第5話
「うわっ!」
ベットから飛び起きて、慌てて周囲を見渡すも、そこには何らいつもと変わらない光景が広まっていた。
窓から朝日が差し込み、小鳥がさえずっている。
「夢……か……」
そう口にして、目の前に広がる光景が現実であることを確認する。
確かに、ここは僕がよく知る世界で、僕がいつも使っている部屋だ。
確かにそうなのだけれど、何となく、違和感があった。
それは、僕の体の感覚に対しての違和感だったと思う。
普段では考えられないくらいにシーツを濡らす汗の量。
今もなお心臓を躍らせる、熱く、高揚するようなイメージと全能感。
確信があった。
夢を見る前の自分と、夢を見た後の自分。
それらは全くの別物で、僕の中で何か、絶対的な変化があったと、そう思えて仕方がなかった。
そうして、僕の頭の中に鳴り響く、謎の言葉。
これは、あれだ。
もう、あれしかない。
ついに、僕にも“祝福”が宿ったのかもしれない。
それを考えると、心臓がバクバクと鳴り、興奮で脳が焼き切れるくらいに熱くなった。
やった……やった……ついにやったんだ……
神様は、僕を見捨てていなかった。
興奮しすぎて視界がクラクラし、思わず気を失いそうになる。
深呼吸をして、落ち着け、落ち着けと何度も自分に言い聞かせた。
少しでも記憶が鮮明な内に、確認しておきたかった。
僕が、どんな祝福を授かったのかを。
恐る恐る、掌を胸の前に出し、ゆっくりと、頭の中に鳴り響く言葉を唱える。
「ホ、ホレイル……」
夢の中で、光を掴んだ瞬間に浮かび上がった謎の言葉。
それを唱えれば、僕の目の前に“祝福”が現れて。
今までの全てを無かったことにして、僕のこの尊大な劣等感すらも塗り替えて、僕を、新しい僕へと生み変えてくれるはず……なのに。
なのに、いつまで経っても変化は起こらず、僕も、そして部屋にある何もかもが、あの言葉を唱える前と後では何も変わらなかった。
あ……あれ、おかしいな……も、もう一回!
しかし、何度唱えても、結果は変わらず。
そうして僕はまた、昨日と、いや、いつもと変わらない絶望と劣等感への渦の中へと引きずり込まれていく。
あぁ……やっぱり僕の勘違いだったか……
そりゃそうだ。
今までだって、何度も何度も祝福が欲しいと祈ってきた。
それでも祝福が授けられる事なんて一度もなかったのに、昨日の夜だけが特別なはずはないだろう。
大きな溜息をついて、クローゼットを開いて着替えを取り出す。
相も変わらず、虚弱で無能の能無しレイドの一日が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます