87.訪ねて来る者

 私は、今日も与えられた屋敷で過ごしていた。

 意外なことではあるが、グーゼス様は私の前に現れない。もうこの屋敷に来てから三日が経ったが、何も起こっていないのだ。


「……どういうことなんだろう?」


 私は、部屋の中で頭を悩ませていた。

 前にグーゼス様と会った時は、次の日には彼が襲撃してきた。それなのに、今はもう三日も襲ってこない。それは、どういうことなのだろうか。


「……ルルメアさん、少しよろしいでしょうか?」

「あ、はい。なんですか?」


 そんなことを考えていると、部屋の外からマルギアスさんの声が聞こえてきた。

 彼の方から私に呼びかけてくるのは、珍しいことだ。もしかして、何かあったのだろうか。

 そう思いながら、私は部屋の戸を開けた。すると、少し焦ったような顔をしたマルギアスさんの顔が見えてくる。


「……どうしたんですか?」

「少し大変なことになっているんです。あ、といっても、別にグーゼス王子が現れたという訳ではありませんから、そこは安心してください」

「あ、はい」


 マルギアスさんの口振りからして、グーゼス様やルミーネ関連で何かがあったという訳ではなさそうだ。

 しかし、それ以外に彼が焦ることとはなんだろう。ケルディス様が来たとかなら、ここまで焦らないだろうし、それがあまりよくわからない。


「実は、この屋敷に客人が来たんです」

「客人? この屋敷に、ですか?」

「ええ、彼らはルルメアさんの友達だと主張しているのです。しかも、自分達はナルキアス商会の者だとも言っているんです」

「え?」


 マルギアスさんの言葉に、私は驚いていた。

 ナルキアス商会の私の友人。それはスライグさんとセレリアさんのことだろう。

 しかし、どうして彼らがここに来るのかがわからない。ある程度の事情は説明したが、そもそもこの場所のことは教えていないのに、彼らが来る意味がわからないのである。


「とにかく、ルルメアさんには二人の顔を確認してもらいたいのです。そもそも、本当にご友人かどうかもわからない訳ですし……」

「そうですね……とりあえず、そこからですね」


 私は、マルギアスさんの言葉にゆっくりと頷いた。

 確かに、ナルキアス商会の友人というだけでは、本当に二人かどうかはわからない。まずは、その顔を確認して、本人かどうかを確かめるべきだ。

 ここに来た事情は、それから本人に聞けばいいだろう。もしも二人なら、教えてくれないとも考えにくいので、それでいいはずだ。

 こうして、私はマルギアスさんとともに玄関に向かうのだった。

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