62.必要な挨拶

 私は、騎士団の詰め所で一夜を明かした。

 ドルギアさんが指示を出したのか、騎士達は私を丁重に扱ってくれた。要人くらいの扱いだったのではないだろうか。

 そのおかげもあってか、あんなことがあったというのにしっかり眠れた。いや、あんなことがあって疲れたからこそ、よく眠れたのかもしれないが。


「悪いな、付き合わせてしまって」

「いえ、私も自分で話したいと思っていた所ですから」


 そんな私は、ドルギアさんとともにトゥーリンの定食屋に向かっていた。二人に、私がこの町からしばらく消えることを伝えるためである。


「ドルギアさん、色々とありがとうございます。あなたのおかげで、私は無事にこの町から出て行けそうです」

「いや、それは気にすることではないさ。お嬢ちゃんは、こちらの都合でこの町を出て行くんだ。これは、俺達の当然の義務だ」


 諸々の手配は、騎士団にお願いしている。

 セリーエさんには、少しの間家を空けることを手紙で伝えてもらうことにした。流石に、何も言わずにしばらく帰らないのはまずいと思ったからだ。

 スライグさん達にも、手紙は出してもらう。こちらは、ドルギアさんの許可を取って、ある程度の事情を知らせることにした。

 今回は、騎士団に護衛してもらうということなので、きっと彼らもそこまで心配はしないだろう。そう考えて、その辺りの事情ははっきりと伝えることにしたのだ。



「まあ、問題はナーゼスだな。あいつがなんというかだ」

「そうですね……」


 ドルギアさんの言う通り、ナーゼスさんの反応は問題だった。

 彼は、昨日の出来事で騎士団に不信感を持っている。そんな時に、私がこの町を去るとなると、色々と反発しそうだ。

 それは、私としては嬉しいことでもある。だが、事実として私は狙われているので、この町に留まる訳にはいかないのだ。


「それがあいつのいい所でもあるんだが、今回ばかりは少し面倒だな……まあ、納得してもらうためにお嬢ちゃんも連れて来ている訳だし、多分大丈夫だと思うんだが……」

「いざとなったら、ある程度事情を明かせばいいんです。私がズウェール王国の聖女で、それが原因で悪い人から狙われている。そこまで話せば、彼も納得してくれるでしょう」

「それは、そうかもしれないが……いいのか?」

「ええ、まあ」

「……そうか」


 私の言葉に、ドルギアさんは頭をかいた。それは、少し困っているような仕草に見える。

 なんだかんだいって、彼も人がいいのだろう。私がこのことを話したくないことを理解していて、できればそうしたいと思ってくれているのだ。

 ただ、私はもう覚悟を決めている。いざという時は、私の全てを話すつもりだ。

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