第7話

「まさかお前ら、同伴出勤!!」

座長の言葉に

「座長!言い方!!」

と叫ぶと

「座長、手は出してません」

鈴代が真顔で言ので、座長は圧倒されたのか

「お……おう!」

と、頷いただけで終わった。

普通に稽古をしていたのだが、鈴代が……保護者になってしまった。

劇団員ともなると、中にキャミソールを着ていたら普通に着替えが男子の前だろうと出来てしまうのだけど

「沙耶さん……、中で着替えて来て下さい!」

って、掃除用具入れの中に突っ込まれる。

「沙耶さん、映画のチケット貰ったんですけど行きませんか?」

後輩の男の子に言われた瞬間

「芝居が終わるまでは、俺の相方なので変なちょっかい止めてもらえますか?」

と、シャットアウト。

座長が飲みに誘おうものなら

「沙耶さん?約束、忘れたんですか?」

そう言って、邪魔するのだ。

そんなある日の事だった。

父親が倒れて、稽古に遅刻する事になってしまった。

その日は土曜日で、朝から稽古をしている。

私が走って稽古場に行くと、丁度休憩時間になった所だった。

座長には、みんなに変な心配を掛けたくないから黙っていてくれとお願いしていたのだが、どうやら話してしまったらしい。

共演者達から、心配して声を掛けられた。

……鈴代を除いて。

遅刻しているから怒っているんだと思っていると

「沙耶さん、ちょっと良いですか?」

って呼び出された。

稽古場に使っている地域センターの裏に連れて行かれ

「お父さんの事、聞きました」

そう言われて

「役者になったのなら、家族の死に目に逢えないつもりで稽古しろ!」

って言われるんだと思ってた。

「ごめんね、稽古に遅刻したから練習出来なくて、迷惑かけたよね」

と頭を下げた瞬間

「違うでしょう!何で俺に連絡をくれなかったんですか?俺、今はあなたの相手役ですよね?」

そう叫ばれた。

「え?」

「俺はこの芝居が終わるまで、言わば沙耶さんの恋人なんです。たとえ芝居の中だとしても、俺はあなたの相方なんです!その俺が、あなたが一番辛い時に何もしてあげられないなんて……」

真剣にそう怒る鈴代の気持ちが嬉しかった。

「ありがとう」

小さく笑ってお礼を言うと、鈴代は私の両手をそっと握り締め

「なんでも一人で抱えないで下さい。せめて、この芝居が終わるまでは、あなたの背負っている荷物の半分を、俺に背負わせてください」

と、真っ直ぐに見つめて言われたのだ。

溢れそうになる涙を堪えていると

「もう、座長から聞かされるのは嫌です。年下で頼りないかもしれないけど、もっと俺を頼って下さい」

私の手を、強く強く握り締める鈴代の手が、小さく震えていた。

「分かった。残り1ヶ月、よろしくね!相方」

私は精一杯の強がりで、そう言って微笑んだ。

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かりそめの恋だとしても 青空 @Aozora_6

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