第4話
キアラさんが語りだしました。
「……ランプを持った男が助けた。
急に回りが真っ暗になって、ランプの明かりで浮いている馬の脚だけが見えた……。
そして、急に何も聞こえなくなる……。
回りが真っ暗……でも一緒に歩くと昼に戻る……。
女の子はそんな事言ってた。
そして女の子が一瞬で馬車の前から横に移動していたという御者の発言。
なによりも、あの一瞬の犯行……。
……時間を止めたのなら、理屈は通ると思ったの……」
てな事をキアラさんは言いました。男の人の顔がピクリと動きました。
「時間を止め、停止時間内で犯行と救出を行った。
女の子の見た浮いてた馬の脚は、時間が止まって動かなくなった馬の脚……。
では回りが真っ暗なのはなぜか……光も止まったからよね。
時間が停止し、光さえも、何もかも止まり辺りは真っ暗になってた。
時間が止まるのだから空気も、何もかも、全て、止まる。
でも……それでは固定された空気によって身動きができなくなるはず……それでも犯人は自由に移動ができたという事は……。
……私は、犯人は時間が停止している中、正常な時間が流れる泡みたいなのものに包まれて移動していると仮定したわ。
その根拠として、荷台にいた支配人と警備兵が腕が痺れたと言っていたの。
これはきっと、狭い荷台の中の両脇に立っていた2人の腕部分だけが、その泡の内に入ってしまったのよ。
正常時間が流れる泡内部に入り、腕部分の血液だけが流れてしまう。
結果、血液が滞ってしまい、体全体が正常時間に戻った時に腕に痺れを感じた……。
なぜ停止時間内で女の子が動けたかもわかってくる。
女の子も泡の中にいたから動くことができるようになっていた。
女の子が一緒に歩くと昼になったと言ったのは、泡の外で止まっていた光が、移動した際に正常時間の泡の内に入って動いたから。
泡の中の光は動いて消散してすぐに暗闇に戻るから、泡内で止まって活動するにはランプが必要だったのよね。
……こうしてあなたに近づいているのも、時間停止をしても、私達が泡内に留まって対処するためよ。
おそらく泡の範囲は任意で変えれる。荷台に居た2人の腕が入ってしまったという事は直径4シャーク以下にはできないとみる……」
キアラさんが、男の人を睨みつけ聞きました。
「ねぇ合ってる? 何か言いなさい」
「……そうだ。俺は時間を止められる」
セレフィはびっくりして、
「あなたの持っている能力は、ホントに時間を止める能力なのですか!? すげぇっ!?」
って、つい男の人に、しがみつきながら言ってしまいました。
実はセレフィはここまでキアラさんの言っていることが眉唾物だったのです。男の人はただ、セレフィの事をチラと見ただけでした。
「……犯行理由はバルビエリへの恨み?
あれ以来何の事件を起こしてないのは……時間停止して金庫内の現金等をなぜ狙わなかったのかは……そして、他の銀行での積み込み作業も狙わなかった理由は、バルビエリの金以外は狙いたくなかったから?」
キアラさんはセレフィを無視して男の人に聞きました。
「あいつは僕の両親を殺した。両親はバルビエリの事業の暗部を告発しようとしていた……僕はこの耳で聞いたんだ……奴らが……バルビエリ様に事は終わったと報告するぞ、と言っていたのを!」
男の人もセレフィを無視して話しました。セレフィは恥ずかしくなってました。
男の人は涙を目に溜めだしてました。
「……僕も剣で斬られ、腹から血を流してた……そんな僕の止めを刺そうと、奴らが近づいてきたその時だった……能力が発現したんだ。停止した時間の中、逃げるのは、簡単だったよ……。医院にまで逃げて、治療してもらい、僕は身を隠した……」
その涙は、しゃべるごとに大きな粒となって頬に流れ落ちていきました。
と、一瞬で真っ暗だった辺りが明るくなったのです。
泣いてしまって集中力が切れたのです。
同時に、音も戻りました。なんか閉め切った部屋から外に出たような感覚もしました。
「では、あなただけが生き延びたの? それでこんな所に住んでいたのね……」
「誰かが捨てた家だろうな、運が良かったよ」
「バルビエリ本人は狙わなかったの? 直接命を奪う事もできたはずよ、バルビエリはよく出歩くじゃない」
「やろうとしたさ……でもできなかった……。僕は……ナイフ片手に、仇のバルビエリを前にまで行った」
男の人の顔が怒りにゆがんでいました。悲しいのか悔しいのか、よくわからない顔でした。
「……そして、僕は何もせず帰ってきてた……たとえ復讐でも……殺しはいけない事だろう……?」
「そうね……それで財産を狙ったというのね」
「そうだ。あいつの命より大事なな。金庫内へも忍び込んだけど、その金のうち……どれがバルビエリのものかわからなかった……だから、やつのものだとわかる金だけ盗んだ。盗んだ金は使わず全て燃やした。もうここにも、どこにもない……」
「……そう、おとなしく連行されなさいよ……あの悪徳商人のせいで、これ以上罪を重くする必要はないわ……」
「……はい……」
こうして、バルビエリさんの現金強盗事件は、解決となりました。
捕らえたキアラさんは讃えられていました。ついでにセレフィも褒められました。
この男の人はレベル10能力者として、今も牢獄に入れられています。しかし犯行動機から特能警察が味方にしようと動いているらしいです。
そのうち捜査官としてセレフィの同僚になるのかもしれません。セレフィはその方が良いとおもいます。なんたってレベル10、時間停止というすさまじい能力ですから。
親愛なるママ先生、私の弟と妹たち、セレフィの話はこれで終わりです。
年末に帰る予定なので、新年を皆と一緒に迎えるのが楽しみです。チーズケーキも楽しみにしていてください。
セレフィ・シュダーより。
少女セレフィの事件簿 フィオー @akasawaon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます