59.大切な実験体

「すみません、ドルギアさん。私、周りのことを何も考えられていませんでした……」

「俺の言葉で気付いたんだ。それは、気にすることじゃないさ」


 私の謝罪に、ドルギアさんはそう言ってくれた。だが、反省しなければならないだろう。

 この未知の体験に、私はかなり焦っていたようである。もっと冷静になるべきだったのだ。

 常に周りを見て、行動する。それができるようにならなければならない。

 聖女だったというのに、それができなかったなんて、情けない限りである。結局の所、私は目先のことしか考えられていないのかもしれない。


「ルミーネといったか。お前さん、そっちの化け物王子はどうするつもりなんだ?」

「ああ、彼ですか? もちろん、連れて帰りますよ。彼は、私の大事なモルモットですから」

「モルモット、ね……」


 反省する私の横で、ドルギアさんはルミーネに質問をしていた。

 グーゼス様がどうなるか。それも、大切なことだろう。彼がこの場に残ったら、まず間違いなく暴れるのだから。


「できることなら、そのモルモットにはきちんと手綱をつけて欲しいものだな。そいつのせいで、どれだけの被害が出たことか……」

「それはできません。彼を自由に行動させることが、私の研究の実験ですから」

「実験? どういうことだ?」

「彼は、私が作り上げた……まあ、生物兵器というようなものです。そんな彼が、どのように思考するか、それは私にとって、とても大切なことなのですよ」

「ほう……」


 ドルギアさんの質問に、ルミーネは案外素直に答えた。

 それを語る時の彼女は、やけに楽しそうである。もしかしたら、誰かに自らの研究とやらを聞いて欲しいという気持ちが、彼女の中にはあったのかもしれない。


「この愚かなる第三王子の場合は、聖女様を狙うというのが行動原理のようですね……逆恨みなのでしょうが、あなたに復讐したいと思っているのかもしれません」

「私に……」

「迷惑な話だな……」

「まあ、これからも彼は野に放ちますけど、辻斬り事件のようなことにはならないのではないでしょうか? 彼も、きっと彼女の匂いを覚えたはずですから」

「匂いね……まるで、獣だな?」

「そうですね。今の彼は、本能で動く獣のようなものかもしれません」


 質問に答えながら、ルミーネはその手を動かした。すると、グーゼス様の巨体も空に浮かび上がっていく。


「それでは、お二人とも、さようなら。また会う機会があったら、その時はよろしくお願いします」


 最後にそう言ってから、ルミーネとグーゼス様はその姿を消した。とりあえず、今回の戦いはこれで終わりということなのだろう。

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