65.得られた納得

「……あんたの事情はわかった。だが、それがどうしたというんだ」

「え?」

「例え、あんたがあの国の聖女だったとしても、別に何も変わらないだろう。あんたは、悪いことなんてしていない。それなのに、おっさんはどうしてこの人から話を聞こうとしているんだよ? それは、こっちの国のわがままなんじゃないのか?」


 私の正体を知っても、ナーゼスさんはその態度を変えることはなかった。

 聖女であっても、その意見は変わらない。そのことが、私は嬉しかった。

 本当に、この町の人達はいい人ばかりだ。だからこそ、巻き込んではいけない。そういう気持ちが、どんどんと強くなっていく。


「ナーゼス、確かにそれはそうだ。このお嬢ちゃんから色々と話を聞きたい。それは、アルヴェルド王国側の事情でしかない。だが、それはこの国の利益に繋がることだ」

「利益に繋がるからって……」

「お前の言いたいことはわかる。しかし、そんな風に綺麗ごとだけでやっていける訳じゃないんだ」

「それは……」


 ドルギアさんの言葉に、ナーゼスさんは少し怯んだ。彼の言っていることが、理解できない訳ではないからだろう。

 恐らく、ナーゼスさんは理解していても納得はできないのだ。そういう気質の人なのだろう。


「ナーゼス、もうやめなさい」

「あ、姉貴?」


 そんなナーゼスさんに、トゥーリンさんは優しく話しかけた。

 その声色は、いつもと変わらない。そのほんわかとした態度も、いつも通りだ。

 だが、何故だろうか。今の彼女は、とても頼もしく見える。よくわからないが、そんな底知れない雰囲気を醸し出しているのだ。


「ドルギアさん、あなたはルルメアさんに危害を加えるつもりはないのですよね?」

「ああ、それはもちろんそうだ」

「ナーゼス、それならいいでしょう? 難しい問題なんて、どうでもいいじゃない。私達の望みは、ルルメアさんが無事に帰ってくること。そうでしょう?」

「それは……そうだが」


 トゥーリンさんは、ナーゼスさんをゆっくりと諭した。それは優しい口調だったが、とても芯のある言葉だったような気がする。


「仕方ないのか……おっさん、ルルメアさんに傷一つでもつけたら、絶対に許さないからな?」

「ああ、肝に銘じておくよ」

「……彼女のことをちゃんと守ってくれ」

「わかっているよ。必ず守るさ」


 ナーゼスさんは、姉の説得に応じたようだ。彼女の言葉が、しっかりとその胸に届いたのだろう。


「ルルメアさん、無事に帰って来てね」

「ああ、俺達は待っているからさ」

「二人とも……ありがとうございます」


 優しい言葉をかけてくれる二人に、私はゆっくりと頭を下げた。

 こうして、私はトゥーリンさんとナーゼスさんに挨拶を済ませたのだった。

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