第16話 幼馴染たちと交流
今日も今日とて登校して何気ない時間を過ごす。
特筆すべきこともない退屈な授業を終えて昼休みになった。
たまには雪路と昼飯を食べようかと思い立ち、LINEでメッセージを送る。すぐに返事があり、俺のクラスで昼飯を食べることになった。
弁当を持った雪路が教室に現れると、周りの生徒たちが副会長と呼んで挨拶をする。生徒会長のフォローを務める雪路は生徒からの信頼が厚い。成績優秀でルックスも良いために女子人気も高かった。
自分のクラスでもないのに、そんなの関係ないとばかりに堂々と俺のほうに歩み寄ってきた雪路。俺は隣の席を指差した。
「この席を使ってくれ」
「いいのか。確か藤原の席だろう?」
「本人がいいって言ったからな」
藤原さんには事前に了承を取ってある。
男子が座ったとしても全く気にしない性格の彼女は、快く席を貸してくれた。今は柳さんと校庭のベンチで仲良く昼食を取っているだろう。
「ならば遠慮なく座らせてもらおう」
藤原さんの席に座った雪路は弁当を広げる。
彩り豊かな弁当は彼女に作ってもらったらしい。俺も綾乃さん特製の弁当を広げ、有り難く口に運ぶ。
「そういえば雪路、彼女とは一緒に食わなくてもいいのか?」
「あまり付き纏うと嫌がる人だからな。定期的に距離を取らないと不満を爆発させてしまう」
「ああ、確かにそういう人だな……」
雪路の彼女はマイペースな人だ。
動物で例えるなら猫。
「お前こそ暮葉に付き添わなくていいのか」
雪路に問われ、保健室で昼食を取っていた暮葉の不満顔を思い出す。
「この前の昼休みに会いに行ったら嫌がられたからな」
「見かけ上はそうだろうが、心のなかでは嬉しがっているだろう。あいつはツンデレだからな」
「そうだといいけど」
最終的にはマンションにまで付いてきてくれたし、俺と一緒にいることが嫌というわけではなさそうだったな。
「今日の放課後にでも会いに行ってやればどうだ。いつも通りプールにいるだろう」
「そうしようかな」
今日の放課後は暮葉の様子を見に行ってみよう。
雪路と駄弁りながら、お互いの彼女が作ってくれた弁当を平らげるのであった。
そして午後の授業が終わりを告げ、晴れて放課後になった。
藤原さんに席の件についてお礼を言ってから、鞄を持って教室を出る。
B組の前で生徒会室に向かおうとする雪路と会い、俺たちはA組の様子を覗き合った。やはり暮葉の姿はなく、教室を出る生徒に聞けば放課後になった瞬間にさっさと出ていったらしい。
今日も生徒会の仕事が忙しい雪路と別れた俺は、別館のプールに向かった。相変わらず広くて大きなプールは学校の施設とは思えないほど豪華だ。
まばらに泳ぐ生徒たちから離れた位置で泳ぐ暮葉を発見。
華奢な身体を競泳水着で包んだ、色白の肌が眩しい彼女に声をかける。
「暮葉さん、今日も泳いでるんだな」
「佐倉くん……何か用ですか」
暮葉は泳ぐのを中断して、水中で立ったままジト目を向ける。
目を細めて不機嫌そうに顔をしかめているが、彼女が怒っているわけではないことを俺は知っている。他の生徒には誤解されそうな表情で見つめてくる暮葉に苦笑いしながら言った。
「特に用はないんだけど、暮葉さんと話したくてさ」
「あなたと話している暇があったら泳ぎたいです」
「それはそうだろうな、ごめん」
やっぱり退散するかな。
俺が踵を返そうとすると、静かな声が引き止めた。
「……休憩ついでに話してもいいですよ」
振り返って暮葉の顔を見ると、真っ白な頬が若干赤くなっていた。顔自体は前を向いているが、視線は俺を向かず横に逸れている。
何だか照れてるような暮葉だったが、意を決したように大股の足取りで水中を歩いてプールサイドに上がる。ぶるぶると犬のように頭を振って水滴を払い、またジト目で俺と向き合う。
「ここで話すと注目されるので、隅っこのほうに行きましょう」
「分かった」
プールサイドの隅の壁に背中を預ける俺たち。
暮葉は膝を抱えて体操座りをする。俺はあぐらをかいて横目で暮葉を見つつ言った。
「最近の調子はどうだ? 何か不便はないか?」
「別に……相変わらずです」
「そうか」
……会話が終わってしまった。
何か話題でもないか考えていると、暮葉は裸足の指先をもじもじと動かして、ごにょごにょと小さな声を漏らす。
「水着姿で話すのは何だか恥ずかしいですね……」
「だろうな。俺も目のやり場に困るし……」
暮葉の着ている競泳水着は露出が多く、横側から見ると腋やお尻の側面が目に飛び込んでくる。さらけ出された生脚は太もも部分もふくらはぎ部分も細く、しなやかな印象を見る者に抱かせる。綺麗な形の裸足は程々に小さくて可愛らしい。
肉付きが薄い真っ白な身体は綾乃さんのスタイルに比べると豊かとは言えないが、それでも均整が取れていて美しかった。俺の視線がくすぐったかったのか、暮葉の足の指のもじもじ度が増す。
「あまり見ないでください……さすがに恥ずかしいです」
「ごめん。でも暮葉さんってスタイルが整ってるよな。日頃から運動を頑張ってるんだな」
「私は皆のように陽の下で動けませんし、その分ここで頑張らないといけませんから」
アルビノという体質上、太陽の光を浴びるのは生き死にに関わる。
それでも自分の体質を言い訳にせず、誰に運動しろと言われなくても暮葉はこうやって放課後にプールで泳いでいる。昔からがんばり屋さんな彼女らしかった。
「佐倉くんも、たまには泳いでみたらどうですか?」
「そうだなぁ。最近は怠けてばかりだし、プールで身体を動かすのもいいかもな」
「もし泳ぎ方が分からなかったら、私が教えてあげてもいいですよ……?」
うつむいて恥ずかしそうに呟く暮葉。なぜか耳まで赤くなっている。
俺は思わず彼女の頭に手を乗せて、軽く撫でてしまった。
「あ……」
「ごめん、不快だったか?」
「いえ……昔はこんなふうに佐倉くんに頭を撫でられていたことを思い出しました」
「そうだったな」
いつも俺や雪路、綾乃さんの後ろを追いかけていた気弱な少女。
近所の子供たちに白い肌と赤い瞳をからかわれて泣いていた暮葉を、こうやって撫でて慰めていたのが懐かしい。
「まあ、髪に触れられるのは普通に不愉快ですけどね」
フンと鼻を鳴らし、触られるのを嫌がる高貴な猫のようにそっぽを向く暮葉。形の良い耳は相変わらず赤色に染まっていた。
普通の男子高校生、国民的アイドルの彼氏になって養われる 夜見真音 @yomi_mane
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