第9話 命を繋ぐ獣と発見




バンが友達になり、共に旅をして僕の心がだいぶ軽くっている様に思う。村を出て2日間1人ぽっちで"先生"を探していた時と比べると雲泥の差があった。



「アルー!!兎とったぞ!!兎!!!」



「バン!それどう見ても加護の獣でしょ!!

先生の心から生まれた獣なんて食べれないよ!!」



「言いたい事はわかるけどな、普通の獣にも心があるんだ!!それにこれを食べれば"先生"の気持ちがよりわかるかもしれん!!というか食料も少ないので食べるしかないんだよ!!」



バンと旅をしてもうすぐ20日ほどになる。その間に3つほど集落を見つけ"先生"の情報を探した。どの集落でも心の獣は出ており、申し訳ない気持ちで獣の事を話して謝ろうとしたが、バンがそれを止めた。



「それをするとお前がなくなるぞ。

情報は俺に任せて、その辺を探しに行って獣を倒してきてくれ」



そう言ってコミュケーション面はバンが補ってくれた。その事でお礼を言うと照れ臭そうに



「お前のせいじゃないんだから気にするなよ。

まぁ、そう言っても気にして謝っちまうのがアルなんだろうけどな、、。その辺は友達にまかせろや」



と言ってくれた。バンのおかげで僕たちは『突然現れた恐ろしい獣を退治してくれた旅のお方』として感謝され、少しだけでもと食べ物なんかを分けてもらった。本当の事を言わずに良いのかと思い、バンとその事で話した事もあった。



「良いのかな?感謝されるだけなんて、、、」



「アル、感謝の気持ちはもらっておいた方が良いに決まってるだろ!!本当に助けてるし、悪いことなんてしてないしな!!」



「でも、、、。」



「アルは責められる事で安心しようとしてるのかも知れないけどな、人の悪意ってのは怖いぜ。それこそ俺はアルに"先生"みたいになってほしくないんだ。この旅が終わってからもな、、、」



「バン、、、ありがとう」



バンの「旅が終わってからも」という言葉に助けられた。後の事なんて考えてもなかった僕は、自分で思っているよりも思い詰めていたのだとその時自覚した。全てを背負う覚悟はあったけれど心が耐えきれてなかったんだ。バンがそこをフォローしてくれた。バンがいてくれて本当によかった。



その話から一気にバンに心を開く事ができお互い気を使う事なく沢山のことを喋る事ができた。将来の事や旅の後のこと。僕は歴史をもっと勉強して、"先生"のように誰かに物を教えたいことや、バンはでっかい家に住んで美人な奥さんを見つけるなど話に花を咲かせた。



そして三つ目の集落を見つけた時、僕らはとんでもないものを見つけた。僕らの目の前に加護の獣の赤ちゃんが居たのだ。加護の獣と普通の獣の番が僕らからその赤ちゃんを守るようにこちらを警戒し、襲い掛かってきた。加護の獣をマーメイドフェスタを使い一撃で葬った後、僕は加護の獣の赤ちゃんを殺す事が出来なかった。



背負う覚悟をしたものの、番と赤ちゃんを守ろうとした加護の獣の心に混乱してしまったのだ。怒りと憎しみが産んだ獣が何かを守ろうとするなんて考えてもいなかった。だから混乱して殺せなかった。

いや、多分先生の心が産んだその小さな命を刈り取ることが嫌だったのだろう。



「もしかしたらこれから加護の獣みたいな強い獣が増えるかもしれねーな」



「うん」



「増えてもお前のせいじゃ無いからな!!獣が強くなるなら俺たちも強くなれば良いだけだ!!!」



「うん、、そうなのかな?きっとまた人が死ぬよ」



「そん時はそん時なんだよ。アルお前は神さまじゃ無いんだ。あの赤ちゃんを殺したく無いと思ったんならそれで良い!!」



「そっかありがとう」



そんな衝撃的な出来事があったせいかあれ以来バンは積極的に加護の獣を食べるようにしていた。



「いいかアル!?今に世の中は加護の獣が沢山子どもを産んでそればっかりになるぞ!あいつら強いからな!!弱肉強食だ!!」



「本当にそうなるのかな?」



「そうなるんだよ!だからこそ抵抗を無くさなきゃダメだ!それにこの化け物が心から生まれてるのは俺と俺の村のやつとアルしか知らないんだから俺らが慣れたらいいんだよ!!」



「すごい理論だね。でも本当に食べてみると普通の獣より少しだけ筋張ってるだけなんだよね」



「案外"先生"の心ってのは、もうとっくに抜けてるのかもしれないな。加護が上手く発動していなくて獣だけ生み出してるみたいな??」



「バンのワンダフルラッシュみたいに失敗する事があるのかな」



「多分そうだぜ!いやそれにしよう!!加護の獣っていう名前もよく無いな!!うーん化け物?禍々しい獣?禍獣??魔獣とかどうだ!?なんかそれっぽいだろ!!」



「うーん、、どうかな??」




「決定!あいつら魔獣って名前にしよ!!」




「強引だなぁ」



そんな馬鹿みたいな話をしながら僕らはまた村を発見した。そこは他の村よりも魔獣の被害が多くどこの畑も家もボロボロになっていて住民も怪我などで疲れ切っていた。



「大丈夫ですか!?」



「おい、お前ら平気か!!」



バンとともに村に急いで入り怪我人を運び出来るだけ食料を分け与えた。どうやら話しによると2日前に男がこの村を訪れたときに恐ろしい獣が突然現れ、男は狂った様に笑いながら近くの山の方に消えたらいし。きっそそれは"先生"だ!そう確信した。



「こんな所にも沢山魔獣がいるなんてな」



「あ、あの化け物をしっているんですか!?」



「あぁ、普通の獣より強くて賢い。名前は魔獣って言うんだ。俺たちはその脅威を打ち払うために旅をしている。森に消えた男のことを詳しく教えてくれないか?」



バンはそう村の人に聞き、情報を貰っていた。その間に村の周りの魔獣を何体か仕留める事ができたのでこれで少しは村の人も安心できるだろう。



「アル!どうやら森にある洞窟のほうに"先生"らしき男がいるみたいだ!!その方面から魔獣が出て来てるって村の皆んなが言ったたぜ」



「森の方か、、、」



バンの言葉を聞いて体があの夜のことを思い出したのか少し震えた。怖気付いたのかあの夜の恐怖が鮮明に蘇る感覚に体がふらつき、意識がどこか遠く暗い所に向かう。これは良くない感覚だ、、、



「大丈夫かよ!!」



バシンと両肩に落とされたバンの両手で僕はなんとか意識をこちら側に戻す事ができた。じっと僕の方を見据えるバンに僕は目を合わす事ができなかった。



「ご、ごめん ありがとう」




「怖いのか?アル??」




「そ、そんなこと、、、」



そんな事はないと言うとして言い淀んでしまった。

僕はたぶん怖がってしまっててる。戦うのを。

"先生"じゃなくなっている先生と会うのを。

あの恐ろしい魔獣達を、迫り来る死の感覚を。

いざとなったらこんなにも勇気が出ないないて、、、決着をつけると言いながらなんて情けないんだ僕は。



「怖くていい!!」



「え?」



ただ、ただ高らかにバンは喋りづけた。



「アル、怖いのなんて当たり前だ。俺だって怖い!!でもなお前がいれば怖く無いぜ!!だからなアル!!俺がいるから怖がんな!!マーメイドフェスタにワンダフルラッシュがあれば負けねーよ!!」



「怖くていいのか、怖がっちゃダメなのかどっちなのさ」



バンド言葉にふと笑いが込み上げてさっきまで体の硬直が嘘の様にリラックスできる自分がいた。怖くていいけど怖がるなか、、、。バンらしい言葉だな。



「バンありがとう!僕は今もう一度覚悟ができたよ!!だからついて来てくれるかい??」




「あったりまえだ!!」




もう一度、出会った時の様にガッチリとバンと握手をかわし、お互いの気持ちを確かめ合った。

森に"先生"がいるかもしれない。きっといる。

決戦は準備をしっかりと整え、万全を期すために

明日にする事になった。"先生"僕ここまで来ました。待っていてくださいもうすぐあなたを救います。









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