64.打ち明けるべきこと

「さて、事情はそんな所だ。だから、お嬢ちゃんを連れて行くんだ。別に騎士団は彼女に危害を加えようとか、そういう訳ではない」

「……だけど、元々連れて行こうとしていたんだろう?」

「それは、そうだが……」

「ずっと気になっていたんだ。一体、どうして彼女を連れて行こうとしていたんだ? ズウェール王国出身だからって、それはおかしな話だろう?」


 ナーゼスさんは、今回の件については納得してくれたようである。

 しかし、昨日のことが尾を引いているのか、まだ完全にドルギアさんを信頼しきれていないようだ。

 私を連れて行く理由として、ズウェール王国出身だからというだけでは薄い。それは、なんとなくわかっていたことである。

 昨日は、それで納得してくれたのかと思っていたが、そういう訳ではなかったようだ。


「ナーゼスさん、それにトゥーリンさん、そのことについて、私から話したいことがあるんです」

「お嬢ちゃん……」

「ドルギアさん、大丈夫ですから」


 私は、二人に自身の素性を明かすことにした。

 結局の所、そこが不透明なままでは、納得が得られないと思ったからだ。

 それに、これをいつまでも隠しておくということに、私が少し嫌気が差したというのもある。二人には、全てを正直に話したいと、そう思ったのだ。


「私は、ズウェール王国の聖女だったのです」

「……聖女?」

「それって……」


 私の言葉に、ナーゼスさんとトゥーリンさんは驚いていた。

 それは、当然だろう。まさか、滅びた国の聖女が目の前にいるなんて、思ってもいなかったことのはずだ。


「彼の王国で暴動が起きる前、私は聖女をやめてこちらの国に来ていたのです。旅の途中で、ナルキアス商会のスライグさんとセレリアさんと出会い、仕事を紹介してもらえることになって、ここを紹介してもらいました」

「……」

「でも、そんな私の過去を知るとある人物が、私を狙ってきているんです。逆恨みに近い感情で……」


 私は、話せる範囲で事情を話してみた。

 二人は何も言わず私の話を聞いている。その顔は真剣だ。少なくとも、私の言葉を信じてはくれているのだろう。

 だが、それを信じてどう思っているのだろうか。そこは、私にとってとても気になることである。


「その人物は、大きな力を持っています。私も腕にそれなりの自信はありますが、それでも勝てるかわからない程に。だから、私は騎士団に保護してもらおうと思っています。その方が、周りの人も安全ですから」


 事情を話したことで、私の心は少し軽くなっていた。

 しかし、それは私の自己満足に過ぎない。問題は、二人が何を思っているかである。

 そう思った私は、二人の言葉を待つことにした。なんだか、時間がゆっくりと流れているような気がする。それだけ、私が緊張しているということなのだろうか。

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