魔法少女……じゃねーよ!
私は黒いフード付きのコートを折り畳み、深呼吸した。
何故こんなに緊張しているかというと、コートを脱いだ自分の服装があまりに痴女だからだ。
上半身は水着のようで下着に近い素材で出来た、肩紐なしのブラジャーだけ。
胸の真ん中には大きなリボンがあり、そこにチョコをしまっているが、上乳とおへそは隙だらけだ。
上腕には羽付のシュシュのようなものを付けている。
下半身は激しく歩けば、即パンチラしてしまうほど短いフリルのついたスカートだ。
こんなエロい格好してるとか、あのアニメ朝からやって苦情来ないのか?
「ニャー」
暗い夜道に雷が落ちたように、鳴き声が耳にスッと入った。
私は即座にコートを着直し、周囲を確認した。
落ち着けって私、人通り無くなるの待って脱いだんじゃないか。
今のは猫だし、問題ない。
よし、私がこんなコスプレしてチョコあげるんだ。
喜ばなきゃ殴り飛ばしてやらー!
私は先生に志波の住所を聞き出し、彼の家の前へ向かった。
今このインターフォンを押せば、彼が現れる。
そう思い、意を決してボタンに触れたが押し込む力が入らない。
今気づいたけどさ……これ押したら志波の親が先に応対するんじゃね?
私はそれから数分、立ち尽くした。
あれこれ考えたが、あいつの親にこの格好を見せるのは宜しくない。
ていうか、変質者扱いで通報されかねない。
となれば、残る手段はスマホでメッセージ送るしかないか。
うーん、このメッセージはかなり重要だぞ私。
もし誤解されるようなこと言ったら、今度こそ取り返しが付かない。
「魔法少女ミミ、あなたのお家の前に参上! 出てきてくれないと、お仕置きよ」
私はコスプレしているキャラになりきった文を書いてみた。
パシャリと写真も撮って、このメッセージと共に送ろうという算段だ。
もう恥ずかしいメーターは張り切っており、顔は熱すぎてぼーっとしてきた。
この送信という文字をタップすれば、志波にメッセージが届く。
今度こそ意を決し、深く息を吸う。
よし……押す!
「轟響子……だな?」
送信された直後、背後から誰かが話しかける。
餅を食べていたら確実に喉に詰まらせていた。
というレベルには、息が止まる。
自分の手指は完全に意識外で動き、送信を押下後に何故かスマホ画面は通話モードに切り替わっていた。
誰が邪魔したのか?
振り返ると見覚えがある顔があった。
「田中!?」
中学時代の金ずる相手だった男だ。
恰幅が良かった彼は、再会するとさらに破裂間近の風船のように膨張していた。
何故こいつがここにいるのか、というかよりによって知っているやつにこんな格好しているとこ見られるなんて!
「こいつだ……やれ!」
田中は突き刺すように私に向かって指を向ける。
その掛け声と同時、彼の背後の黒いバンがガコンと音を立てた。
スライドドアが開きぞろぞろと数人が現れ、驚く私の周囲を取り囲んだ。
「誰かたす……んぐっ」
理解した時には既に遅く、口にタオルを含まされた。
足や手も拘束道具を使われ、立ち待ち動けなくされる。
落ちたスマホを拾い上げられず、バンの中に押し込まれる。
「やった……成功だ!」
田中はブヒブヒと高笑いし、車の中を明るくした。
視界に車内の光景が鮮明に見えるようになると、次第に私の心は恐れで満たされていく。
こいつら、舞たちがトイレで話ししていたあいつと同じだ。
恨みを持って、復讐しにきている。
恐らく捕まることなんて関係なく、私にやり返すことだけが彼らを突き動かしているんだ。
「大人しいな轟……前は偉そうで見下していただろ? あれか、ビビりなのかもしかして」
田中は真顔で眼前に接近し、臭い息でそう言い放った。
反論したくても声が出せられず、ただ涙目になった顔で睨むことしかできない。
「そんなに喋りたい? じゃあ口のそれ、外してあげるよ。その方がこれからすることも……興奮するからね!」
田中がそういうと、後ろの男たちもニヤニヤとざわつく。
「DQNギャルって聞いてどんな奴かと思ったけど、コスプレ女だったとはな」
「でもさ、結構可愛くね? 田中についてきてよかったわ」
こいつら、わかっていたけど完全にレイ◯する気。
嫌だ、こんな連中にヤラれるなんて。
私は口が自由になった瞬間、できる限りの声量で叫んだ。
「志波助け……」
そう口にした直後、胸がチクッと金属の鋭い何かが触れる。
「田中……お前!」
誰かが驚いた反応をして気づいた。
私の胸に、ナイフが突き刺さっていることに
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