54.蘇った男
「ば、馬鹿な……なんで、ズウェール王国の王子がこんな所にいるんだよ!」
「ぐあっ!」
私の呟きに、ドルギアさんは驚いていた。
それもそのはずだ。彼が、ここにいるなんてあり得ないことである。
「お嬢ちゃん、確かズウェール王国の王子は討たれたんだよなぁ?」
「ええ、そうです。彼らは、既に亡くなっていると聞いています」
「そんな王子が、生きていて、しかもアルヴェルド王国にいる。これは、一体どういうことなんだ? しかも、こんな風に化け物になっていやがる……」
「それは、私にもわかりません」
グーゼス様を含めたズウェール王国の王族達は、既に亡くなっていたはずだ。暴動によって、その命を落としたのである。
それなのに、今彼は私達の目の前に確かにいるのだ。それは、訳がわからないことである。
「……驚いているようだな? ははは、天下の聖女様も、流石にこの僕が蘇ったという事実は、信じられないかぁ?」
「なっ……」
そこで、グーゼス様は私に話しかけてきた。先程までは苦しんでいたが、今は落ち着いているようだ。
彼は、私のことをはっきりと認識している。ということは、本当にグーゼス様本人で間違いないようだ。
「蘇った? まさか、あなたは一度死んでから蘇ったというの?」
「そういうことだ……」
「そんなことはあり得ない。死者が蘇るなんて、聞いたことがない」
「そうだろうな……僕だって、未だに信じられない。あの時、僕は確かに死んだはずなのに……それなのに、どうして僕はここにいるんだ?」
「え……?」
私の質問に答えながら、グーゼス様は頭を抱えていた。
その態度は、ちぐはぐだ。彼は、答えを知っている訳ではないのだろうか。なんだか、よくわからない。
「なんだ? あいつ自身も、混乱しているのか?」
「ええ、そうみたいです。もしかしたら、彼はもう正気ではないのかも……」
「まあ、あんな姿になっているんだ。精神に支障をきたしていたとしても、それはおかしいことではないか……」
グーゼス様は、最早正気ではないのだろう。あの混乱を見ていると、そうとしか思えない。
彼の話が本当だと仮定しても、その予想は間違っていないように思える。もし本当に死者が蘇ったとして、そこに何かしらのリスクがあるというのは、それ程おかしなことではないだろう。
「よくわからないが、あれを拘束するというのは少々難しそうだ。暴れられることも考えると……あいつは、ここで討伐するべきかもしれないな」
「……ええ、そうですね。事情はよくわかりませんが、町の人々の安全を優先するべきです」
「お嬢ちゃん、悪いが力を貸してもらえるか? 流石に、あの未知の生物に、俺一人で対抗するというのは分が悪い」
「……わかりました。私でよければ、力になります」
ドルギアさんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
あの化け物が、何をしてくるかはわからない。だが、二人で協力すれば、きっとなんとかなるはずだ。
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