおかしい事に、マリアはすぐに気付いてつばを飲み込む。

 サリアは、持っていた拳銃を、頭に突き付けようとする。

 「おいおい」

 「お姉様!馬鹿な真似は止めて下さい!」

 震える手で、今にも頭に銃口を向けようとする。

 「お姉様!」

 「くそっ!?」

 シュヴァルは、マリアに向けていないもう片方の拳銃の照準を、サリアの拳銃に合わせようとしたその時、ブーンと、どこからか羽音みたいなものがしてくる。

 「ん?なんだ?」

 その場に居た全員が、音がする上空へと顔を向けてみた。そこには、ドローンが飛んでいる。

 「なんだ、ありゃ」

 それをよく観察してみると、下部に小さなミニガンのような物が取り付けられているのが分かった。

 「ちっ!?」

 それの銃口がシュヴァルに向けられているのが分かった瞬間、姉妹の事を無視して後ろに下がりつつコンテナの影へ入ろうとする。それを追うようにして、ドローンの装備が火を噴く。間一髪陰に入れたので難を逃れられた。

 「くっそ!なんなんだよあれは!」

 いきなり現れた謎の敵にイラつくシュヴァルを他所に、姉妹には、ドローンの所有者が誰だか分かっていた。

 「エミリーさん!」

 「エミ!あの子!」

 その頃、ヘリの中では、点検の途中だったのだが、二人の事が心配だったエミリーが、ラジコンを手にして、ドローンに取り付けてある小型カメラから送られてくる映像を見ながらガッツポーズをして、二人には聞こえない独り言まで言い出した。

 「はー良かった。よーし!このまま援護しますよー!」

 この隙を利用して、マリアはサリアに近付いて行く。

 「マリア!よか――」

 サリアが安堵の表情で言おうとした言葉を遮るように平手打ちが飛んできて、直後、抱き着かれる。

 「あんな事!あんな事……二度としないで下さい……二度と……」

 今にも泣きだしそうな震えた声で、顔をサリアの胸に埋めながら言った。

 「……ごめん」

 一言だけだったが、マリアにとっては、それで十分だった。

 「はっ!感動的だな!お涙頂戴かよ!」

 ヘリを撃った時の弾丸を込め終えたシュヴァルは、いつの間にかコンテナの上に登っており、銃口をドローンに向け終えていた。

 「ん?どうしたんだろ」

 姉妹の事を映して見ていたエミリーは、何かジェスチャーしている二人の意味がよく分からず、反応出来なかった。

 「落ちやがれ!」

 その言葉と一緒に、弾丸が放たれて、ドローンに命中。爆風で綺麗に飛んでいき地面に勢いよく墜落した。その衝撃で、色々と壊れヘリの中のエミリーは悲鳴を上げていた。

 「ああああ!!私のドローンちゃんがあああ!」

 映像は、虚しくも砂嵐を映し続ける事になってしまった。

 「あー……エミーは、どこまでいってもエミーなのね」

 「あはは……」

 呆れながらも、二人の顔は綻んでいる。

 「ったく、余計な邪魔を入れやがって。お前らの指示かよ」

 コンテナの上から、姉妹を見下ろしながら、シュヴァルは言う。

 「違いますわ。でも、私のメイド達はとても優秀でしょう?」

 「ああ。むかつく程にな」

 三人は、ほぼ同時に、各々の武器を構える。シュヴァルは二丁の拳銃を一つずつ姉妹に向けて、サリアは、背中にしょっていたもう一丁のマシンガンを、マリアは、別の拳銃を。

 「ちっ」

 シュヴァルは、しかめっ面になり二対一で片方がマシンガンを構えているこの状況は不利だと判断して、一度後退しようとコンテナからコンテナに向けて後ろにジャンプをした。

 姉妹は追いかける事も無く、武器を構えながら顔を向き合わせて

 「入り口に戻りますわよ」

 「はい」

 一度武器を下ろし、全力で入り口に向かって走り始めた。

 「ん、追いかけて来ないのか」

 足音が遠ざかっていくのを感じて、自分の方ではなく入り口に向かっているのを察して追いかけようとする。

 「ん?」

 前に進もうと思った矢先、入り口の方から、何か小さな物がシュヴァルがいる場所とは全然違う方向へ飛んでいく。それは、コンテナの上で一度跳ねた後、爆発した。

 「いぃ!」

 突然の事で面食らい、体制を崩して落ちそうになるが、なんとか踏ん張る。そんな事をしている間に、また小さい物が飛んできていたが、また自分とは離れているとこに飛んでいったので無視をする。それは後ろの方で爆発をした。

 「おーほっほっほっほっ!まだくたばっていないのかしら!」

 入り口付近にある最初のコンテナの辺りで何かをやっているサリアは、確認するかのように叫び、大声が響き渡る。

 「……死んじゃったかしら」

 「そう簡単にやられるような人じゃないと思いますよ」

 一緒になって何かの作業をしているマリアは、作業の合間で手榴弾のピンを抜き、投げながら会話をする。少し経ってから、爆発音が鳴り響く。

 「最初っから、こうやって爆弾を投げこめば良かったんじゃないですか?」

 作業をしながらマリアは訊ねた。

 「駄目よ。コンテナを傷つける事になっちゃうでしょ。持ち主は関係無いもの。まっ、もうどうでもいいけどね」

 何かの作業を終えて、一緒に入り口辺りに移動しているその時

 「ぽんぽんぽんぽん爆弾投げやがって、いい加減うるせぇんだよ!」

 シュヴァルがコンテナの影から現れたと思ったら、二人の真正面に出てきた。そして、出てくる前に抜いていた、左手に持っている刀をサリアに向かって投擲した。

 「なっ!?」

 マシンガンを構えてはいたが、反射的に盾にするように持ち替えて、そのまま刀が突き刺さる。

 「お姉様!」

 手榴弾を投げる為にしまっていた拳銃を抜こうとするが、シュヴァルの右手にはすでに拳銃が握られており、マリアが抜いたと同時にそれを撃ち落とした。

 「いい加減諦めろや」

 銃口を向けて、ゆっくりと近付いてくるシュヴァルを、サリアは鼻で笑う。

 「ふん。諦めるのはあんたの方よ!」

 姉妹は、一緒に倉庫から出て行こうとする。と同時に、サリアは、ポケットから携帯を取り出し、何かの画面を出してスイッチを押すかのような仕草をする。

 「吹っ飛べ!」

 そう言い残し、姉妹は倉庫の左右に走っていき姿が消える。

 シュヴァルが頭の上に疑問符を浮かべていると、後ろからピピピと音がした。振り返ると、一番近いコンテナに爆弾がいくつも貼り付けてあった。

 「あいつら!!」

 気付いた時には遅く、爆弾が一斉に爆発しその衝撃により、シュヴァルは外に吹き飛ばされてしまった。

 「ぐうううぅぅぅ!?」

 背中から地面に落ち、何回転もして止まる。

 「ふん。私達になめてかかるからこうなるのよ」

 地面に横たわるシュヴァルを、サリアは勝ち誇ったような顔を、マリアは悪い事をしてしまったというような顔を浮かべて見ていた。



 時間は遡り、ゴドリーがアメリアを追いかけて倉庫に向かっている最中の事である。

 ポケットに拳銃を持った右手を突っ込み、左手で煙草を持ち煙を吐きながら、無警戒で倉庫内に入って行く。

 中は、シュヴァル達が戦った所と殆ど一緒のような感じだ。入ったところで立ち止まり、吸えなくなった煙草を地面に捨てて足で踏み潰すようにして火を消した。

 「大人しく出てこいや。こっちは、くだらねぇガキの遊びをしに来てる訳じゃねぇんだぞ」

 大声で呼びかけてみたが、何も返ってこない。

 「はぁ。くっそだりぃな」

 ゴドリーは、踵を返して倉庫から出て行こうとする際に、もう一度言葉をかけてみる。

 「てめぇが出て来ねぇなら、ヘリに居るもう一人から話を聞くしかねぇな」

 そう言って出て行こうとする背後から、どこからかナイフが飛んできた。

 それをあっさりと躱し、再び倉庫の中に注目する。しかし、相変わらず先程のメイドの姿は見えない。

 「おい、何度言わせんだ。ガキの遊びに付き合うほど、こっちは暇じゃねぇんだよ」

 言い終わった瞬間、コンテナの影から上の方に何かが投げられた。

 ゴドリーは、それを躊躇なく撃った。それに弾が当たり、空中で爆発する。それが合図だったかのように、コンテナの影からアメリアが飛び出してきて、ゴドリーに向かって突っ込んでいく。

 左手に持ったナイフをゴドリーに投擲した。それを、ゴドリーは左に躱しながら、銃口を向け一発、二発と撃ちこむ。銃弾もまた、アメリアから見て左に躱されてしまう。躱しながら、右手のナイフを左に払うように手を動かす途中で投擲、左腕の服の袖から出したナイフを左手で掴み、再び突進をする。

 その突進を止めるように照準を定めて一発撃ちこむ。勢いは殺さずに、ガードをするように右腕を顔の前に出すと、弾丸は甲高い音ともに弾かれた。どうやら、腕に何かを仕込んでいるようである。

 ゴドリーは、舌打ちをして明らかな苛立ちを顔に出す。

 そんなゴドリーを無視して、アメリアは、右腕からナイフを射出するように取り出し右手で掴み、その間に十分に近づいたので、そのまま斬り付けた。

 後ろに下がって躱すゴドリーを、左手のナイフを突き刺すように追撃をするが、それも躱される。

 一旦距離を取る為に下がろうとするが、それを許さないようにナイフの追撃は止まない。

 「この尼がぁ!」

 半ばやけくそで左のストレートを打ち込んだ。アメリアは、一瞬眉をひそめてナイフの追撃を止めてそれを両腕でガードした。力強く殴られて後ろに下がってしまう。その隙にゴドリーは距離を取り、残りの弾丸で足を狙って撃った。しかし、腕の隙間から見ていたからか、行動を読んでいたのか、素早くしゃがみ、腕に当たる様にして攻撃を防ぐ。

 入り口近くにアメリアが、そこから少し離れた所にゴドリーが制止し、激しい攻防が一旦落ち着き、静寂が訪れた。

 「優秀な駄犬だな。ほんとに目障りだ」

 「優秀な駄犬で申し訳ございません。鍛えられていますので」

 「減らず口が」

 弾切れを起こしているので装填をしたいのだが、その暇を与えてくれそうにないくらい警戒されている。

 「あなたもなかなかの駄犬だと思いますよ。国家の犬がここまで出来るとは思いませんでした」

 「国家の犬じゃねぇ。ボスの犬だ」

 「おや、規模がとても小さくなりましたね」

 「俺達はそれでいい。あの人が俺達の全てだからな」

 「まぁ、その気持ちは、分からなくもないですが」

 「お前なんぞに分かられてたまるか」

 にらみ合いが続いていたその時、一際大きな爆発音が鳴り響いた。

 「今度はなんだ」

 ゴドリーの事を気にかけつつも、後ろが気になる様子で目だけを一瞬動かして、脱兎の如く倉庫から出て行こうとするアメリア。

 「逃がすと思ってんのか」

 アメリアの行動を見て、追いかけようとするが、急に振り返りそのまま二本のナイフを等間隔で投げてきた。一本は避け、もう一本は持っていた拳銃で叩き落とした。しかし、それに気を取られた一瞬の隙を突かれて、次の動作を見れてなかったゴドリーの前に、何かが落ちる音がした。瞬間、強い光が辺りを包み込んだ。

 間一髪腕で目を覆い、何とか難を逃れたと思ったのだが、腕を下げて次に見た光景の一部にまた同じような物が放り込まれていた。

 「ふざけんなよクソ尼!」

 地面に落ちてから数秒後に、今度は爆発をした。

 爆発物を投げた後に、既にヘリの方へ向かっていたアメリアは、遠目にだが倒れてる男とそれを見つめる主達を見て、何と無くだか状況を理解した。

 「お嬢様方!」

 呼ばれて最初に気付いたのはサリアだった。

 「ヘリを飛ばすようにエミーに言って!」

 「承知しました」

 サリアの指示にすぐに従い、ヘリに乗り込んでもう一人のメイドに伝言を伝える。

 「エミリー。ヘリを飛ばす準備をしなさい」

 「もうやってるよ~」

 「なんで涙目なのよ」

 先程、ドローンを壊された事を知らないので、いきなり泣きそうになっているエミリーを見てちょっと引いてしまう。伝言を伝えた後は、ゴドリーが倉庫から出てこれないように牽制を始めた。

 「ああくそ!シュヴァルは何やってんだ!」

 爆発するまでの間に、後ろに飛びのいて何とかやり過ごしていたゴドリーは、倉庫入り口から地面に倒れているシュヴァルに向かって大声で怒鳴り付けた。

 「おいシュヴァル!何寝てやがんだ!寝てぇんだったら仕事を先に片付けろ!」

 その声に反応するかのように、ゆっくりと起き上がる。

 「うるっせぇな。寝てる訳じゃねぇっつうんだよ」

 体の節々が痛いのを我慢して立ち上がろうとするシュヴァルが見え、サリアは早々にこの場から立ち去ろうとする。

 「まだ生きてるなんて。しぶといですわね。マリア!行きますわよ!」

 「は、はい!」

 一緒にヘリに向かう姉妹を、気力を振り絞り何とか立ち上がり、狙いを定めて撃ち始めた。だが、痛みからか照準がぶれて全く当たらない。その間に、マリアがヘリの中に到着する。

 「お姉様!」

 手を伸ばして引き寄せようとする。サリアも、手を伸ばして差し出された手を掴もうとする。

 「逃がさねぇ!」

 執念の一発が発射され、サリアに向かって飛んでいく。その一発はサリアの肩を掠める程度に留まった。

 「っ!?」

 「お姉様!?」

 「掠っただけ!」

 体制を崩す事無く進み、マリアの手を掴んでヘリの中へと引き寄せて貰った。マリアの上に覆いかぶさるように倒れこみながら勢いよく搭乗し、すぐに顔を上げて指示を出す。

 「エミー!出して!」

 その言葉を合図に、ヘリは高度を上げ始める。

 「ちっ!おい!あの弾はもうねぇのか!」

 忌々しそうにヘリを見つめながら、シュヴァルに確認を取る。

 「あれは弾切れだ!そう何発も持ってねぇよ!」

 シュヴァルは、止まることなく上がっていくヘリを見つめ、諦めたかのように大の字になって寝転がってしまう。煙草に火を付けながら、ゴドリーが近寄ってきているのが分かってはいたが、起き上がる気力も体力も無くなっていた。

 「また逃げられたな」

 「ああ。でも、痛い目には合わせてやったし、当分は近寄ってこないだろ」

 「だと、良いんだがな」

 すでにヘリは、どこかに向かって飛んで行ってしまっていた。

 煙を吐いて、寝転がっているシュヴァルを見る。

 「ところでお前、大丈夫なのか?」

 「あぁ?大丈夫そうに見えんのかよ。まぁ、昔っから体が丈夫なのが取り柄だから、平気っちゃ平気だけど。痛いもんは痛い」

 「ふん。そんだけ喋れりゃ大丈夫そうだな」

 何かポケットが震えたのでゴドリーは、携帯を取り出して、どこかと連絡を取り始めた。戦闘が終わった静けさが辺りを包み込み始めていたが、無数のけたたましいサイレンの音が近づいてきていた。シュヴァルは、はーっ、と、一息ついて、そのまま気絶するように眠ってしまった。



 その頃、ヘリの中では、安全圏まで逃げ切れた安心感の空気が漂っていた。

 「お姉様。大丈夫ですか?」

 マリアは、肩を押さえているサリアを心配そうにしながら、積んであった救急箱を取り出して、手当てをしだす。

 「掠っただけって言ったでしょ」

 「聞きましたけど。でも、女の子なんですから。怪我の跡は残らないようにしないと」

 「はいはい。もう、マリアは心配性なんだから」

 治療を終え、ちゃんと席に座り、先の戦闘の事を振り返っていた。

 「……強かったわね。あの男」

 「そうですね。シュヴァルって呼ばれてましたねあの方」

 「んんんんああああ!!なんか、思い出してきたら、自分達が逃げ帰ってるような感じに思えて、だんだん腹立ってきた!」

 「お姉様……」

 姉の怒りに苦笑で返す。

 「アメは。アメはどうだったのよ。あの警官の強さは」

 「強かったですよ。倒しきれませんでしたし。警察も、馬鹿に出来ないなと思いました」

 「むー。そう。そっちも大変だったみたいね。お疲れ様」

 「いえいえ。労いの御言葉、痛み入ります」

 補助席からぺこっと頭だけ下げた。

 「エミーもありがとね。あの時は助かったわ」

 「そんなそんな。あっ!ドローン!」

 「ドローン?」

 アメリアは、頭の中で疑問符を浮かべながらエミリーを見た。

 「お嬢様~。ドローン買って下さいドローン」

 「分かった分かった。顔見なくても分かるくらいの泣きそうな声を出すんじゃないの」

 「ありがとうございます~サリアお嬢様~」

 「私の知らないところで、一体何があったの」

 蚊帳の外に置かれているようで、少し寂しく感じる。

 「今日は大変でしたね。お姉様」

 「そうねー」

 「サリアお嬢様の気まぐれには困ったものです」

 「あんたが話持ってきたんでしょうが!」

 「最近、物覚えが悪くって」

 「ちょっと!」

 夕日の中を飛ぶヘリの中は、先ほどまで死闘を繰り広げていたとは思えないような、笑い声が出るほど、とても和やかな空気になっていたのだった。



 時は遡り、シュヴァルとゴドリーとは別行動になった三人は何をやっていたのか。

 ハウンドは、倉庫に突入して、すぐに中にいる人の数や位置や倉庫の中の物を確認した。

 (十……二十……三十……は、いやすかねぇ?物はなんもねぇのか)

 中には何もなく、無数の男達がいるだけだった。とにかく数が多いので数えるのを止めて、取り敢えず、手当たり次第にのしていこうと決めた。

 (殺しちゃ駄目ですかねー。そっちの方が楽なんだけどなー)

 そんな事を思いながら、まだ視力が回復していない集団に一気に近づき、近くの男を、ついでに何人かの仲間も巻き込むように位置を調整しながら蹴り飛ばす。同じように、三人の男達も次々と蹴り飛ばし、人数を減らしていく。

 「なにもんだてめぇ!」

 徐々に目が治りかけてきた人も出てきており、仲間を蹴り倒しているハウンドを見て怒声を浴びせる。

 「いやーすいやせん。道に迷っちまって、通るのに邪魔だったんで蹴り倒してただけでさぁ」

 「何言ってやがんだ!頭おかしいのかお前!」

 「この街で頭がおかしくない奴の方が珍しいでしょう」

 「何言っても無駄だ!殺っちまえ!」

 その声を合図に、一斉に軽機関銃を構え始めたが、それよりも早く、ハウンドは、片手に四本ずつ両手で八本の、漫画とかで忍者が使う苦無に似た武器をいつの間にか取り出しており、腕全体を前でクロスさせるような動作をしつつ苦無を男達目掛けて投擲した。

 それは、肩だったり手だったり武器だったりに当たり、男達は様々なリアクションをしている。

 「お、おい。それ」

 一人の男が、仲間の肩に刺さった苦無を指差した。持ち手の部分から細い糸に括りつけられて何かがぶら下がっているのに気付く。それは丸い形状の爆弾で他の仲間に投げられたいくつかの苦無にもぶら下がっていた、それのピンにも細い糸が付いており、辿って行くとハウンドがその糸を握っていた。

 「じゃ~ね~」

 言い終わった後に、思いっきり糸を引っ張り安全ピンを引っこ抜いた。

 「に、にげ――!!」

 言い終わらない内に、爆弾は爆発した。爆煙でよく見えなくなったが、ただでは済んでいないだろう。

 「よくよく考えたら、情報聞き出すんだったら一人だけ生かしとけゃいいし、後は別にいらねぇやな」

 抜いたピンを糸と一緒にくるくると回して遊びながら、無表情で言った。

 「さってと、生き残りはいやすかねぇ」

 ピンを捨てて、倉庫の奥に行こうとしたその時、爆煙から銃身がぬっと出てきて、ハウンドに狙いを定めて引き金が引かれる。それを、冷静に躱し、続く攻撃も全て躱す。

 「なんでぃ。誰でぃ」

 「全く、好き勝手やってくれたな」

 ぬうっっと出てきたのは、大男だった。

 「あんたはなにもんで?」

 「俺は用心棒として組織に雇われたんだ」

 用心棒と名乗った男は、ハウンドを睨みつけている。

 「へー。そうですかー」

 「お前、どこの組のもんだ?それとも、雇われたのか?」

 「だからー。道に迷っちまっただけですってー」

 「そんな嘘が通用すると思ってんのか?」

 「あんた、しつけぇですね」

 「はぁ。まぁいい。捕まえて雇い主に突き出してやる」

 ハウンドは、腰の小刀を抜き、逆手持ちをして構える。そして、男に向かって真正面から突っ込んでいった。

 「馬鹿か」

 一言吐き捨てて、銃口を向けて引き金を引いた。しかし、小刀を振りキンと言う甲高い音と共に弾丸を弾いた。

 目の前で起こった事が信じられないと言った表情を浮かべながらも、すぐに気を取り直して引き金を引き続けた。だが、ことごとく弾かれるか躱されて、ついには弾切れを起こしてしまった。

 「うっ!?」

 急いで再装填しようとするが、ハウンドがその隙を見逃すはずが無く、男の横を通り過ぎると同時に首を切り裂いた。血を吹き出す首を押さえながら男は前のめりに倒れやがて絶命した。その様子を、普段から表情だけでは感情を読みづらいハウンドだが、その時だけは、どう思っているのか分かるくらいとても冷たい目で見下ろしていた。

 小刀に付いた血を振り落とし鞘に戻して、自分が倉庫に入ってきた方とは別の出入り口から外に出た。

 「ん~、どうすっかなぁ」

 外にはタイヤ痕が残っていたのだが、何時付いたものなのかが分からないので、どうしようか迷っていた。

 「まっ、街に帰ったでしょうし、俺も追いかけるついでに帰るか。だんな達は……いっか」

 とても吞気にどうするかを決めて、小走りで街に帰って行った。



 レイシズとルスパーは、支持を受けてから走り続けていた。組織の連中がどこにいるかまだ分からなかったので、倉庫群の近くに車両を止めていたので戻るのに時間が掛かっていた。

 「はぁはぁ。こうなるんだったら、車に乗りながら回っても良かったっすよね」

 「はぁはぁ。結果論を言うな。黙って走れ」

 どれだけ走ったのか、やっとの思いで車両を止めた場所まで戻ってきた。急いで車両に乗り、エンジンを掛ける。

 「はぁ……今更追いかけても、もう遅くないっすか」

 「それでも、追いかけるんだよ」

 車両は街に向かって発進した。しばらく車両を走らせていると、人だかりが出来ている横道があった。

 「何だ?」

 「事件かなんかがあったんすかね」

 路肩に車両を止めて降り、人だかりを分けて通りながら、状況を確認した。

 「こ、これは一体……?」

 「うわぁ。派手にやられてるっすねぇ」

 二人が見た光景は、酷い物だった。車が三台あるのだが、その全ての運転席が撃ち抜かれて運転手が死んでおり、壁に激突して車両から煙が吹いていたり、タイヤがパンクしていたり、外に出てきている男達も、壁にもたれかかっていたり床に倒れていたり一部は死んでいるようにも見える。

 安否を確認しようと近くに倒れている男に近寄って行くレイシズ。すると

 「ん?こいつ……」

 「先輩、どうしたっすか」

 ルスパーも近づいてきて男の顔を見る。

 「誰っすか?知り合いっすか?」

 「お前……今日、俺達が取り押さえようとしてた奴だよ」

 「まじっすか」

 レイシズは、倒れている男達を次々と確認していく。

 「間違いない。俺達が追ってたあそこから逃げた奴らだろうな」

 「はえー。何でこんなことになってるんっすかね」

 「知らんが、とにかく、聞き込みと、救急車を呼んでくれ」

 「うぃっす」

 ルスパーは、携帯を取り出して救急に連絡をしつつ人だかりの方へ歩いて行く。

 (密輸品の確認もしとかないといけないが、その前に連絡をしとこう)

 車両に近付きながら、レイシズは携帯を取り出しゴドリーに連絡を取った。

 「ゴドリーさん。逃げた奴らに追いつきました。ただ――」

 「すでに誰かにやられた後だったって言いたいんだろ」

 「えっ?」

 まるでどこかで見ているように言い当てられて、驚いてしまう。

 「その通りです。酷い有様ですよ」

 「そうか、実はな――」



 倉庫群から逃げた車両は、自分達のアジトに向かって爆走していた。

 「追ってはこれてねぇみたいだな」

 「くそ!まさか、サツにばれてたなんて!」

 「一旦身を隠してほとぼりを冷まさねぇとな」

 「でも、取引は無事に済んだんだ。後は奴らに仕掛けるタイミングだけだな」

 車両の一台の中で、そんな会話が交わされていた。

 「ん?何だ?」

 あと少しで大きな道路に出そうな所で、道のど真ん中に立っている人影が現れた。

 「おい!どうする!」

 「構わねぇ!轢き殺せ!」

 速度を下げる事も無く、人影に向かって全速力で突っ込んでいく。

 それを、怖がることも逃げようともせずに突っ立っている人影は、おもむろに拳銃を取り出し一発撃った。真っ直ぐ先頭車両の運転席に飛んでいき、ガラスを突き破り運転手の額を撃ち抜いた。

 「ひいっ!?」

 助手席に座っていた男は、突如隣で起こった出来事に恐怖した。そして、運転手を失った車両は速度を落とすことなくふらふらと蛇行した後に壁に激突して止まった。

 突然目の前で事故を起こした車両に対応出来る訳も無く、後続車も次々と事故を起こす。

 「な、なんなんだ一体……」

 幸い、他の搭乗者達に怪我人が出る事は無かった。が、二台目の車両の運転手が事故の衝撃で下に向けていた顔を上げた瞬間、先ほどのように額を撃たれて死んでしまった。

 三台目の運転手は、いち早く顔を上げており、恐怖を感じいち早く車両を動かし逃亡を図ろうとしたが既に遅く、他の運転手と同じ末路を辿る。

 「襲撃か!?応戦するぞ!」

 各々扉を開け、身を低くし警戒しながら降りてくる男達の背後から突然声が掛かる。

 「こんな奴らを取り逃すって、俺の部下共は何やってんだ」

 振り向いた時には、既に頭を撃ち抜かれていた。

 「くっそぉ!」

 声のした方へ手にしている武器の銃口を向けるのだが、結果は同じだった。頭を撃ち抜かれるか武力によって次々と無力化されていく。

 「ったく、俺が楽に過ごせる日は、一体何時になったらくるんだ」

 煙草を吹かしてぼやくその人物は、ドンであった。倒した男達には目もくれず、一台の車両に向かって歩いて行く。それの後部座席に、縮こまって震えている小太りの男が居た。

 「おい」

 「ひいっ!?」

 ドンに声を掛けられた小太りの男は、ドンから遠ざかる様に後ずさりをして、そのまま落ちるようにして車両から出てきた。

 「ちっ。めんどくせぇな」

 ゆっくりと車両を回って行き、小太りの男を見下ろすようにしながら目の前で立ち止まる。

 「正直がっかりだ。俺達に喧嘩売ろうとしてる奴らがいるってんで、期待してたんだがな」

 煙を吐き煙草をその場に捨てて踏みつける。

 「お、お前らは調子に乗りすぎなんだよ!目障りなんだ!だから俺達が正してやろうとしてやったんだ!警察だからってでかい面すんなってな!」

 ドンは、小太りの男の主張を新しい煙草に火を付けながら黙って聞いていた。

 「それにお前ら、どっかの組織に肩入れしてるって噂だぞ!警察がそんな事していいのか!あぁ!」

 煙を一吐きして

 「終わったのか?」

 「え?」

 「お前の主張は終わったのかって聞いてんだよ」

 「……」

 「はぁ。お前のくっそくだらねぇガキの主張を叶えようとか、お前に付き合ったやつらは報われねぇなぁ」

 「な、なんだと!」

 「これが組織のトップとか、こいつらも気の毒になぁ」

 自分が倒した小太りの男の部下達を見渡して、哀れみの表情を浮かべる。

 「お、お前えええぇぇぇ!!」

 その態度に逆上した小太りの男は、拳銃を取り出して構えようとするが、それよりも早くドンは男の頭に狙いを付けて発砲していた。

 「はぁ。くっだらねぇ仕事増やしやがって」

 悪態をつきながら武器を仕舞い、携帯を取り出してどこかに電話を掛ける。

 「ボス。どうしましたか」

 どうやら、相手はゴドリーのようだ。

 「ゴド。お前らは一体なにやってやがんだ?」

 「はい。申し訳ありません」

 何を言われているのか分かったのか、すぐに謝罪の言葉を述べた。

 「そっちで何があった」

 「はい。第三者に邪魔をされまして」

 「はっ。それでターゲットを逃がしたのか?世話ねぇな」

 「申し訳ありません」

 「まぁいい。逃げた奴を追いかけてる奴はいるんだろうな?」

 「はい。レイシズとルスパーを行かせました」

 「そいつらから連絡が来たら伝えておけ。もう終わらしといたってな。」

 「ボスがですか?」

 「ああ」

 「お手を煩わせて申し訳ありません」

 「謝罪なんかいらん。俺に尻拭いされないように、もっと強くなれ。そして、俺に楽をさせろ」

 「はい。精進します」

 その言葉を聞いてから、連絡を絶つ。ふー、と、煙を吐いて、自分で作った惨状を見た。

 「はー。ほんとにくだんねぇ仕事だ」

 一言吐き捨てて、大通りではなく横道の奥へと消えて行った。



 「――と言う訳だ。それはボスがやった事だから、後処理を頼む」

 「分かりました。やっておきます」

 電話を切り、自分の上司が作った惨状を見渡して、ごくりと唾を飲み込んだ。

 「これを一人で……全く、恐ろしい人だな」

 緊張感を持って事に当たろうとした矢先、緊張感の無い声がレイシズを呼んだ。

 「せんぱ~い」

 振り返ると、ルスパーが手を振りながら近付いてきていた

 「……なんだ。どうした」

 「聞き込みしたんっすけど、誰も見てないって言ってるっす」

 「そうか。でも、それはもういいんだ。」

 「どう言う事っすか?」

 「これはボスがやったらしい。さっき連絡を取ってゴドリーさんから聞いた」

 「ボスが?マジっすか」

 一瞬驚くが、すぐに納得したかのように何度も頷いた。

 「取り敢えず、応援を呼んでさっさとこの場を処理するぞ」

 「うっす」

 二人は、こうと決めた瞬間、テキパキと警察としての仕事をし始める。時間が少し経ってから応援が到着し、レイシズの指示の下、現場での活動が本格化していく。密輸品の確保や組織の者達の確認作業が進んでいき、この騒動は幕を閉じる事となった。



 翌日。シュヴァルが次に目を覚ました場所は、どこかのベットの上だった。カーテンで区切られており、何度か来た事も合ったため、すぐにどこかを把握した。

 「……病院か」

 安心をして、二度寝でもしようかと考えた矢先、カーテンを開けて入ってきたのはハウンドだった。

 「おっ、だんな。目ぇ覚めたんですかい」

 「ん。ああ。なんとかな」

 ハウンドは、近くにあった小さな椅子を引き寄せて、ベットの近くに置き、それに座った。

 「いやー。俺が殺す前に死んじまっちゃたんじゃないかって心配してたんですぜ」

 「なんでお前に殺されなきゃならねぇんだよ。心配もしてねぇだろ」

 はぁ、と、溜息を付いて、すぐに真剣な顔つきになって質問をした。

 「で、あの組織はどうなった?」

 「頭が死んで、組織の奴らも生き残りはいれど、あの感じじゃいないのと同然って感じ何で、実質の消滅でさ。どうやら、逃げた奴らを殺ったのがドンらしいんですよ」

 「ドンが……まぁ。納得だわな」

 「それと、密輸品もちゃんと押収されて、この騒動は、一件落着したみたいでさ」

 「そうか」

 頭の上で手を組むシュヴァル。

 「とっつぁん達はどうした」

 「あー。一応警察に顔出しときやしたけど今回の事で忙しそうにしてやした。それと『死にかけの奴を見舞いに行くくらいなら自分達の仕事をやる』とか言って、追い出されちまいやしたし」

 「まー。そういう感じになるだろうなとは思ったけど」

 ハウンドは立ち上がり、椅子を元の位置に戻す。

 「まっ、この機会にゆっくり怪我を治してくだせぇ。俺も休日を満喫しやすんで。何でも屋は毎日が休日ですけど」

 「お前は余計なこと言い過ぎなんだよ」

 手を小さく振ってハウンドは病室を出て行った。

 「ったく」

 ベットの上で会話相手もいなくなったシュヴァルは

 「……寝るか」

 特に何かやる事も思いつかなかったので、二度寝をする事にした。



 一方、今回の騒動の一端を担っているパンプキン家はと言うと、朝食を取り終わってデザートを食べている最中だった。

 「結局、あいつらはあそこで何をしようとしてたのかしら」

 食事の席の話題は、昨日の事のようである。

 「さぁ?アメリアさんなら調べが付いてるんじゃないでしょうか」

 その時、アメリアがワゴンを押しながら食卓に現れた。

 「丁度良かったわ。アメ、昨日の事調べたりした?」

 ワゴンを止めて、質問に答えた。

 「はい。どこか大きな組織が、警察に対して喧嘩を売ろうとして準備をしていたところを、逆に狩られてしまったみたいですね」

 「ふーん。そいつらも間抜けねー。潰されたって事は情報が洩れてたって事でしょ?」

 「対処されたので、多分そうかと」

 「やっぱり。間抜けねー」

 「お姉様。私達も危なかったんですから、あまり人の事を悪く言う権利はありませんよ」

 「むっ……むー……」

 妹にたしなめられ、口をとがらせてばつの悪そうな顔をするサリア。

 「でもお姉様は、そんな人達とは違ってちゃんと失敗を次に生かせる人だって、私は信じていますよ」

 すかさずフォローを入れて姉のご機嫌を取りにいく。

 「そ、そうよね!当然だわ!なんてったってこの私ですものね!おーほっほっほっほっ!」

 席から立ち上がり高笑いをし始めるサリアを、満面の笑みを浮かべて見つめるマリア。

 「……マリアお嬢様。あまりサリアお嬢様を甘やかし過ぎない方が宜しいのではないですか?」

 「えっ?何の事ですか?」

 何を言っているのか分からないといった表情でアメリアを見る。

 「……無意識なのですね……この姉にしてこの妹ありですか……はぁ」

 自分の主がこんなんで本当に大丈夫なのかと、片手で頭を抱えて本気で悩むアメリアだった。

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