16.聞いておきたいこと

「よし……それでは、少し君の話を聞かせてもらえるだろうか。スライグから事情は聞いているが、ズウェール王国から移住して、このアルヴェルド王国で暮らしたいんだったね?」

「はい……」

「なるほど……」


 そこで、サルドンさんは本題に移った。

 私が、こちらの王国で暮らすための手助けをしてもらえる。スライグさんからそう聞いているが、それがどうなるかは正直まだわからない。

 それは、ナルキアス商会のトップであるサルドンさん次第といえるだろう。


「こういう仕事をしているから、住む場所や仕事について紹介することはできる。そうすることもやぶさかではない。ただ、少し聞いておきたいことがあるのだよ」

「えっと……なんですか?」


 サルドンさんは、人当たりのいい笑みを浮かべていた。しかし、私は今、その笑顔が少し怖い。

 彼は、何を聞いてくるつもりなのだろうか。私は、少しだけ構える。


「若い娘さんが、一人で王国間を移住する。それは、とても重大なことであるはずだ。聞くべきではないことかもしれないが……ご両親は?」

「……小さな頃に亡くなりました」

「そうか、それはすまなかったね。嫌なことを聞いてしまった」

「いえ……」


 サルドンさんがまず聞いてきたのは、私の両親のことだった。確かに、それは気になる所だろう。

 ただ、スライグさんやセレリアさんでは聞きにくいことである。だからこそ、彼はそれを聞いてくるのだろう。


「ズウェール王国では、何をしていたのかな?」

「え?」

「職業だよ。働いていなかったという訳ではないだろう?」


 そこで、サルドンさんは私の核心に迫る質問をしてきた。

 前職、それは聞かれるかもしれないと思っていた。適当に言い訳しようと考えていたが、いざ言われると言葉に詰まってしまうものである。


「言い当てようか?」

「え?」


 それでも言葉を出そうとしていた私を、サルドンさんは止めてきた。その瞬間、彼の笑みが少し変わる。


「聖女……だったのだろう?」

「それは……」

「隠す必要はない。もうわかっていることだ。私も……二人も」


 サルドンさんは、少し申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。それに、スライグさんもセレリアさんも申し訳なさそうな表情になっている。

 私は、理解した。二人も、本当はわかっていたのだと。


「すみません……」

「ごめんなさい。私も、兄さんもわかっていたんです。実の所、あなたの顔は見たことがあって……」

「僕は、最初わかっていなかったんですけど……」

「い、いえ……私も、隠していて申し訳ありませんでした。」


 私は、ゆっくりと深呼吸した。

 不思議なことに、私は少し安心していた。ずっと隠してはおけないと思っていたので、そう感じるのかもしれない。

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