60.迫りくる危険
「行ったようだな……」
「ええ、そのようですね……」
ドルギアさんは、ルミーネが去って行った方向を見つめながら、少し悔しそうに呟いた。
騎士として、彼女を見逃すことは悔しいことなのだろう。だが、周りの被害を考えるとそうせざるを得ないのだ。
彼としては、とてももどかしいはずだ。私だって、悔しい思いはあるのだから、それは間違いない。
「さて、問題はこれからどうするかということだ」
「どうするか? 彼女をどうやって捕まえるか、ということですか?」
「それもあるが、一番考えなければならないのは、お嬢ちゃんのことだろう」
「私のこと……ああ、そうですね」
ドルギアさんに言われて、私は気付いた。
グーゼス様は、逆恨みで私を狙ってくるだろう。ルミーネは、確かにそう言っていた。
ということは、私のこれからの生活は危うい。彼から襲撃されるかもしれないからである。
「あいつに町中で暴れられると正直、困る。お嬢ちゃんには、然るべき場所にいてもらいたい」
「然るべき場所……」
「当然、騎士の護衛をつける。お嬢ちゃんの身の安全は、この国の騎士団が保証すると約束しよう」
ドルギアさんは、私を隔離したいようだ。
それは、当然の判断である。グーゼス様が私を狙ってくる以上、私が普通に生活していていいはずはない。
私がこの町に留まれば、多くの人に危害が及ぶ可能性がある。スライグさんやナーゼスさん達、この町で知り合った人達が危ないのだ。
「わかりました。それで、私はどうすればいいんですか?」
「話が早くて助かるぜ……まあ、今日の内はとりあえずこの町の騎士の詰め所に来てもらおうか。流石に、今から町を離れるのは無理だ。そんなことをすれば、別の危険がある」
「そうですね……」
この町で出会った人達のことを思い出したら、すんなりと答えは出てきた。彼らが危険に巻き込まれるなんて、私は嫌なのだ。
いや、彼らだけではない。この町で平和に暮らす人々が危険に巻き込まれるなんて、間違っているだろう。
私は、定食屋に来るお客さん達のことを思い出した。彼らが危険に晒されるのも、また嫌なのである。
「ああ、でも、トゥーリンさん達は、私が急にいなくなったら、困ってしまうかもしれません」
「そうか……まあ、その辺りも、俺がなんとか手配するさ」
「そうですか。それは、ありがとうございます。それなら、安心できます」
私とドルギアさんは、歩きながらそんな会話を交わした。
こうして、私はこの町から離れることになったのである。
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