彼氏の出来た私を取り戻したい親友の女の子と二度目の約束を交わす話

ゆいとき

彼氏の出来た私を取り戻したい親友の女の子と二度目の約束を交わす話


「ちょ、ちょっと待って沙耶ちゃん! 一回落ち着いて!」

「落ち着ける訳ないでしょ!? そんな話を聞かされて、黙ってるなんて出来る訳ないじゃない!」

「そんな……私は沙耶ちゃんだから最初に教えようと思って……なのにこんな仕打ちって……」

「仕打ちね……そんなの、私が受けた痛みに比べたら大したことないでしょ」

「何言って……ってちょ、待って! それ以上近づかないで! ってんんっ!」


 私の声は届いている筈なのに、私のファーストキスは目の前の親友にいともたやすく奪われてしまう。


「ふぁぁ……ちょ、っとまって……ふっ、んっ……んんっ!」


 何かを口に出す暇も与えられず、親友から与えられる初めての行為と感触を嫌でも思い知らされながら、次第に与えられる初めての刺激から逃れる術は存在しない。彼女も初めてなのか、ただとにかく必死に貪るように行われるこのキスという行為は、私は勿論彼女も初めてである事がその拙さから分かるが。私にとってはそれだけで気分を高揚とするには十分すぎるものだった。



 ただの報告のつもりだった。幼馴染の宮園みやぞの 沙耶さやちゃん。彼女と私は紛れも無く親友で、誰かに話しにくい内容や、困ったことがあるとお互いに話して支え合ってきた大切な存在。

 今日もいつもの日常と変わらぬまま、その一日を彼女と過ごし終えるものだと思われていたが、今日は少し状況が違っていた。

 放課後、沙耶ちゃんが珍しく用事があるという事で職員室に出ている間に、私は自分が所属する図書委員の手伝いに勤しんでいた。誰も利用していない図書室にいるのは私と同じ同学年の男の子の二人だけ。彼とは本の事で話す事が多く、同じ当番になった日には、利用者のいない図書室でお互いの読んだ本について話す事が多かった。

 あくまで友達。それ以上の感情は無く、それは彼も同じだと思っていたがそれは的を外れていたらしい。

 手伝いも終わり、沙耶ちゃんが待っているであろう自分の教室に戻ろうと、彼に一言挨拶をしてから出ていこうと思ったのだが、そのタイミングで呼び止められてしまったのだ。

 そしてその瞬間はなんの前触れも無く、唐突に愛の告白を告げられた。

 ずっと前から好きでしたと言われて一切ときめかなかったといえば嘘になる。初めての告白に誰もいない静かな場所での告白は、突然の出来事による動揺も相まって私の胸の動悸は治まらないでいた。

 何も言えずにいると、断られると思われたのかお試し期間の交際を提案された。いきなり告白されても困るのは当然だから、とりあえず付き合ってみてそれから実際どうだったかを体験してから最終的に交際を続けるかを決めるというもの。

 それは流石に不誠実に感じられて、提案しているとはいえ彼にも申し訳が無いと言ったのだが、それこそ自分から提案しているのだから構わないと言われてしまっては断る理由が思いつかなかった。


 彼と恋人として接している姿は想像が出来ないものだったが、彼とは趣味も合うし、少なくとも関係が前に進んで悪い事は無いと楽観的に考え、これから彼と過ごす恋人としての時間に胸をほのかにときめかせながら無人の教室で待たせてしまっている沙耶ちゃんを迎えに向かった。


 そして教室で合流し、家へと続く並木道を歩きながら、先程の事を鮮明に覚えている間に彼女へと教えておこうと考えた私は、告白されたテンションのまま彼女へと伝えてしまった。その興奮のあまり、彼女の顔がどんどん虚ろいでいる事にすら気が付けなかったのだ。

 そこから沙耶ちゃんに家に誘われ、祝ってくれるのかなとか随分と呑気な事を考えていた私の思考は、沙耶ちゃんの部屋でベッドに促されて、座った瞬間彼女の無言の圧に押されながら微力な抵抗もむなしく、彼氏が出来たばかりにもかかわらずに親友の女の子との不貞行為に至ってしまっている。


 どれだけの時間が過ぎたか、そんな事を考える余裕も無かった。気を持ち直した時には、既に彼女は私の肩に手を添えたまま今まで見たことの無い恍惚とした表情で私の顔を見ているだけだった。それでも尚近い距離感に彼女から発せられる荒い息遣いや表情から、先程の重なった唇の感触を嫌でも思い出させられた。

 そこでやっと夢から覚めたような気分で彼女の手を振りほどき数歩後ろに後ずさる。後ろには壁があり、この場から離れるべきだと理解していても初めての感覚に足が追い付いていけず上手く動かす事が出来なかった。

 そんな私を笑うように、目の前の親友だったはずの存在はまだ足りないというように近づいてくる。無力にも動けない私に拒否権は存在しなかった。



「なんで……沙耶ちゃん……」

「……なんでここまでして分からないの? これから毎日キスしていればその鈍い頭でも理解できるのかしら?」

「これから毎日って……沙耶ちゃん話聞いてた!? 私彼氏できたって言ったよね!?」

「えぇ言ったわね。幻聴と思いたかったけど、その反応的に本当見たいだし」

「だったら……」

「でも、だから? 私には関係ない」

「なっ……!」


 沙耶ちゃんはどちらかと言うと、他人の幸福を心から喜んで祝福してくれるような人だ。私が初めてテストで満点が取れたと報告したら自分の事のように一緒に喜んでくれた。昔はまだしも、今の彼女は些細な事から大きな出来事にまで自分の身内に良い事があったら妬みもせずにおめでとうと言える人だった。

 だから今回もこれまでの例に漏れずに祝福してくれると思っていた。そんな勝手な彼女の理想を自分の中で作り上げていただけだったのかもしれない。そんな私の理想像を知らんと一蹴するかのように、彼女の印象は全く別の姿に形を変えてしまっていた。


「言っとくけど、華奈かなの方だから。約束してたのに……」

「裏切った……? 約束……? 何の話を──」

「その約束を覚えていないこと自体が裏切りだって言ってるのよ!!」

「ひっ!」


 ビクッと肩が跳ねるように震える。沙耶ちゃんも怒るときは怒るけれど、感情を爆発させて一気に追い詰めるのでは無く、その怒りを細かく刻み長い時間をかけて静かに窘めるタイプだった。終始本気で怒っている雰囲気を出すことも無く、しかしその発せられる言葉の辛辣さがしっかりと怒ってるんだと教えてくれるような怒り方。

 とても同年代の人間に対して行うような説教の仕方では無かったために、馬鹿にされているような気がして一言物申したくても、その原因が自分にあると分かっているから余計な言葉を発することが出来ないと精神的に傷がついて嫌なものだったが、今の感情をぶつけられた今なら今までの方がマシだったと実感する。


「……ごめんなさい、取り乱したわ。とにかくそう言う事よ、華奈は昔の約束事を忘れている。だからそんな男の告白なんて受けたりそれを私に報告したりなんて何も面白くない事をやってのけているのよ。そんな哀れな華奈の目を覚まさせてあげる」

「だったら、その約束ってのを教えてよ! そんな本当にしたかも分からない話を信じるなんて無理だよ!」

「それは教えられない。私が教えるのは簡単だけど、それは自分で思い出す事に意味があるんだから当然でしょ?」

「そんな……」


 沙耶ちゃんの怒っている理由の一つに過去の私との約束が大きく関わっているのは話から伝わる。そしてその約束事のせいで、こうして私のファーストキスは奪われた挙句に咎められている。

過去に彼女と交わした約束でと言うのは多くは無い。常に一緒に行動していたためか、大事な話も基本その日に話し話される決まりだった。

 しいて言うなら、「これからもずっと二人、いつも一緒」みたいな約束を彼女の口から聞いた時、私も当時仲の良かった友達は沙耶ちゃんだけで、その仲が成長していく過程で途切れる事は無いと確信を持っていたため、二つ返事で「勿論! 私達はいつも一緒ね!」と返した事位だろう。

だがそれはあくまで友達、親友、幼馴染の関係としての話だ。その関係は今でも守られているし、私にも他の友達は出来てしまってはいるが、それでも一番の親友の名前を出すとしたら間違いなく沙耶ちゃんの他に思いつく名前は存在しない。

 そしてその私の関係図に彼氏と言う枠が一つ増えただけ、それが彼女にとっての裏切りだというのだったら、彼女は私の友達に対しても良い思いを抱くことは無かったはずだ。友達は良くても恋人は駄目だという事なのだろうか。正直、今の彼女の思考を読み取る事も理解することも、今の私では不可能だった。


「もしその約束がずっと一緒っていう話なら、それなら裏切ってる事にはならないよ! 恋人が出来たって私が沙耶ちゃんから離れるなんて有り得ないよ、大事な親友だから!」

「へぇ、ちゃんと覚えてたのね。思い出したが正解なのかしら? 実際はちょっと違うけど……でも今更よ、私だってもう後には引けない」

「今なら間に合うよ……こんな事いきなりされて驚いたけど……お願いだからいつもの沙耶ちゃんに戻ってよ……」

「私はいつも通りよ、変わったのは華奈の方。高校に入ってから随分と変わったよね? 前は友達なんて私だけで十分って感じだったのに今となっては私以外の人と沢山交流を持っているし、委員会だって入るような人じゃなかった。積極的な性格になっているのは良い事なのだろうけど、私にとって変わっていく華奈を見ていくのは耐えられるものじゃなかった。そして今日は恋人まで作って……流石に我慢の限界よ」

「それは、だってこのままじゃいけないって思ってたからで……」

「私にとって、華奈は今までのままが一番だった。見た目も中身も変わってないのに考え方だけが変わってしまった。まさか考え方ひとつ変わるだけでここまでになるとは思ってもいなかったけれど」

「だからって、ここまでする必要は無いでしょ!」

「あるわ。それにこれは、私の華奈に対する一種の復讐みたいなものなんだから」


 そう言って、ベッドにある彼女の近くに置いてあった携帯を手に取ったかと思えば、慣れた手つきで操作して映し出した画面を見せつけてくる。謎の行動に困惑することしかできないでいたが、見せられた画面に視線を向けると困惑する余裕も無くなり、私に出来たことはただただ嘆く事だけだった。


 有り得ない、さっきまで満足に呼吸をすることも忘れてお互い貪り貪られていた。そこに自意識なんて存在せず、時間なんて気にする暇も無い程欲に塗れていた。それは沙耶ちゃんも同じはずで、確かに私の最中に見た最後の彼女の表情に余裕なんて無かった。だからそんな、沙耶ちゃんがいつも使用している携帯の画面に映し出されているほんの数秒程度の動画にいる、私に似た横顔と体つきの少女がその欲に溺れて愉悦に浸りきっている姿の映った映像。そんな現実が有り得る訳が無い。あってはいけない。


「なん、で? それ、だって、有り得ないよそんなの、そんな余裕無かったはず……」

「お互い初めてのキスだったものね、私も自分から仕掛けたのに目的も忘れてしまう所だった。でも、想像以上に華奈の耐性が低くて助かった。おかげで簡単にこんなお宝映像が撮れたんだから」

「なんで……そんなの、何に使うの……?」

「さっきも言ったけど、これは復讐なの。私との約束も忘れて他の人と友達になったり恋人になったり、高校生活の半分よ? 大体にして一年半もの間に私達の時間は半減してしまったの」

「復讐復讐って……私はちゃんと沙耶ちゃんを疎かにしてたつもりは無いよ! それに友達とか恋人とか、私が作るのに沙耶ちゃんの許可が必要なの!?」

「許可も何も、友達も恋人も私だけいればそれでいいでしょ? それこそ約束なのだから」

「約束……」


 もう頭が追い付いて行かない。約束に対しての捉え方が私と沙耶ちゃんで違っているのだろう。だから私は何も裏切っていないと思っていても、彼女からは裏切られたと感じてしまている。沙耶ちゃんはこれを復讐と言っている。動画を撮っている以上こうして私を咎めるだけで終わる訳が無かった。何を言っても聞き入れてくれない沙耶ちゃんを見て、少なくともこの時点で私に抵抗心や逆らう気力は完全に消え失せてしまっていた。


「とりあえず、華奈はこれから毎日私とキスする事。キスするのは華奈からしてきてね、その日ならいつどのタイミングでも構わないわ。そしてこの際他の友人関係を断てとは私からは言わない。でも私が誘ったら何よりも優先する事。流石に家の方で事情があったら強要は出来ないから、これはあくまで学校での関係者にのみ適用するわ」

「……逆らったらどうなるの」

「さっきの動画、多少のブレはあるけど当事者が華奈って事は分かるのよね。そして華奈の横顔越しに映った背景の部屋は明らかに男子が使うとも思えない女子らしい部屋、でも華奈の友達で部屋に入ったこともある人はここが華奈の部屋では無いと分かってしまう。だから──」

「だから私が自分では無い女子の部屋で顔も見えない女性とキスしてるのを友達に見られたくなければ逆らうなって事?」

「えぇ、随分と聞き分けが良くなっててやりにくいけれど、言ってしまえばそう言う事よ。正確に言えば友達と、今日出来たばかりの大事な彼氏さんにだけれどね」

「…………」

「私には今でも華奈しかいないし華奈しか要らない。それだけ私は華奈の事を愛してるの。この復讐は華奈が嫌いだからするんじゃなくて、今の華奈の目を覚まさせるのが目的だから、そこだけは分かっておいて」


 愛していると言われて一瞬でも嬉しいと感じてしまった自分が憎らしい。彼女は今の私がこうして喪失感や罪悪感やらごっちゃになってしまった原因を作った元凶だというのに。


「もう今日は帰る。疲れちゃった」

「……華奈」

「……なに?」

「今度こそ、約束守ってね」

「…………」


 その言葉に返事はせず、そのまま家を後にする。どうやって歩いているのかも分からない、ふわふわとした感覚のまま帰りの道をとぼとぼと歩いている。さっきまで感じていたキスによる慣れない刺激の影響による足の震えも無くなっているという、今更な考えを志向に捉える程度に今日の出来事は劇的なものだった。

 沙耶ちゃんは私が大事で、友達の役割も恋人の役割も、全部に自分だけがいればいいと考えているようだった。自分自身以外の人間関係を要らない存在だと認識している程に重い感情を向けられている事に今まで気が付けなかった私の責任は大きいのだろう。

付き合いたての彼と別れて、友人関係も一切遮断して、沙耶ちゃんだけに目を向けれるのが一番楽なのだろうが、それは私自身が許せない。友達は勿論、お試しとは言え彼とのこれからの時間を楽しみにしていた自分がいる事は事実だ。それに、付き合う事を決めてすぐにやっぱり無理だと伝える事が私には出来そうも無かった。


 私にとっても沙耶ちゃんは大切な存在で、かけがえのない大好きな人。向ける想いは違えど、私から彼女との関係を切る事はこれから先も無いし考えられない。だがこんな事をした相手と言う意味でもされた相手と言う意味でも、もう彼女の事を親友と言う括りで見る事を拒否している自分もいる。でも彼女を失いたくない。そんな両極端な想いを抱いてしまった彼女を、まだ親友と呼ぶことが許されるのか、今の私達の関係の名前は何なのか、沢山の人を裏切りながら、これからの日常を当たり前に生きる事への罪悪感から、何をどう対処して生きていけばいいのか私にはもう分からない。確かな事は、色々な感情を抱えたまま、いざと言う時に頼れる存在は沙耶ちゃんだけなのだろうという事実と、確実な彼女への依存に繋がる道筋だった。







 私には華奈だけで、華奈にも私しかいない。そう思っていた。

 小さい頃から恵まれた容姿のせいで得をしたことは一度も無く、興味も無い男子からはちょっかいをかけられ女子からは妬まれて、苛めとも言いにくいようなこまごました嫌がらせを続けられて、外面は平静を装っていたとしても精神を蝕む憂鬱な気持ちに唇を噛み耐えるしかなかった私を守ってくれた。そんな藤崎ふじさき 華奈かなは私にとってのヒーローで、救世主そのものだった。

 男子からのちょっかいから守るためにいつも一緒にいてくれたり、女子からの嫌がらせを指摘して注意をしたり、私の身代わりになった時もあった。

 そんな状況に申し訳なさを感じつつも、彼女から離れる事も出来ずに依存していた。そんな日から暫くすると、私への嫌がらせが、段々と華奈に向けられることが増えた。

 それでも華奈はめげずに、それどころか私の心配ばかりで自分の事を話題にあげる事は無かった。

 そんな彼女に対しての感情が強くならない訳も無く、いつも自分を守ってくれる華奈に対して同性同士だと理解したうえでの恋愛感情を抱いている事を自覚したのは早かったと思う。

 だから私は彼女と約束したのだ。「私達はいつも一緒、これから先何があっても、二人で一緒に乗り越えていこう」と。いくら私が華奈を好きでも、彼女がいつか疲れ果てるか、純粋に私から突拍子も無く離れてしまう可能性もその時点ではあると考えていた。

小学生高学年にしての発言では無いと重い自覚はありながらも放った言葉に、華奈自身も満面の笑みで肯定してくれた。この時点で私達の周りに人はいなかったし、何をしても何のアクションもしてこない私達がつまらなくなったのか、女の子たちからの嫌がらせも次第になくなっていた。

 そんな事があって私は華奈に全信頼を置くようになり、私も華奈からの信頼は厚かったと思う。


 それから数年後の高校に入学してから、華奈は変わってしまったのだ。優しい所も見た目も性格も、喋り方は変わらずに、私達だけの交友関係を変えるように彼女は友達を作っていた。

 私以外の友人を作った事に若干の裏切りを感じながら、私達の時間は減ってしまってはいたがその仲が変わる事は無く一緒に過ごす時間は取れているからとまだ許せていた。

 

 だが今日は違った。恋人を作ったと言われたときにはもう彼女への好意は変わらずに怒りと憎悪が募っていた。彼女は変わってしまった。だから私が目を覚まさせてあげなければいけない。それが昔約束を交わした、私にだけ許されたミッションであると判断した私は、家に誘い無理にでもキスを交わし、その姿を動画にして私に逆らえないように誘導するという計画をものの短時間で考えついたのだ。

 ファーストキスも奪われ何より親友だと思っていた私にこんな事をされたと裏切れらた気分を感じたのか、彼女は怒りも隠さず憤慨していたが喚いても私の考えが変わる訳では無い。何より裏切ったのは彼女の方なのだ。思っていたよりなんの不安も感じる事なく彼女を脅し、計画通りに進める事に成功した。

 華奈はこれから、私との事をこれまで以上に考えるようになるはずだ。それこそ昔の様に私だけを見てくれるようになる。そして私との新しい約束もきちんと守るはずだ。脅されているというのもあるが、華奈は別に私を嫌いな訳では無い。今回の事で嫌いになっていたとも、今更私と言う存在を手放す事なんて不可能だろう。

 だから華奈は必ず今度の約束は守るだろうと確信している。その上で、出来たばかりの彼氏を裏切り、私優先に考える事で友達との付き合いも悪くなる。そしていずれはその先で綻びが生まれるのが目に見えている。

 私から友人関係を断てとは言わない。勝手に壊れて私に依存しろ。そうすることで、最終的に華奈は私しか見れないようになるはずだ

 それこそが私の復讐であり、彼女の真に大事にするべき相手をしっかりと刻み思い出させて目を覚まさせる。今度は私が華奈にとっての救世主になる番だ。


「大好きよ。この世で唯一。絶対に離さないから」


 私の目的はただ一つ。彼女の友達も恋人も、関係を全部ぶち壊して私と二人きりの日常が当たり前だった頃に戻る事。

 それが達成できるなら、彼女の心もその友人関係も恋人なんて立場にいる邪魔な存在も全て排除する。

 私達の明るい未来を想像して、華奈との初めての行為を残した動画を眺めながら一人微笑んだ。

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