55.未知への恐怖

「お嬢ちゃん、今から俺はあいつに接近する。もしもあいつが、あの触手やその他変なことをしてきたら、サポートを頼む」

「はい。気を付けてくださいね」

「ああ、わかっている」


 私の言葉に頷いた後、ドルギアさんはグーゼス様の元に向かって行く。

 そんな彼に対して、グーゼス様は驚いている。呆気に取られているようなそんな表情をしているのだ。

 この状況で、どうしてそんな顔をするのかはわからない。だが、こちらにとっては、都合がいいことである。


「喰らえ!」

「うああああっ!」

「なっ……!」


 グーゼス様は、ドルギアさんの攻撃に対して何もすることはなかった。彼の剣に、そのまま切り裂かれたのだ。

 それは、私にとってもドルギアさんにとっても驚くべきことだった。なぜなら、何もしてこないなんて、思ってもいなかったことだからである。

 グーゼス様の体は、真っ二つに分かれた。そのまま、彼の体はゆっくりと落ちていく。それを、私達は茫然と見ているしかなかった。


「お、終わったのか……?」

「そ、そうなんでしょうか……?」


 ドルギアさんの質問に、私は疑問しか答えられなかった。

 これで、本当に終わったのだろうか。あまりにも呆気なさ過ぎる。あんな巨体で、触手などという不可思議な力もあるのに、これで終わるなんてことがあるのだろうか。


「ぐあああああああっ!」

「うおっ!」

「なっ……!」


 私達がそんなことを思っていると、グーゼス様が叫び声をあげた。

 それは、苦しむような声である。当然といえば、当然だ。彼は、体を引き裂かれている。苦しくない訳がない。


「あっ?」

「な、なんだ?」

「これは……」


 次の瞬間、グーゼス様の体に変化が起こった。引き裂かれた下半身から、触手が伸びて、上半身と繋がったのである。

 そのまま、彼の上半身は下半身に引き寄せられた。そして、彼の体は繋がった。体を引き裂かれたはずの彼の体が、元に戻ったのだ。


「うあっ……な、何?」


 グーゼス様は、自分の体の調子を確かめるように動かしている。

 彼は、少し困惑しているようだ。自分でも、どうして体が元に戻ったのか、よくわかっていないようである。

 それは、自身が蘇った理由を答えられなかった時と同じような反応だ。やはり、彼は正気ではないのだろう。自分のことですら、訳がわからなくなっているのだ。


「なんなんだ、あいつは……」

「怪物としか、いいようがありませんね……」

「ああ、俺も長く騎士をやっているが、あんなのは見たことがない。戦っていて、こんな奇妙な感覚になるのは初めてだ」


 ドルギアさんも私も、彼の様子に恐怖のようなものを感じていた。

 それは、未知への恐怖なのだろう。あの奇妙な体になったグーゼス様は、不可思議な怪物なのである。

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