105.接触された事実

「スライグさん、ありがとうございます。あなたのおかげで、大きな手がかりが掴めました。やはり、商人の情報網とはすごいものですね……騎士団が掴めなかった情報を、こうも簡単に掴むとは……」

「いえ、これはかなり無理やりなものですから」


 マルギアスさんの称賛に対して、スライグさんは苦笑いしていた。

 確かに、彼のやり方は結構グレーなものである。本来なら秘密にしておかなければならない所を、信用と権力によってこじ開けた。それは、あまり心証がいいことではないだろう。


「……それで、皆さんに伝えておきたいことがあるのですが」

「はい、なんですか?」

「実は、調査の最中にルミーネが接触してきたんです」

「え?」


 スライグさんの発言に、私は驚いていた。彼が言っていることが、一大事だったからである。


「彼女が……スライグさんの前に現れたのですか?」

「直接僕の前に現れた訳ではありません。詳しくはわかりませんが、僕は幻覚のようなものを見せられたのです」

「幻覚……」

「人ごみに隠れて、魔法を使ったのだと思います。その幻覚の中で、彼女はこれ以上自分のことを詮索するなと言ってきました」

「大丈夫だったんですか?」

「ええ、この通り無事でした。よくわかりませんが、忠告だけに留めてくれたのです」


 ルミーネは、スライグさんを直接傷つけるようなことはしなかったようだ。

 それは、幸いである。だが、それでも彼がルミーネに目をつけられたという事実は見逃せないことだろう。


「すみません……私がルミーネの調査を頼んだせいで……」

「いえ、それは気にしないでください。このくらいのことは、覚悟の上でしたから」

「でも……」

「ルルメアさん、結果的に僕は助かって、騎士団も得られなかった情報を掴んでいるのです。それで、いいのです」

「スライグさん……」


 スライグさんは、私の目を真っ直ぐに見てそう言ってきた。

 その真剣な眼差しに、私は自分の思考が浅かったということに気づいた。

 私は、半端な覚悟で彼に頼みごとをしていたのかもしれない。それに私は、後悔と申し訳なさを覚える。スライグさんを侮っていた自分が、嫌になったのだ。


「……申し訳ありません、スライグさん。私は、あなたの覚悟を見誤っていたようですね」

「いえ、気にしないでください」


 私は、今回のことに様々な人を巻き込んでしまった。

 それには覚悟が必要だったのである。

 私は、改めてそれを実感していた。どうやら、私も認識を改めなければならないようである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る