第10話 仇討ち 




「アル!準備はいいか?」



「問題ないよ。行こう」



念入りに準備を整え、一晩しっかりと村で休まさてもらった僕達は森に向かった。

ここからはいつ魔獣が現れるか分からないからと

気を引き締めて慎重に行動しようとバンと打ち合わせ、お互いに周囲を警戒しながら進んだ。



「どうやらこの辺には魔獣はいないみたいだね」



「そうだな!一応油断しないでおこうぜ!!アルはマーメイドフェスタを持っててくれ!」



「わかったよ。先生もう遠くへ行ってしまったんだろうか、、、」




「どうだろうな?魔獣が居ないってことは、移動した可能性が高いかもな」



しばらく森を探索していたが、バンついに魔獣を発見した。数は少ないが油断はしない。狼型の魔獣は素早く連携攻撃でこちらを崩しに来るので気を引き締めて戦闘を開始した。



「アル!ワンダフルラッシュの奇跡は温存しとくぞ。悪いが前線は任せた!!」



「このくらいの相手なら問題ないよ!行くよバン!ダァァァァァァァァァァ!!」



まだコチラに気がついていない魔獣に刺突の一撃を加える。手応えはあったが仕留め切る所まではいかなかったようだ。魔獣達はは素早くコチラと距離をとり睨みを効かせてきた。



「ナイスだアル!!焦らずいこうぜ!!」



「バン!僕が牽制するから隙をついてワンダフルラッシュの両腕で攻撃をお願い!」



「ガッテン承知だ!!」



僕は大きく息を吸い込み大地を強く踏み込んで、魔獣との距離を一気に詰めマーメイドフェスタを横凪に振り払う。狙い通りに足を切り魔獣の機動力を削ぐことに成功した。



「バン!今だ!」



「おーーらよおぉぉお!!」



バンのワンダフルラッシュの大ぶりで重たい一撃が魔獣達の命を刈り取る。僕が前線で牽制し隙を作り、バンが仕留める。このパターンで大半の魔獣は処理する事ができた。



「よし!やったねバン」



「あぁ!!アルのナイスな働きで上手く倒せたな!!村が襲われても目覚めが悪いからな、もう少しこの辺を探して魔獣を倒しきろうぜ!!」



「そうだね。良くしてもらったんだら、それくらいのお返しはしないとね」



バンと一息ついたその時、背後からからものすごいスピードで何かがコチラに迫ってきた。



「アル!危ねぇ!!」



バンが咄嗟にワンダフルラッシュでガードしてくれなければその狂爪にこの身を引き裂かれていたのは間違いなかった。僕らの前に今までの魔獣とは比べ物にならないほど凶悪な魔獣が二匹、その姿を現した。



通常の狼の魔獣より2回りは大きくその爪と牙はより鋭く、体を覆う毛は太くそれでいて美しい狼の魔獣。



狼の魔獣よりさらに大きく森に生えている木と同等の体躯を持ち、その太い腕と鋭い爪は全てを破壊してもおかしくないと思えるほど発達している熊の魔獣。



こいつら、家族と村の皆んなを殺した奴らだ!!



二匹の魔獣を一眼見た瞬間に、気づいた時には身体は動いてしまっていた。



「お前らァァァァァァア!!」



狼型の方に怒りと憎しみが篭る鋭い突きを放つ。

獲った!そう確信できるほど不意をついた一突きだったが、寸前のところで狼は皆を無理やり翻しその一撃から致命傷を避けた。



避けられた!?そう思った瞬間、熊型の剛腕が無慈悲にコチラに振り下ろされた。



「ぐぁぁぁぁあ!!」



マーメイドフェスタでガードしたもののその衝撃は凄まじく数メートル吹っ飛ばされ地面に転がってしまった。その隙を先程のお返しとばかりに狼に狙われる



「アル!大丈夫か!!」



バンが素早く狼と僕の間にカバーに入り、これ以上の追撃を防いでくれた。もしもカバーがもう少し遅ければ狼に噛み殺されていたかもしれないと思うと脳に登っていた一気に血の気が引いた。



「どうやら落ち着いたみたいだな、、。」



「うん。ごめんバン、ありがとう」



「いや、いいんだ。唯な、らしくねーぞ!ってだけだ!!あいつらの事知ってるのか?」



「、、、、。家族と村の仇だよ」



そういうとバンは「なるほどな」と呟き魔獣達をギッと睨んだ。しばらくバンと魔獣が睨み合う。目を背けた方が負けだと言わんばかりにお互いがお互いから目を背けない。その時間のお陰で多少回復する事ができた。



「アル、準備はいいか?」



魔獣から目を背けずバンが呼びかける。



「問題ないよ。次はちゃんとする。まかせて」



「そっか。なぁアル?勝とうぜこの勝負」



「うん。勝とう。僕ら2人で」



「それじゃあ、こっちから仕掛けるぜ!!」



「わかった!行くよバン!」



怒りと憎しみでで狂った槍では魔獣の命に届く事は無かったが、バンと2人でなら必ず倒す事ができるはず。まずは手負いの狼から先に仕留める!




「ハァァァァァア!!」



息を吸い込み大きく踏み込む。マーメイドフェスタの長槍としてのリーチを生かし狼のリーチの範囲外から攻撃を仕掛ける。負けじと狼もコチラに接近してその爪を振るう。一進一退の攻防の中に



「アル!熊がいくぞ!!」




マーメイドフェスタと同じリーチの腕を持つ熊が乱入してくる。攻撃力が高くリーチも同じとなれば相性は良く無かった。



「くっ、これでどうだ!」



熊に向けて一閃放つが腕でガードされてしまいダメージは与えたが、致命傷にはならなかった。

このまま続ければきっと先に体力を無くした僕らがやられてしまう、、、。押しているけど、もうひと押し欲しい、、



「アル!ワンダフルラッシュを使う!!」



「!?」



「何がどう起こるかはわからないがお前ならきっと対応できるさ!!行くぞ!!」



パーンとワンダフルラッシュから気持ちの良い拍手の音が響く。この賭けに乗るしかない!そして僕らが勝つ!!



先に狼を仕留めるのではなく、毎回乱入して戦闘を乱す熊にターゲットを移すことにした。熊さえ倒せれば狼はマーメイドフェスタのリーチで完封できる。



「バン!熊の動きを止めれるかい?」



「色んな意味で骨が折れそうだが、多分いけるぜ!」



「それじゃあ、お願いするよ!!」



狼を牽制し、後ろに下がらせ即座にバンと2人で熊を攻め立てる。機動力で熊の攻撃を避けながら一突き、一突きと確実にダメージを与え、熊がコチラに気を向けた瞬間



「どっせぇぇぇえい!!」


ワンダフルラッシュの痛烈な一撃が熊を襲った。

勝てる!!その気持ちが僕を囃し立て不用意に前にでてしまった。熊はそれを読んでいたのか、最後の足掻きだと言わんばかりにその凶腕を振り下ろしてきた。



(し、死ぬ、、、)



景色全てがスローモーションになり、ゆっくりと時間が流れる。もうダメだ。そう思った瞬間



奇跡は発動した。



ゴゥ!!とあり得ないほどの強風が吹き荒れ

死に足を踏み込んだ僕を文字通り後ろに転がした。




「来た!アル!!立て!」



バンの言葉と同時に素早く立ち上がりもう一度だけ踏み込む。今度は腕の振りよりも早く、一瞬で確実に貫く!



「破ァァァァ!!」



最高速で繰り出された突きは見事に熊に突き刺さり大ダメージを与えた。しかしまだ熊は死に絶えてはおらず僅か張りの命の灯火がその目にあった。



「アル!槍から手はなせーー!!」



後ろからのバンの声にとっさにマーメイドフェスタを手放し後ろに下がる。バンはそれと同時にワンダフルラッシュの拳を熊に突き刺さったマーメイドフェスタに叩き込んだ。




「グォォォォォオ!!」



ワンダフルラッシュのサポートで熊を貫いたマーメイドフェスタの一撃により熊の魔獣は絶命した。



「まだ終わってないぞ!!次狼だ!!」



「わかってる!!行くよバン!!」



そうして2人がかりで狼の魔獣にも挑む。しかしながら熊の魔獣ほど、狼の魔獣には苦戦はしなかった。相性の良さもあったが1番初めに与えたダメージが尾を引いたのか狼自体動きに鈍さがあり、バンとの連携で暫くすると倒す事ができた。




「はぁ、はぁ、はぁ、なんとか倒せたな!」



「う、うん。ワンダフルラッシュが無かったら僕死んでたよ」



「いいって事よ!!アルが死なない事が俺にとっていい事だったんだ!!ほんと良かったぜ!!」



「ありがとう。ほんとバンの加護は凄いや」



ギリギリの戦いを終えた僕達はお互いを称え合った。父さん、母さん、マルス、村の皆んな、、、。

仇はとったよ。ゆっくり、ゆっくり天国で休んでいてね。



少しでも犠牲になった人に救いがあらん事を

僕は天に祈のる。神様、どうか皆んなをお願いします。



「こんな強い魔獣がいるなら、"先生"はマジで近くにいるのかもな、、、。」



落ち着きも取り戻してきた頃にバンがそう言ってきた。



「そうだね、、、もしかしたら本当に近くに"先生"がいるかもしれない。少し休んで万全の状態でもう一度探しに行こう」



「おう!」



強力な魔獣を退け、最後の戦いにむけて消耗した体力を回復する為に準備を始める。この戦いに、

この旅に決着をつける時はもうそこまで来ていた。





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踊るマーメイドフェスタ ナルスン @nnn1231

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