呼吸

#365日ショートショート 133

　暗い、暗い、海の底をさまよっていたような気がする。もちろん息はできない。どこを見渡しても一寸先は闇ばかり。今、地上ではなにが起こっているのだろう。彼は無事だろうか。彼女に問題は起きていないだろうか。私の知らないところで、世の中に何か大きな出来事が通り過ぎてはいないか。胸を圧迫され、窮屈さに耐えきれなくなった首元が、何度も何度も、絶えずSOSを発信する。早く私を地上へ引き上げてくれ。もう無理だ。耐えられない。あえぎもがくも、その祈りは空を切るばかり。どこにも届かない。どこにも行けない。ただ海の底で、ひどく広いのにひどく狭いこの空間で、外界と断絶された人間がまるで世界から取り残されたように、静かに、しかし確かに、その死を自覚するように……。ああ、でもやっと、やっとだ。引っ越して一週間、やっと工事が終わってWi-Fiが通った。