86.つけてくる者(モブ視点)
元ズウェール王国内にて、エルーシャは忙しい日々を送っていた。
現在、ズウェール王国はラヴェイスト公爵が新たなる王となり、ラヴェイスト王国へと生まれ変わろうとしている。
そんな激動の中で、エルーシャは新しい仕事を探していた。もう国の中枢に関わるような仕事をしようとは、彼女も思っていない。もっと穏やかな生活を送ろうと思っているのだ。
「……あら?」
そこで、エルーシャはあることに気づいた。何か、視線を感じるのだ。
恐らく、自分をつけてきている者がいる。そう思ったエルーシャは、周囲の様子を見渡した。
しかし、目に入る範囲に人は見つからない。どうやら、相手はかなりきちんと尾行をしてきているようだ。
「……ただのストーカーにしては、尾行が上手すぎるような気がするわね」
エルーシャは、相手がただの人間ではないと思った。それにしては、尾行が上手すぎるからだ。
ということは、相手は何かしらのプロということになる。そんな人間が、どうして自分を尾行するのか、エルーシャは考える。
考えて出た結論は、自分がかつてズウェール王国の中枢にいたという事実から来るものだった。ラヴェイスト王国辺りが、差し向けてきているのだろうか。エルーシャは、そのように考えたのだ。
「さて、どうなるのかしら?」
「……どうかしたのか?」
そんなことを考えながら、エルーシャは目的地に辿り着いていた。
そこにいたレイオスは、彼女の様子に質問をしてきた。彼からすれば、彼女がどうしてこんな様子なのか、まったくわからないのだ。
「レイオス、どうやら私は誰かにつけられているみたいなの? あなたの方は、何かなかった?」
「……いや、特にはない」
エルーシャは、ラヴェイスト王国が自分のことを調べているのなら、レイオスにも同じことが起こっているのではないかと考えていた。
しかし、彼には何も起こっていない。そのことに、エルーシャは改めて考えることになった。それなら、一体誰がどうして自分をつけているのかを。
「普通のストーカーにしては、すごいのよね……」
「……なるほど」
エルーシャの言葉を聞いて、レイオスは彼女を庇うように立った。
視線を感じる方向はわかっている。そのため、レイオスは相手を挑発することにしたのだ。
「……何者かは知らんが、こそこそしないで出てきたらどうだ?」
「……」
レイオスの呼びかけに、一人の男性が二人の目の前に現れた。
意外にも素直に応えてきたため、二人は少し驚いた。呼びかけて出てくるとは、二人も思っていなかったのだ。
「……お前は、一体何者だ?」
「私は、アルヴェルド王国の者です」
「……何?」
男性の言葉に、二人はさらに驚くことになった。
隣国のアルヴェルド王国の者が、エルーシャをつけていた。その意味を、二人は考える。
しかし、結論はすぐには出てこない。想像できる理由はあるが、確信を持てるようなものではないのだ。
こうして、二人はアルヴェルド王国の男性と出会うのだった。
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