ギャル魂......じゃねーよ
「あっそ! もう、早くリードして!」
顔を背け、私はそう言い放った。
こんな奴に2度もペース乱されるとは。
やられた分仕返しじゃないが、プランが失敗するたびめーっちゃ笑ってやろう。
「は......っはい!」
志波は背負っていたリュックを降ろすと、焦りながらくしゃくしゃになった紙を取り出す。
うへぇ、デートプランぐらい覚えてこいよ。
ていうか紙じゃなくて、スマホにメモすればいいのに。
彼の奇怪な挙動を観察していると、次第に顔の熱が収まっていった。
志波の奴、よく見るとなんていう恰好してるんだ!
いつもの前髪長いのはいいとして、いや良くないんだけど。
サイズのあってないダボパーカーとジーンズってダサすぎだろ。
おまけに靴が俊足みたいな奴!
志波、それがお前のデート服だというのか。
あぁ、ギャルのプライド的にこのダサい男と歩くのだけは辛坊たまらない。
「志波、一旦服買うにいくぞ! 後ついでに髪も」
「えっ!? リードは僕がっ」
私はまたしても彼を強引に連れ回し、美容室と服屋に向かった。
美容室に志波をぶち込み、とりあえずセンターパートに仕立てる。
「よし、次は服買うぞ!」
「でも轟さん、僕には似合わないですよきっと。この髪もキモいでしょ?」
美容室を出てすぐ、彼は毛先を見つめてそう言った。
「キモい? あのね、志波のさっきの恰好って適当に着て来たでしょ?」
「う、うん」
「やっぱりね。いい、デートって言うのは志波と私でするものなの。だから、相手のことを考えた服装で来なきゃダメなの」
「でも、考えた服装だって絶対ダサいと思う。僕、服装のセンス分からないし」
しまった、少し言い過ぎたか。
「志波、私はちゃんと私とデートすることを考えて着た服装なら別に構わないよ。ようは、気持ちの問題だし」
「そうか、気持ちの問題。じゃっ......じゃあ轟さんも僕のこと考えて......その」
ん?
あれこれ言い方間違えたかな?
まじでダサいから言っただけなのに、これじゃ私が志波のこと好きだからこの服装したみたいになってるじゃん。
うーん、もういちいち軌道修正するの面倒だな。
まぁいっか、そういうことにして。
私は脳死でグッジョブし、彼と共に服屋へ辿り着いた。
「うん、まぁダサくはないかな」
上下無地だけどちゃんとサイズ合ってる。
オシャレという訳でもないが、欠点はない。
ふー、いい仕事したなぁ私。
深呼吸しながら手を伸ばしていると、彼はまだ恥ずかしいのかもその場でもじもじしていた。
まぁギャル魂に引っかかったからって、強引すぎたかな?
しょーがない、彼のデートプランというやつも少しリードしてやりますか。
「志波、紙渡しな」
そういって手を出すと、彼も呼応するようにこちらに腕を伸ばした。
しかし、直前で紙を強く握り締める。
引っ込めた彼は、キリっと目を鋭くした。
その姿にキレるのではないかと、「ひっ」と思わす声が出る。
「僕も、轟さんのことちゃんと考えたい。もう一度、リードさせてくれませんか?」
力強い眼差しと、今まで一度も見せたことがない気迫。
その全てに私は圧倒され、先導して歩く彼の背中を数秒ほど放心するように眺める。
何が彼の中で覚醒したのか知らないけど、ビビった。
いや、このビビリは恐怖で押し寄せたといよりもっとこう武者震いに近い。
あーそっか......私が相手のこと考えろって言ったから。
志波はじゃあ、さっきよりもっと私のことを考えたのかな。
本当は私の方が、このデートで自分本位をしようとしてたんだけど。
なんか、あいつに負けているようで屈辱!
よし、私も仕方ないからデートちゃんとしてやる!
「志波、置いてくなよ! てか、どこ行くつもり?」
私は彼の手を握り、笑いかけた。
フフフ、照れてる照れてる!
プラン失敗したのを笑うのもいいけど、こうやって照れさせる方が面白い。
「もももちろん、秋葉といえばまずはケバブでしょ」
「へぇ、いいじゃん!」
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