最終話 白紙と色の世界
「……、ここまでずれるものですか……?」
「だって星の欠片でしょ?
星の感覚とアタシたちの感覚が同じだと思うの? シャロン」
「…………なるほど」
ここは納得しておこう、と言ったように頷くシャロンである。
「全てを信じたりはしませんが、リオは博識ですし、そういう分野を興味津々に調べていた姿を何度も見ていますからね……、まったくの見当違いでもないのでしょうね」
「当たらずとも遠からず、じゃないかしら」
自信はないが、これまで知った文献などの情報を読み取れば、そう解釈できるというだけの話である……、多分に、リオの推測も混ざってはいるのだが。
「私の筆ペンがどこにあるのか知っていますか? アカネに保護を頼んでいましたが、こんな状況でまだ丁寧に保護されたまま、とは思いませんからね……」
「マユサかな?」
「マユサ?」
「覚えてる? ユイカの弟くん……ユサの――たぶん、子孫の子なんだけど」
赤と青の拳が見え、分かりやすい目印になってくれていたおかげで、迷わずにその場に向かうことができた。
騒ぎの中心地点には力を持つ者がいるはずだ……、であればやはり、こんな世界でも生き残れるのは、確かな実力者である――『スターズ』の四人である。
色がなく、道具もなかった無色で破滅の世界では、モノクラウンたちに苦戦したが、色が付与され道具が散乱していれば、その実力を遺憾なく発揮することができる――。
発揮できれば、モノクラウン相手でも一方的な蹂躙を許すことはなかった。
「シャロン!? こんなに早く起きたのか!?」
「ええ。リオに叩き起こされたようなものだけど……」
「アタシではなく、モノクラウンなんだけど」
「――うわっ、シャロンもちょっと老けてる!」
「……相変わらずですね、ユイカは……。
でも、その能天気な感じがほっとします」
百年前。
学園で並び立っていたスターズの四人が、長い時を経て、ここに集結する――。
「…………なんだろう、懐かしい気がする……初めて見たはずなのに……」
四人を見て――なぜか昔の四人の姿を思い出すマユサは、きっとその血が覚えているのだろう……、少しだけ視線が低かった、先祖の『彼』が、見ていた景色――。
「マユサくん」
「はい!? ……えっと、あなたが、シャロン様……」
「はい。その筆ペン、返してくれますか……、私のものなんです」
手を伸ばされ、咄嗟に引いてしまったが……、確かにこれは拾ったものである。
落とした(?)持ち主が必要だと言って求めているのであれば、いくらやっと手に入れた武器とは言え、返さないといけない……。
マユサの手から、みんなを守るための武器がなくなったとしても。
……守ると誓った気持ちが一緒に消えるわけじゃない。
困り顔のシャロンを見て、う、と心が痛んだマユサだった。
背後から、脳天に刺さったアルアミカのチョップ――。
横から脇腹をティカに小突かれる痛み……——ぎゅう、と隣からリオンに頬を強くつままれた故の『痛み』なのかもしれないが……。
「この人のものなんだから、早く返してあげなさいよ」
「そーだそーだ、シャロン様のだぞ!」
「……シャロン様の他にも強者がいるなら、マユサが戦う必要はないはずですよね?」
「それは……そうかもしれないけど……」
すると、マユサとティカの間に割って入ったのは、リオンだった。
「……マユサ、誰これ」
「あ、この子は――」
「ティカです、よろしく……、あなたはマユサの妹様?」
「っ、誰が妹よ! マユサの姉ですぅ!!」
「お姉様……? これは失礼。小さな子みたいに小柄なものでしたので」
くす、と笑うティカは、完全にリオンを見下していた。
彼女にそのつもりがなくとも、そう受け取られても仕方がない態度である。
「ッッ、はぁ!?!?」
「マユサ。新しい筆ペンは探せば見つかりますよ。星の欠片ですから、星のどこかには必ずあるはずです……、だから握り締めているその筆ペンを早く返してください」
「――ねえっ、わたしを無視して話を進めないでくれる!?」
割って入ってくるリオンの顔を手で押しのけるティカ……。
早速、喧嘩をしている二人の前で、マユサはしかし、仲裁するどころではなかった。
「…………離れない」
『え?』
「筆ペン、手から取れないんだけど……」
まるで筆ペンにしがみつかれているかのように、手から離れてくれなかった。
見せてください、と、シャロンが顔を近づけてきた。
マユサの顔と近距離で。……なんだか、甘い花の匂いがした。
「……この子、マユサくんを気に入ったみたいね」
「シャロン、さん……?」
「長い時間、封印されている間に好みが変わったのかもしれませんね……。
……はぁ、仕方ありません。ここは私が、新しい筆ペンを探す方が早いですか――」
「え、それじゃあこの筆ペンは……」
「マユサくんが手懐けてください」
どうやって……? と不安がるマユサを見かねて、シャロンが言った。
「大丈夫です、丁寧に手解きしてあげますから」
「――ちょっ、マユサの師匠は私なんだけど!」
「一応、アタシも教えられるところは教えるつもりだけど……」
「シャロンの弟子なら、あたしの教え子でもあるよな……、
アルアミカとティカと一緒に、ついでだ、鍛え直してやるか」
「――だそうです。
贅沢ですね、スターズの四人から積極的に教えてもらえるそうですよ?」
確かに贅沢なのだろう……、お願いしても、希望通りにしてくれるわけではないのだ……、だが、切羽詰まった世界での修行は、当然、だらだらとしているわけにはいかず、成長速度も求められる。マユサの身を案じて、安心安全なペースで進むとは思えなかった。
モノクラウン、モノクレードル、グレイモアが常に徘徊するこの世界で。
地底、地下、地上世界が統一された上下、そして左右に広い、国を失った世界で――。
復興させることを目的とするならば、結果は早く求められる。
四人に認められたマユサは、最も大きな期待をされていることになり――、
『大切な人を守れる力が欲しいと言ったなら――男に二言はないわよね、マユサ?』
四人の師匠に、手加減はなかった。
徹底してマユサをしごく気である……。
色のスペシャリスト――、【スターズ】でありながら。
どうやらここに、色を付ける気はないようだ。
―― 完 ――
カラフル・スターズと無色/破滅の世界 渡貫とゐち @josho
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