58.ぶつかり合う魔法

「ふふ、流石は聖女様ですね。ここからでもその大きな魔力を感じます」

「それなら、素直に降参してもらえないかな?」

「あっはっはっ! ……それに私が勝てないなんて、言ってねぇだろうがよ?」

「なっ……」


 ルミーネは、その口調を荒々しくしながら魔力を掌に集中させた。

 それは、膨大な魔力だ。私と同等、いやそれ以上かもしれない。


「これ程の魔力を……」

「……驚いているようですね? まあ、当然です。この魔力は、聖女様にはお見せしたことがありませんから」

「隠していたというの? その膨大な魔力を?」

「ええ、そうですよ。私は別に聖女になりたい訳ではありませんでしたから、これを大っぴらにする必要なんてなかったんです。ああ、でも、私はどの道聖女になんて、なれませんけどね」

「え?」


 ルミーネの言葉に、私は疑問を覚えた。聖女になれない。それが何を意味するか、わからなかったからだ。


「お嬢ちゃん、来るぞ!」

「くっ……」


 しかし、そんな疑問を考える暇もなく、ルミーネは魔法を放ってきた。

 彼女の掌から放たれた魔力は、渦を形成していく。それは、風の魔法だ。彼女は、今この場に竜巻を起こそうとしているのだ。


「……それなら」

「あら?」


 それに対して、私も風の魔法で対抗する。彼女の作った渦と逆向きの渦を作り、それを相殺させたのだ。

 私の目論見は、上手くいった。二つの魔力はぶつかり合って、消滅したのである。


「……まさか、これ程とは。見事です、聖女様。私、勝てると思っていたんですけど、それは的外れだったようですね」

「あまり、こちらを舐めないでもらいたいものだね」

「ええ、これからはあなたを侮ったりはしませんよ……さて、あなたがそれ程の力を持っているというなら、この戦いは引いた方が良さそうですね」


 そこで、ルミーネはゆっくりと浮き上がった。その言葉通り、ここから逃げるつもりなのだろう。

 それに対して、私は魔法を構える。ここで彼女を逃がす訳にはいかない。なんとかして、拘束するべきだ。


「待ちな、お嬢ちゃん」

「ドルギアさん?」


 そんな私をドルギアさんが止めてきた。彼は、私の肩に手を置き、その手に力を入れている。はっきりと、私の行動を制止しようとしているようだ。


「気持ちはわかるが、もうこれ以上ここで暴れるのは得策じゃない。周りのことをよく見てくれ」

「周り……? あっ……!」


 ドルギアさんの指摘に、私は気付いた。

 人通りが少ないとはいえ、ここは町の一角だ。周りには、店や家などが立ち並んでいる。

 そんな中で彼女と戦ってどうなるか。それは明白だ。

 彼女が引いてくれるなら、その方がいいのだろう。町の被害を考えるなら、そうするべきだ。

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